本日は旧暦十二月十七日。師走、雉はじめて鳴く。
平成十八年歌会始より詠進歌。御題は「笑み」。
召人 森岡貞香
やはらかき
春の日差しに
笑まふなる
小さき草の
花見むと思へや
選者 安永蕗子
春の雪
ましろに降れば
火の山の
阿蘇の煙も
笑むがにゆらぐ
選者 岡野弘彦
天の戸を
あなおもしろと
分け出でし
神の笑まひに
世はまかがやく
選者 岡井 隆
辿り来し
道のはたての
雪明かり
おのづからわが
笑みて立つべし
選者 篠 弘
春の日に
わらわらゑまふ
伎楽面
呵呵大笑を
聞くごとくゐる
選者 永田和宏
笑ふ兎
笑ふ蛙や
ほうほうと
鳥獣戯画に
秋風の立つ
選歌(詠進者生年月日順)
徳島県 藤川浅太郎
鏡見て
笑ふ稽古を
するといふ
仕事であれば
きびしからむか
福井県 武曽豊美
宇豆賣舞ひ
どよめき上る
笑ひ声
天の磐戸は
開かれにけり
山口県 中西輝磨
面白き
ところを読みて
ゐるならん
本を読む子の
目が笑みてゐる
鹿児島県 福満 薫
おほどかに
笑みこぼしゐる
田ノ神を
水にうつして
田植ゑ始まる
東京都 醍醐 和
子どもらの
ましてや老いの
笑まふ顔
ひとつもあらず
古きアルバム
高知県 安光セツ子
われ笑めば
母も笑まひぬ
おほかたの
過ぎ来し日々は
忘じ給ふに
茨城県 出頭寛一
赤とんぼ
群れ飛ぶ秋の
まん中へ
母の笑顔を
押す車椅子
東京都 松本秀三郎
定年の
日に水族館を
訪ねきて
えひの微笑み
見上げてをりぬ
岡山県 岩藤由美子
ぎこちなく
笑ふことから
始まれり
仲直りせし
朝の食卓
東京都 桧山多代
電話鳴り
出るたび笑みが
こぼれだす
まだ言ひ慣れない
あなたの苗字
佳作(詠進者生年月日順)
大阪府 栗山三郎
耳遠き
われは談笑の
中にゐて
おくれて笑ふ
声なき笑ひを
奈良県 谷口光明
ひたすらに
子等の笑顔に
会ひたくて
保育所へ行く
車椅子われは
東京都 奈良孝男
永かりし
冬にてありし
がやうやくに
結露絶えしと
妻はほほ笑む
静岡県 桑原安之助
薔薇園に
ひかりは溢れ
うら若き
車椅子のひと
微笑みつつ来
ブラジル国サンパウロ州 青柳ます
幸せに
生まれしものよ
乳たらひ
眠りながらも
みどり児は笑む
新潟県 宮田義平
復興を
あらたに誓ふ
村まつり
神に供ふる
笑みし毬栗
北海道 中井君次
振り分けの
荷を負ふ我を
笑ひつつ
弱視の妻が
手を引きくるる
兵庫県 加島清子
笑み忘れぬ
ナースでありしと
思ひつつ
今日をかぎりの
白衣を脱ぎぬ
秋田県 小林絢子
「次の世も
ペアを組まうか」と
病む夫が
笑みて言ひしを
今日の幸とす
兵庫県 高井忠明
ねだりたる
昆虫図鑑
抱きしめて
幼は笑まふ
書店主われに
宮城県 山崎正博
濃きうすき
ゑまひの影の
あたたかく
地蔵並べり
木もれ日の中
愛知県 大川内早恵子
噴水の
ある公園を
駆けぬけて
君の笑顔が
待つ場所に行く
三重県 西井常與
長生きは
笑へば叶ふと
講師言ひ
三百名は
ともに笑ひき
大阪府 川阪友未
お母さん
すぐおこるけど
すぐ笑ふ
でもまたおこる
そのくり返し
平成十八年 一月十六日
ザ・スミス「肉食は殺害」を聴きながら