2007/04/01(日)07:06
瀬戸内 シーカヤック日記: あるくみるきく、家船の島を訪ねて、豊島訪問_その1
この週末は、『あるく、みる、きく』をテーマに、家船(えぶね)で有名な『豊島』を訪問することにした。
この豊島は、蒲刈と大崎下島との間にある島で、瀬戸内横断隊の航行ルートであるとともに、私が年に何度も通う、蒲刈から出発して岡村島へ向うツーリングでは、必ず通る島である。
今回『豊島』を訪れる事になった切っ掛けは、海洋ジャーナリストであり、また『瀬戸内横断隊隊長』でもある内田正洋さんからの一本のメール。
そのメールには、『甦る海上の道・日本と琉球(谷川健一)』の中で、最後の家船の島として、横断隊でいつもすぐ近くを漕いでいる 『豊島』 の漁民が紹介されている事、そして、その豊島の家船の人達は 『ほとんど日本最後の漂海民であり、彼らをリスペクトして、その文化を後世に伝えねばならん』 との熱き思いが綴られていた。
宮本常一の『私の日本地図』などにも記載があるように、豊島の家船文化は、本で読んで知ってはいた。
その本には、豊島の他にも、三原の能地、竹原の二窓や尾道の吉和などにも家船があったと記述があり、なんとなく、家船は昔の話しだろうと思っていたのだが、調べてみると、どうやら今でも残っているらしい。
『あるくみるきく_旅するシーカヤッカー』としては、これはいかねばなるまい!
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豊島の家船について調べている過程で知り合った、豊島にゆかりのある方から教えていただいたのが、『家船の民俗誌(金柄徹、東京大学出版会)』
この金さんは、家船を調べるために豊島に一年以上住み込み、家船に同乗して漁にも出掛け、その貴重な記録を本にまとめられた方である。 この本を読んで家船のことを学びつつ、豊島にゆかりのある方々とのやりとりも続く。
そして、その中の一人の方から、時間が合えば案内してあげようという、うれしい提案をいただいた。 ありがたいことだ。
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土曜日、ペリケースに『フィールドノート』と『家船の民俗誌』を詰め込み、バスで蒲刈の大浦港へ行き、豊島行きのフェリーに乗り込む。 どきどき、わくわく。
港で待ち合わせていた初対面の地元の方に挨拶し、まずはクルマで案内していただくことに。
島を一周する道路を走りながら、漁家で育ったと言う、その方の子供の頃のお話を伺う。
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その方の家も、家船で漁をしておられたとのこと。 当時は、家船で豊後水道や、遠くは和歌山の方まで遠征しておられたそうだ。
この豊島の漁民達は、愛媛、大分、五島列島、対馬。 そして遠くは和歌山、鹿児島、伊豆の下田、能登半島、山口県の角島。 さらにはフィリピンの方まで遠征したとの言い伝えが残っているとか!!!
親達が漁で和歌山の方に行っている時、夏休み、春休みなど学校が長期休暇の時期になると、船団の中の一人が、陸路、子供達を迎えに来ていたとの事。 当時は豊島から広島の宇品まで行く船があったので、子供達はそれに乗って広島まで行き、国鉄で和歌山に移動して、親の船に乗り込んで休暇を一緒に過ごしたと言っておられた。
そして夏休みなら、和歌山まで行った後、お盆には家船で家族一緒に豊島に帰って来ていたそうだ。
その他、太刀魚の餌として『ドジョウを使っていた事』、『ドジョウは瓶に入れて活かしておくのだが、その時に唐辛子を入れておくと活きが良かった事』、『小さい船で豊後水道に行っていた頃には、船が揺れるので、漁の時には長い木の棒を船の横に張り出させて安定させていた(!)こと』などの興味深いお話を伺う。
シーカヤックでも、海の上で休む時にはパドルの片側を海に浸けておくと安定性が増す。 『シーカヤッキング(ジョンダウド)』にも、『フローティングパドルブレース』として紹介されている方法の一つである。
『それって、カヌーのアウトリガーみたいなものですよね!』
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クルマは、島の頂上にある静かで眺めの良い展望台へ。
ここは良い! 静かで、しかも瀬戸内の眺めが堪能できる最高の場所である。
瀬戸内の島々を眺めながら、見える島々のお話を伺う。 『へえ、そうなんですか』 『たしかにそうですよねえ』 『そんなこともあったんですねえ!』
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山から降りる途中も、興味深いお話をいろいろと伺う事ができた。 この方も、幅広くかつ深い引き出しを沢山持っておられる、凄い人である。
昼からは用事があるとのことで、漁港の近くまで送っていただき、お礼を述べてクルマを降りる。 お忙しい中、見ず知らずの私を親切に案内していただき、ほんとうにありがとうございました。
今後とも、よろしくお願いいたします。
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家船が係留されている港の近くをしばし散策。 おばさんたちが、テングサを干しながら話しをしている。
『こんにちは、これはテングサですよね』 『そうよ』 『今日は、この本を読んで、豊島に来てみたんです』 『家船ねえ、昼からは漁師さんらが浜に出て来るけえ、聞いてみりゃあええわ』
『そうですか。 じゃあ先に、えびすさんにお参りに行ってきます』
正月には漁師さん達がお参りに行くと言う『エビス神社』へお参りする。
これまで訪ねた神社と違って、旗を揚げるポールがたくさんあるのが特徴。 祭りの時には、大漁旗が掲げられるのだろうか。 さすが、本格的な海洋民の漁師町!
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再びおばさんたちの所へ戻り、『ここらへんで、どっか昼飯が食えるところは在りますか? 食堂とか』と私。
おばさんは、『あるよ、あっち』 『そっちに帰るけん、つれていってあげよう』
『ありがとうございます』
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教えていただいたのは、島のお好み焼き屋さん『マリちゃん』 うーん、これはストライクゾーンど真ん中の店である!
あるく、みる、きく、豊島編。 その2に続く。