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瀬戸内シーカヤック日記

瀬戸内シーカヤック日記

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April 15, 2007
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カテゴリ:あるくみるきく
SUNTORY SATURDAY WAITING BAR 『AVANTI』 シーカヤックで渡った瀬戸内の静かな島で、海を眺めながら聞く事もある、私が大好きなラジオ番組の一つである。

ただ、残念ながら私が住む地方都市の田舎町では、こんなに洒落たウエイティングバーは、おそらく無いだろう(飲むのはほぼ100%家か、島の浜なので、私が知らないだけなのかもしれないが)。

だが、ちょっと耳を傾けてみたくなるような、とっておきの話しを聞く事ができる場所は、こんな田舎町にもあるのだ。

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***

日曜日の午後。 自転車で出掛けた町で買い物を済ませ、久し振りに遠回りをして帰る。
道路を横断するための信号待ちで、ふと横を向くと、どこかで見た顔が。

『あ、こんにちは!』 『おお!』
自転車に乗ったその人の前カゴを見ると、風呂セットが入っている。
『風呂。 今から行かれるんですか?』 『おお、そうよ。 あんたも行こうや!』 『そうですね。 じゃあ、一旦家に戻ってから行きますよ』 『じゃあ待っとるわ』

***

いつも行く銭湯の常連さんで、顔こそ知っているものの、名前も歳も知らない方に、『風呂に行こうや』といって誘っていただけるありがたさ。 本当にうれしい事である。

自転車を飛ばして家に帰り、家族に、『今から風呂に行くことになったけん』
『どうしたん?』 『いやあ、帰る途中で銭湯の常連さんに出会うて、風呂へ行こうやゆうて誘われたんよ。 じゃけえ、ちょっと行って来るわ』

家族は顔を見合わせて笑いながら、『そりゃあ良かったねえ!』

***

いつもの銭湯。 服を脱ぎ、浴場へ。 『こんにちは。 来ましたよ!』 『おー、早かったのお』 『ええ、近いですからねえ』

『あっちに住んどられるんですか?』 『そうよ』 で始まり、四方山話に花が咲く。

***

体をザッと流すと、いつものようにまずは普通の風呂で体を温め、お気に入りのスチームサウナへ。 ここでも、常連さん達が話しに花を咲かせている。

『ありゃあ大きい大砲じゃったよ』 『そりゃあ、本物ですかいの?』 『ほうよ。 ぜんぶ本物じゃ。 あんまりあの船が大きゅうて、廻りの戦艦が、巡洋艦や駆逐艦に見えるほどじゃった』

これはまた興味深い話し! ではちょっと、スチームサウナの隅におられる、あちらの常連さん達の話しに、耳を傾けてみる事にしましょうか。

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***

『そりゃあ大和の事ですか』
すると、『ほうよ。 ちょうどあの頃、近くで新兵訓練を受けよったんじゃ』

『秘密じゃったけえ、だれも大和じゃとは教えてくれんかったけどの。 ほんまにおおけな戦艦じゃった』
『戦艦は、砲塔から作るんよ。 えらいおおけな砲塔じゃのう、と思いよった』 『そうなんですか。 砲塔から作るとは知りませんでした』

『厳しい訓練でのお。 バレーボールの試合で負けたら殴られ、銃剣道の試合で負けたら殴られ。 自分が出てのうてもじゃ』
『便所に隠れて、旨いもん食うのが唯一の楽しみじゃったよ』 『食事の時に上官が気に入らん事があるじゃろう。 そうしたら自分が食うたらテーブルクロスを引っ張って、料理を全部ひっくり返すんじゃ。 厳しい訓練で腹は減っとるし、床に落ちた料理を食べたら殴られるし。 ほんまに情けなかったし、きつかったのお』

***

その後、風呂に入ったり、脱衣所でTVを見ながら休憩したり、水風呂に入ったりして、再び風呂でおじいさんの横へ。

『戦争のときは、船でサイパンやトラック諸島(チューク)、マーシャル諸島、そしてグアムへも行ったよ』 『そうなんですか! 私もミクロネシアのポンペイ(ポナペ)とトラック(チューク)へ行った事があるんですよ』

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『トラック諸島には、夏島とか春島とかありますよねえ』 『そうそう。 あそこは廻りに環礁があるけえ、大きな戦艦は入って来れんし、そこから艦砲射撃しても島まで遠いから、割と安全で良かったよ』

『南の島での生活はどうでしたか?』 『どうもこうも、戦争中じゃけええ事はないよ。 飯も、小さい芋を毎日一個だけ』
『ミクロネシアでは、ナマコの腸を餌に魚を釣りよった現地の人を見ましたが、海で魚とか獲らんかったんですか?』 『あんたあ、戦争中じゃけ、空は敵の飛行機が飛びよるし、ジャングルからでらりゃあせんよ』 『そうなんですか。 そりゃあそうですよね』

『マーシャルはどうでした?』 『トラック諸島なんかと違うて、ぜんぜん島が小さいんよ。 隠れるようなジャングルもないし。 厳しかったのう』

そう、当時は戦時中。 同じミクロネシアでも、私が遊びで南の島へ行ったのとは、状況がまったく違うのだ。

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***

『ヤシ酒ゆうてあるじゃろう。 椰子の木を切ると、甘い樹液が出る。 それが幹の穴にたまるんじゃけど、暑いから発酵して酒になるんよ』
『海に入っとって、遅延爆弾が海中で爆発したら、凄い衝撃なんよ。 ○○がつぶれるくらいの衝撃じゃ』
『いやあ、戦争が終わった言うて聞いて、助かったと思うたよ。 相手はレーダーも使うとるし、技術も武器も、ほんまに勝負にならんかった』
『みんな、栄養失調で腹が異常に出とった。 毎日小さい芋一個じゃったのに、米兵が牛缶を出して、どんどん食べえ言うてくれるんじゃ。 それまで栄養失調じゃったもんが、一気にそういう物を食べて、それが原因で死んだことも多かった。 ワシはケガして動けず、あまり食べれんかったけ助かったんじゃ』

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浴槽に並んで座り、80歳半ば近いと言うそのおじいさんの、貴重な経験を聞かせていただいた。
『いやあ、やっぱり凄く大変な時代だったんですねえ』

***

風呂から上がり、体を拭いていると、そのおじいさんも上がってきた。
『今日は、貴重な話しを聞かせていただいて、本当にありがとうございました』

おじいさんは、体を拭くと脱衣所の台に腰掛け、私に横に座るようにと促す。 『戦争が終わって、南方から引き揚げてきて、商売を始めたんよ』

『にいちゃんよお、お金は、ここぞ!いうとこでしっかり使わんとだめよ。 使う所に使ってこそ、それ以上に帰って来るんじゃ』 『わしゃあ、ほんま、ようけ遊んだわい。 仕事して、遊んで。 今でも元気よ』

『いやあ、戦争中の厳しい訓練と言い、南方での厳しい戦況を生き抜いてきたことといい、おじいさんは運も良いし、生命力が強いんですねえ』 『ほうじゃのう。 確かに運もええし、体が丈夫なんは20歳の頃に新兵で鍛えられたことも効いとるんじゃろう』

『あんた、若い頃にええ趣味を持った方がええよ。 悪い趣味はだめじゃ。 俳句なんかは年寄り臭うなるからやめといた方がええかもしれん。 ええ趣味を持たんとだめよ』
『女には良うしちゃらんと。 そしたら向こうも分かって応えてくれるよのお』
『お金は使い方じゃ。 貯めるだけじゃだめよ。 ここぞ!いうときに使わんと』

***

『本当に今日はありがとうございました。 楽しかったです。 ほんまにええ勉強させてもらいました。 また、ぜひ話しを聞かせて下さい』 『じゃあまたの』

地方都市の、そのまた田舎町にある小さな銭湯。 だが、そこは 『AVANTI』 にも引けをとらない、ちょっと耳を傾けてみたくなるような話しを聞く事ができる、とっておきの場所なのである。





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Last updated  April 18, 2007 05:11:05 AM
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