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今日も他人事

艦これSS「ただ勝利のために」



提督はブリーフィングルームに主だった艦娘達を集めた。
参謀格の大淀をはじめ、秘書艦の扶桑、調練統括の長門、輸送統括の龍田、航空統括の赤城、水上統括の金剛、それにドイツからの客将にあたるビスマルクがいた。
提督は8月に予定されているAL/MI作戦の概要について説明した。説明が終わった時、赤城がMI作戦ですか、と小さく呟いた。

「提督はこの作戦に賛成なのですか?」
「赤城は反対なのか」
「AL方面への侵攻に深海棲艦が乗ってくるでしょうか。最悪の場合、こちらは戦力を分散することにしかなりません」
「これまでのデータから深海棲艦がこちらの陽動に反応する公算は極めて高いと想定されます。
 もし、反応しない場合でもMI作戦に支障がないように投入する戦力は主力艦隊の1/3までを限度とします」

大淀は手元の書類をめくりながら冷徹な口調で説明した。赤城は何か言いかけたが、それを止め黙って頷いた。

「この作戦は難しい。だが巧くいけばMI方面に集結した敵艦隊を撃滅し、深海棲艦の戦力を大きく削減できる。
 赤城の不安も分かるが、この作戦は何としてもやり遂げなければならない」

提督はそう言ったが、本心からこの作戦に賛成しているわけではなかった。ただ、この作戦は大本営の肝煎りなのだ。
艦娘達の活躍により、各方面の制海権はすでに掌握しているが、それで全ての決着がつく訳ではない。
深海棲艦は亡霊のように各地に出没し、散発的なゲリラ戦を仕掛けてきている。
当然、輸送船には護衛艦隊の艦娘が張り付いているが、深海棲艦は犠牲を意に介さず、次々と奇襲攻撃を繰り返してきた。
云わば蚊に刺されたようなものだが、十数度にわたる襲撃を受けて、次第にその被害も蓄積され、馬鹿にならなくなってきた。
業を煮やした大本営は深海棲艦の主力艦隊を撃滅するために本作戦を企図、指示してきたのだ。

「いずれにしろ、作戦の為にはできるだけ練度の高い艦娘を一人でも多く確保しておく必要がある。
 赤城、機動部隊の方はどうなっている?」
「それは順調です。飛龍、蒼龍の二次改造も完了していますし、翔鶴も同等の練度を保持しています。
 新型艦載機の性能テストも予定通りの成果を得られています」

赤城は以前から機動部隊の設立を提案していた。
一隻の防空専任空母と二隻以上の攻撃用空母を主力とし、高速の水上艦をその護衛に当てるのだ。
従来、鎮守府では空母を防空および偵察を主任務とする補助的な戦力として動員していた。
それは空母の脆弱さと火砲の絶対数の確保という理由からであった。

だが、先のピューコック諸島攻略作戦で確認された弾着観測射撃の威力は、制空権の確保の重要性と火砲の削減が可能であるという事実を明確にさせた。
また、制空権を確保することでより効果的な先制爆撃を行うことができ、自軍艦隊への被害の削減にもつながるという利点も考えられた。
レ級をはじめとする高性能の深海棲艦に対抗するための新しい戦い方を模索していた提督はこの機動部隊構想の実用化を推し進めてきた。
そのために、貴重なボーキサイトを集中的に確保するように龍田にも指示を出してきたのだ。

「あとは水上戦力か。那珂、天津風、大井。この三名の調子は?」
「もう少しデース。神通がみっちりしごいてるから、作戦までには第一線に投入可能だヨ」

金剛は自信たっぷりな口調で答えた。
ニホン軍の調練の厳しさは伝統と言ってもいい。特に砲雷撃戦は神通、航空戦は加賀がずば抜けている。
疲労で倒れる艦娘が度々出たことから、一度、提督は神通に加減するように示唆したことがあった。
だが、その時、神通は毅然とした態度で首を横に振った。

「違います。提督。調練だからこそ、限界まで厳しくすべきなんです。
 調練では実弾で死ぬことはありませんし、倒れてもすぐに看護できます。
 何より実戦では限界を超えて戦わなければならない時があります。
 いざというとき、死力を尽くして戦う為に、自分自身の限界を体で覚える必要があります」

普段とは打って変わってはっきりとした口調で神通はそう答えた。
神通のやり方を長門も金剛も認めているのだ。提督はそれ以上の追及を止めた。
実際、死すれすれの調練を超えた艦娘達の動きは見事としか言いようがなかった。
同規模の艦隊よりも素早く動き、乱戦の中でも的確に攻撃を仕掛けることができるのである。
提督は席を立つと、一座をぐるりと見渡した。

「今度の作戦は今までにない規模になる。
 作戦決行までに残された時間の中で、できるだけ準備を整えよう。
 大淀は深海棲艦の動きを逐次報告してくれ。
 龍田はボーキサイトの貯蓄に引き続き注力してほしい。
 長門は艦娘全体の練度向上を目指してくれ。
 赤城、金剛、ビスマルクは各戦隊の引き締めを頼む。
 以上だ。解散」



「打てる手は打った、が」

提督は海を見つめながら呟いた。
夏である。昼下がり、まだ日差しがきつい。
空は澄み渡るように雲一つないが、それを喜ぶ気持ちも湧かない。
汗に塗れた襟を正しながら、提督は日陰を離れて歩き始めた。

来るAL/MI作戦に備えて、提督と艦娘達は準備を推し進めてきた。
新型艦娘を配備・育成し、燃料や弾薬も蓄え続けた。
なにより正式空母の艦娘を三人も新たに鍛え上げ、機動部隊の実用化にまでこぎ着けたのだ。

やれることは全てやった。
それでも、提督の胸中には不安が募っていた。
まだやれることが、すべきことがあるのではないか。
だが、それが何なのか見えてこない。

「赤城にはああ言ったものの、一番、迷ってるのは俺なのかもな」

ぼやきながら鎮守府内を散策していた時、提督の耳に威勢の良い掛け声が入ってきた。
そこは離れの道場だった。何だと思い、開きっぱなしの入口から中を覗き込む。
道場では剣道着を着込んだ二人が対峙していた。互いに竹刀を中段に構えて向かい合っている。
時折、力強い掛け声をあげながら、小刻みに近づき離れる動きを繰り返している。
提督も無言で二人の様子を見守った。汗が顎から滴り落ちる。
次の瞬間、左側の剣士が床を蹴った。そう提督が思った時には、互いの竹刀が互いの防具を打ち合っていた。
速い。あまりの速さに提督の目で追いきれなかった。どちらが勝ったのかもよくわからない。
提督がそんなことをぼんやりと考えている内に、二人の剣士は一礼し、面を取った。

「長門に大和か」
「あら、提督。おつかれさまです」
「珍しいな、道場に顔を出すとは。何かあったのか?」

ぺこりとお辞儀をする大和。長門は額の汗を拭いながら何事かと訝しげな様子だ。

「いや、いつもの散策さ。たまには離れの方も見てみようと思ってね。
 ところでひとつ聞いていいかな?」
「ん?」
「今の立ち合い、どっちが勝ったんだ?大和が先に動いて面を入れたようにも見えたが」
「違います、提督。私が面を入れるより早く、長門さんに小手を先取されてしまいました」
「何、そうなのか?」

提督の問いに長門が頷く。はあと思わず嘆息が漏れた。

「凄いな、全然目で追いきれなかったぞ」
「私なんてまだまだです。でも、必ず長門さんに追いついて見せます」
「これはうかうかしていられないな。楽しみだ」
「長門と大和はよく立会いをしているのか?」
「ああ、今日は不在だが、陸奥もな。提督もどうだ?」
「いや、俺はまた今度にしておくよ」
「そうか、心気を整えるにはこれが丁度良いのだがな」

そう言い終わるのと同時に長門が軽々とした動作で提督に向けて竹刀を振るった。
竹刀はぴたりと提督の目前で止まっていたが、その間、身動き一つ取れなかった。
唖然とする提督に対し、長門は悪戯っぽく微笑を浮かべた。
隣では大和がクスクスと笑っている。

「油断大敵だぞ、提督」
「おい、脅かすなよ、長門」
「何を言う。この程度の不意打ちに反応できないのは心気が乱れている証拠だ。
 提督のことだ。また、あれやこれやと考え込んで頭が一杯なのだろう」
「まぁ、性分なんだ。勘弁してくれ」
「いや、拉致もないことを考えて悩み込むぐらいなら、どっしりと構えていてくれたほうが良いのだ。
 その方が私もみんなも安心して戦える」
「すまん」

提督が苦笑すると、長門は大きく嘆息した。

「提督、この際だから言っておくが、貴方は私たち艦娘に気を使い過ぎだ。
 普段はそれでもいいが、作戦が始まったら我々を駒だと割り切れ。犠牲も厭うな。
 確かにさまざまな素養が司令官には必要だが、一番必要などのような事態にも動じない強い意思だ」
「長門」
「鬼になれ、提督。私は惰弱な男に肌を許すほど気安いつもりはない」

予想外に強い長門の口調に提督は思わず気圧されそうになった。
それをぐっと堪え、提督は了解したとはっきりと答えた。

「次の作戦では長門が参ったというぐらい引き回してやるからな。覚悟しておけよ」
「望むところだ。そうだろ、大和?」
「ええ。提督、艦隊決戦の折には是非、大和にも出陣の許可を。
 最高技術の粋を結集した大和型の力、存分にお使いください」
「分かった。期待させてもらうよ」

提督の言葉に大和はニコリと微笑みを浮かべた。
二人と別れた後、提督は散策を再開した。だが、不意に一つの事実に気づき、その歩みを止めた。
提督が長門と契りを交わしたのは春先のことだった。
それから今に至るまで契りを交わした事実を長門自身の口から利いたのはこれが初めてなのだ。

「まったく、気を遣わせてしまっているな」

苦笑し、提督は髪をくしゃくしゃとかき乱す。それから、何事もなかったように再び歩みを再開した。



8月1日。提督はAL/MI作戦に向けて艦隊編成を決定した。
扶桑、長門、大和ら超弩級戦艦を筆頭に金剛、榛名、赤城、加賀といった高速戦艦、正式空母で第一艦隊を編成した。
また、水上打撃戦を得意とする北上、羽黒、神通らをもって第二艦隊を構成し、夜間の奇襲および砲雷撃戦に備える形となった。
第三艦隊はビスマルクが総指揮を執り、隼鷹と日向がその補佐を務める。AL作戦の成否は実質この部隊の働き次第となる。
加えて、支援専任として陸奥、山城が率いる第四艦隊が編成されるが、実質上、この三艦隊が作戦の要となることが確定した。
AL作戦の決行予定日は8月8日。MI作戦、その勝利に向けて、全てが動き出そうとしていた。


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