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今日も他人事

艦これSS「華」



神通と契りを交わした。

強制した訳ではない。長門と同様に合意の上でのことだ。
長門は提督が拍子抜けする程、あっさりと契りを交わすことを了承したが、逆に神通は提督が驚かされる程に狼狽した。

「一晩、考えさせてください」

顔を真っ赤にしながらそう呟く神通の申し出を提督が断る理由もなかった。
それから丸一日経った頃、執務室にやって来た神通は契りを交わすことを了承した。
軍務中の凛然とした様子とは打って変わって、恥ずかしそうに俯き気味に喋る様子に思わずドキッとしてしまう。

あれから数日経過した。
以前と変わらない様子で軍務に励む神通の姿に提督は感心していた。

「流石は、華の二水戦旗艦といったところなのかな」

もっと動揺するのではないかと思っていたが、杞憂だったようだ。
寧ろ、扶桑の方が心配だ。何しろ、長門に続き三人目なのだ。

神通と契りを交わしたことをどう思っているのか。
一度、さり気なく、できる限り自然に探りを入れてみた。

「それは、軍務ですから」

困ったような笑みを浮かべて、扶桑はそう答えた。
気を使ってくれたのは明らかで、提督は質問した自分自身を恥じた。
他の艦娘と提督との契りを肯定的に受け止められるものだろうか。
少なくとも、提督は扶桑が他の男性と情交を結んでいる光景など想像したくもなかった。

どうしたら扶桑に報いることができるのか。
しばしば考えるが、中々妙案は思い浮かばなかった。
外食に誘ったり、贈り物程度で応えられるものでもない。

だが、提督はそればかりを思い悩んでいる訳ではなかった。
というよりも、鎮守府の再建と艦隊の再編こそが急務であり、それらに注力せざるを得なかったのだ。

先月のAL/MI作戦は一応の成功を収めてはいた。
当初の予定通り、MI島を攻略し、その確保に成功したからだ。
結果的にはそうだが、提督は深海棲艦にしてやられたという想いの方が強い。
事実、ビスマルクらの救援が間に合わなければ鎮守府は壊滅し、本土が火の海と化していたことは想像に難くない。

上層部も危機感を抱いたのだろう。すぐに鎮守府の拡張と新型艦娘の配備が決定された。
それは提督にとっても望ましいことだった。新しい艦隊を作り上げなければ、今後、深海棲艦に打ち勝つことはできない。

提督が考えているのは、実戦部隊の拡充だった。
春先のピーコック諸島での戦いのように全ての艦娘を一戦場に投入できれば戦艦棲姫のような強敵にも勝機を見出せる。
だが、今回のように多面的な作戦で戦力を分散しなければならないとなると数の不足は否めなかった。

それも頭数が揃えばいいという訳ではない。
実戦投入可能な練度を保持していなければ意味がない。

従来、提督は実戦部隊の艦娘を主力となる第一軍、予備役の第二軍、支援専任の第三軍に分けて運用していた。
その枠組みを廃し、実戦部隊の練度を第一軍と同等に揃えることで、もっと余裕のある作戦展開ができる。
その為には、調練だった。
今、長門を筆頭として神通や加賀が戦隊単位で連日に渡って猛特訓を続けている。
単に一人一人の実力を伸ばすだけでなく、複数の艦娘が有機的に連携し、実力以上の力を発揮できる艦隊。
それが今回の戦いを通じて、提督が出した結論だった。

「その為には、一人でも多くの艦娘が必要、か」

提督は呟き、しばらく考え事をしていた。
昼休みになった後、提督はドッグへと向かうことを扶桑に告げ、執務室を後にした。

「あら、提督」

ドッグに置かれている寝台に横たわりながら、大淀はにこりと笑みを浮かべた。

戦艦棲姫との戦闘直後、大淀は茫然自失の状態に陥っていた。
それは肉体的疲労や負傷によるものでもあったが、何よりも極度に高まっていた緊張の糸が途切れてしまったことが一番の理由だった。
それでも、入渠して丸一日経った頃には会話ができるほどに回復し、自ら報告書に目を通したいと申し出てきた。

「もう寝てなくて大丈夫か?」
「おかげさまで。それに私はいつまでも寝ている訳にはいきませんから」

その大淀の口調にはどこか思いつめた様な切迫感がある。
できるだけ自然さを装っているが、囮部隊の犠牲を聞いた時に大淀の顔が強張ったことを提督は気づいていた。

囮部隊に参加した艦娘の大半は再起不能だった。
誰一人無傷で済んだ者は居らず、瑞鶴や潮など数名を除けば、そのほとんどが退役と決まっている。

作戦の立案と主導を担った大淀が責められることはなかった。
その分だけ、大淀は自分自身を責め続けているのかもしれない。

「提督、北方海域の警戒が緩過ぎるのではないでしょうか?」
「北方海域の敵艦隊はビスマルク達が粉砕しているが」
「はい。ですが、MI島と鎮守府近海に我々が戦力を集結させることを敵は予測していると思います。
 手薄となった北方海域の奪還を目論むことぐらいは考えていると思うのですが」
「分かった。早速、検討してみよう。大淀、今日はもう休んでくれ。
 軍務も大事だが、今はゆっくりと休養を取ることが第一だ」
「そうですね。すみません」
「戻ってきたら、嫌になるほど、仕事が待ってるさ」
「望むところです」
「それではな」

敬礼し、提督はドッグを後にした。
執務室に戻る途中、ふと木陰が目に入った。
そこに座りこみ、自販機で買った缶コーヒーを啜りながら、ぼんやりと思案する。

考えなければならないことは山ほどある。
軍務のこと。扶桑のこと。
そんな、とりとめのない思考を遮ったのは、長門だった。

「休憩中か、提督?」
「ああ、ちょっと考え事をね。もう怪我は大丈夫なのか?」
「まぁまぁか。改造された艤装の調子も悪くない」

戦艦棲姫との戦いで長門と大和の艤装は破壊し尽くされていた。
共に戦った二人の意見は、艤装の強化が必須であるという点で共通していた。
戦艦棲姫には遠く及ばないが、装甲も火力も向上している。

「提督、一つ進言したいことがある」
「なんだ、改まって」
「大和と契りを結んでおけ」

提督は激しく咳き込んだ。
長門は顔をしかめて腕を組む。

「私は冗談を言ったつもりはないのだが。そんなに面白かったのだろうか?」
「いや、あまりに唐突過ぎて吹いた。冗談にしては性質が悪過ぎる」
「まじめな話だ、これは」
「すまん、続けてくれ」

提督は口元のコーヒーを拭いながら言った。

「共に戦って確信したが、大和はすでに私と同等かそれ以上に強い。
 私はすでに契りを交わしていたし、練度でも上回っていた。
 それでも戦艦棲姫には圧倒的な差を感じた」
「それは大和だって」
「大和にはまだ伸びる余地があるということだ。
 できるだけ練度を上げること。
 そして、契りを交わすこと。
 今よりもさらに一段、あいつは強くなれる。
 悔しいが、流石に大和型の性能は伊達ではないな」
「長門」
「まぁ、私もまだ負けるつもりはない。
 それに、戦艦棲姫を倒すための新しい戦い方を模索している所だ。
 敵わないまでも、せめて一矢は報いて見せるさ」

ふっと長門は微笑を浮かべた。

「すまん、大和の話だったな。
 とにかく、あいつの力が今後の戦局の鍵になるだろう。
 少しでも勝利に近づくために、契りを結ぶ必要があると私は思う」
「だが、俺の一存でどうにかなる問題ではないな。大和の気持ちもある」
「だから、提督に好意を抱くように大和の気持ちを惹きつけておけ。
 それとも、大和を抱くのは嫌なのか?」
「そんな訳あるか」
「なら、何の問題もあるまい。これも軍務の一環だと思って努力することだ」
「そういう問題なのかなぁ」
「頼むぞ、提督。鎮守府の命運は提督の双肩に掛かっているのだからな」

提督の肩をぽんぽんと叩き去っていく長門。
その後姿を見送りながら、提督は大きくため息を吐いた。

悩みを解消する所か、また一つ悩み事が増えてしまった。
下手をすると、これまでで一番悩ましい問題かもしれない。

「とりあえず、食事にでも誘ってみるか」

呟き、提督はもう一度、ため息を吐いた。


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