7.魔王、飛将と父子の契りを交わり
「俺の下へ来れば、いかなる望みも叶えよう。共に天下を得ようではないか……!」
(郡雄伝第三章 董卓おじいさまと呂布の会話にて)
続いて董卓軍に加わったのは、執金吾(時の警察長官)丁原の軍勢でした。
董卓おじいさまと丁原の確執に関しては詳しくは分りません。
しかし、共に辺境の吏士で、何進の檄文に応じて上洛を果たした事は確実です。
(考えられる可能性としては……董卓軍の略奪行為を丁原の軍勢が取り締まる、という関係があったと思われます。後々、語られますが、異民族や辺境の軍勢を中心とする董卓おじいさまの軍勢は敗者や民衆に対し、略奪、暴行を容赦なく行っています)
ここで董卓おじいさまにとっては運命的な出会いが果たされます。
丁原の養子・呂布奉先が現れたのです。
呂布がどのような形で関わり、董卓おじいさまの注目を得たかも確実ではありません。
曰く、朝廷にて丁原を斬ろうとした董卓おじいさまを視線だけで圧倒した。
曰く、略奪行為に及ぶ董卓軍を有無を言わさず捕らえ、首を刎ねた。
曰く、丁原軍の先鋒となり、数で勝る董卓軍を10km近く敗走させた。
諸々の話はありますが、とにかく呂布が原因で董卓おじいさまは丁原を討つ事が出来ませんでした。
そんな時、董卓おじいさまの娘婿である懐刀の李儒が、呂布を味方に引き込む策を進言します。
ある夜、呂布の陣幕を李粛という男が訪れました。
李粛は呂布と同郷の并州人という事もあり、しばらくは郷里の話などして過ごしました。
話の途中で、李粛は呂布に
「部下にも仕える者を選ぶ権利はある」という格言を引き合いに出し、呂布に最も勢いのある董卓おじいさまに就くべきと説きます。
そして、自分が董卓おじいさまの使者である事を告げ、董卓おじいさまの気持ちであるとして、宝石類や絹を差し出します。
さらに陣幕の外に連れ出し、一頭の馬も差し出すと言います。
この馬こそ、後に呂布の愛馬となり
「人中の呂布、馬中の赤兎」と評された良馬・赤兎馬でした。
一目見てこの馬を気に入った呂布は、董卓おじいさまが自分を本心から欲している気持ちを確信したそうです。
夜も更けた頃、丁原を裏切った呂布はその首を持ち、その残党を率いておじいさまの陣営に降りました。
董卓おじいさまは呂布を歓迎し、彼と義父子の誓いを結んだ上、騎都尉に就任、中郎将へ昇進させます。
董卓おじいさまの増長を他の勢力も無視していた訳ではありませんでした。
何進の命を受け、太山にて兵を集めていた鮑信は何進の死後、洛陽に帰還し、袁紹に
「董卓は強力な軍勢を擁してよからぬ野心を抱いております。いま早々に片付けておかねば身動きを封じられる羽目になります。到着したばかりの疲労に付け込んで襲撃すれば、生け捕りにすることもできましょう」
と説きますが、袁紹は動こうとしません。
これに失望した鮑信は郷里へ帰り、後に曹操の協力者として尽力する事になります。
こうして他勢力を吸収した董卓軍は、その圧倒的な軍事力を背景に洛陽に君臨するのでした……。