2023/12/18(月)01:39
The Indifference Engine
いつからか、オワコンという言葉が当たり前のように使われるようになったけど、それは商業的な観点でのみ成り立つ言葉であって、実際のところ、物語そのものに寿命とか、消費期限って言うのは、存在しないよなって思うんですよね。だって、結局、人間自体が進歩している訳じゃないから。
環境とか、社会とか、技術とか、常識とか、言ってしまえば、私達の住んでいる世界の「設定」が変わっているだけで、そこに生きている私達自身が生命体として進歩している訳ではないから、どれだけ前の物語でも、そこに紡がれるものの価値が減衰するわけじゃない、って。
というのは、この週末、亡き伊藤計劃先生の短編集を手に入れたので読んでたんですけど、これがビンビン刺さりまして。
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『虐殺器官』にしろ、『ハーモニー』にしろ、先生の著作を読んでて思うのは「御託ばかり並べてんじゃねえよ。いくら技術が進歩したところで、人間がそんな都合よく幸せになれるわけねえだろうが、ボケ」って吐き捨てるような感じがストーンと腑に落ちるわけです。ですよねーって。
本短編集でも、ルワンダ大虐殺と少年兵をモチーフにした『The Indifference Engine』の中で、それがまざまざと示されていて、「じょおおおおおだんじゃない」「ぼくはそうすることしかできなかったから、憎んできただけだ」「戦争は終わっていない。ぼく自身が戦争なのだ」という主人公の言葉は劇中で語られる他の人間達のどんな綺麗事よりも遥かに重みを持ち、読者である我々に共感を与えてくれる。本作はところどころ『虐殺器官』と文章的に近いものを感じる点があり、もしかすると、虐殺の文法に触れてしまった人間の内面とは、こういうものではないか、とも考えさせられる。
他の二次創作的な作品群も面白い。
『メタルギアソリッド3』の後日談を『地獄の黙示録』のオマージュ風に描いている『フォックスの葬送』。
ショーン=コネリー演じる冷戦時代の英国スパイから始まった『007』が時代を超え、演者を変え、当然のように現代まで受け継がれている同シリーズに関して、「そういうものだから」ではなく、「これって、つまり、こういうことじゃない?……ってことは、こういう物語も成り立つよね?」っていうある種、皮肉を利かせたような『From the Nothing, With Love』。
特に後者は、科学技術による他者への人格の上書きという点で『屍者の帝国』を、肉体から意識が消失するという点で『ハーモニー』を、それぞれ彷彿とさせるところがあり、もしかすると、本作の執筆を通じて、両作品につながったのかな、とも。
そういう意味で、伊藤計劃先生がもし存命で『屍者の帝国』を書き上げていたら、どういう形になったのかは正直、気になるところ。円城先生が引き継いで完成させた小説版とも、牧原監督の担当された劇場版とも、どこか違う作風になったような気はしますが。
あ、一番、度肝を抜かれたのは『セカイ、蛮族、ぼく。』です。僅か7ページの短編ですけど、冒頭から声出して笑っちゃった。いや、内容的にはとても笑えないんですけど!笑うわ、あんなん……エロゲだってもう少し手順、踏むよ(苦笑)
……これ、要は漫画テンプレに対するブラックジョークですよね。食パンをくわえたまま走ってきて曲がり角から飛び出してくる女の子とか、「ベ、別にあんたが好きとかじゃないんだからね!」とか言いながらお弁当渡してくる学級委員長とか。それに対する返しがエログロなだけで。完全に、パロディギャグ。でも、まさか、『グラディエーター』の二次創作とは思わんかった(苦笑)
私は、『シンデレラ』とか『白雪姫』みたいな最後はハッピーエンドなお話も、『マッチ売りの少女』や『フランダースの犬』みたいな悲劇的な終わり方を迎える作品も、どっちも好きですけど、だからって、そういう「ああ、よかったね」「うう、可哀想……」で終わる小綺麗な作品ばっかり見てると、それはそれで心に良くないと思うんですよ。「うるせー、クソが!綺麗事ばかり抜かしやがって!死ね!!」みたいな作品も必要で、そういうもので心の暗い部分も見つめて鬱憤を晴らしていかないと、逆に取り返しのつかない事になっちゃうんじゃないかなって。だって、現実はそんな優しくないんだから。まぁ、そればっかりも良くないとは思いますけど。