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日本戦略研究所



今こそチャイナスクール問題を 岡崎 久彦


2002/07/01 (産経新聞朝刊) 正論 元駐タイ大使 岡崎 久彦

今こそチャイナスクール問題を 大胆な外務省改革に向けての一試案 ≪組織防衛が国運を誤った例≫( 7/ 1)

 村田元外務次官は最近の産経新聞で外務省の後輩を実名で批判した。それは近く出版される自著の予告であったが、それを聞いた外務省OB・現役の間に衝撃が走った。

 どんな組織でも、とくに伝統のある組織ほど組織防衛をする。自己が属する組織の名誉を傷つけるような事は外に言わない。漏らさない。それは組織人として通常の規律である。そして、仕事をするのは個人でなく、組織であると考えれば、そうして組織の志気、結束力、組織の尊厳を維持する事は必要と言えるかもしれない。

 しかし歴史上組織防衛が国の運命を誤った例もある。昭和三年関東軍の河本大作大佐は満州の支配者張作霖を謀殺した。元老西園寺公望は田中義一首相に対して「断罪して軍の綱紀粛正」を説き「一時は評判が悪くても、それが国際的信用を維持するゆえんであり、軍人もこれでもう勝手な事は出来ないとわかるだろう」と言い、田中も、真相の公表と厳重処分の方針を天皇に言上(ごんじょう)している。

 ところが閣僚は皆反対し田中は孤立した。そして白川義則陸相は、「実情を暴露すると国家に不利となるので、不利を惹起(じゃっき)しない形」での処分を決定し、言上した。

 これが昭和史に決定的な影響を与えた。もうその後軍人は、私利私欲でなければ何をしても庇(かば)って貰える事になり、軍の独走はすべてここに端を発したと言ってよい。

 日米交渉打ち切り通告の遅れを庇った外務省の組織防衛は長く日本の国家のイメージに打撃を与えている。

≪大勇の必要な時見極めよ≫

 国家のために真に必要な時は、西園寺の言う大勇が必要なのであろう。外務省改革問題の嵐の中の現在、私は村田元次官の大勇を評価する。

 瀋陽事件以降のマスコミ、世論、国会の外務省批判は、主権を守る意識の稀薄さ、中国の干渉に対する毅然(きぜん)たる態度の欠如など、一々肯綮(こうけい)に中(あた)るものがある。この改革のチャンスを逃すべきでない。とくに「チャイナスクール」の問題はこの際直面し解決すべきである。

 村田元次官も指摘しているように、近年の靖国、教科書等の歴史認識問題、不審船引き揚げ等の扱いには多々疑問がある。とくに台湾の李登輝前総統の査証申請を預かったが、受理していないなどと説明した醜態は目を覆わしめるものがある。
 

 今後どうするかについては、後輩を庇うためではないが懲罰は論じない。最近の若い人には理解不可能な考え方というが、つい最近まで、親中国は進歩的平和主義的、親台湾は右翼反動という思い込みがあり、田中前外相、河野前々外相の考え方にもその残滓(ざんし)があったことを思えば、官僚の一部にそれが残っていても、それを責めるのは酷であろう。

≪国益擁護の姿勢こそ基本≫

 問題は今後である。中国は、中国問題についての日本人の言動には神経質であり、マスコミ、民間等の言動に小まめに圧力を加えている。政府官僚の場合はもっと隠微な方法であろうが、同じような圧力がある事は想像に難くない。今後とも、李登輝氏の査証問題など対中政策の決定に関与する人々をこういう圧力から守るにはどうしたら良いのだろうか。

 一つのアイデアは、中国だけについては、政策決定に関与する人々と、将来とも日中友好関係の維持に専念しなければならない人々を分離することである。原則として、アジア局長など政策決定者は将来中国大使にしない、中国大使は他の要職から転出させる。それだけで良い。戦前の日本では外国人と結婚した外交官に、その国だけは赴任させない原則があったが、国益擁護の念にいささかの曇りも生じさせないという配慮から言えば同じ考え方である。

 これはあるいは世界的意義のあることかもしれない。チャイナスクールの問題は、米国でも、とくにクリントン政権下にはあった。インド外務省の中にもあると側聞している。二十一世紀最大の問題は中国問題であり、世界中がこの課題に直面しなければならない。中国と最も関係が深い日本が率先してこの問題を直視する事は大きな意味があろう。

 外務省改革といっても、今や国民の関心は瀋陽事件が提起した問題に集中している。それはすべての総合雑誌の七月号の見出しを見るだけで歴然たるものがある。

 この問題と正面から取り組まないと、国民が一ばん関心を持っている大事な問題から目をそらせて枝葉末節だけを論じたという批判は避け難いであろう。(おかざき ひさひこ=博報堂特別顧問)




14.7.1





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