向日葵達の夏「向日葵達の夏」とある夏の日の向日葵畑・・・。 この日はこれまでの観測史上の最高気温を更新する程の暑さで、この広大な向日葵畑を 観に来る人たちも少々バテ気味です。 「ねえ、お父さん、あの向日葵達、皆、下向いてる~」 まだ幼い女の子が、入り口に程近い所に咲いていた向日葵達を見て、こう言いました。 「あー、この暑さで向日葵達も太陽に顔を背けたんかもな」 お父さんは笑いながら、女の子にそう答えました。 「太陽に顔を背ける向日葵ってタイトルで、写真撮ってたら受けただろうなあ」 これはお母さんの言葉。 「そうやなあ、カメラが壊れてなかったらなあ・・・」 お父さんは両手でシャッターを切るまねをしました。 「それにしても暑いなあ。一通り見たら早めに切り上げて帰るか」 お父さんがこう言うと、女の子はべそをかきつつ言いました。 「えー、向日葵の迷路はー?」 「もちろん、行くよ。舞が楽しみにしてたもんな」 「やった~!!」 お父さんとお母さんは顔を見合わせて(暑くても子供は元気だなあ)っとちょっぴり苦笑いをしながら、 向日葵の迷路の方に歩いて行きました。 「はあ、あのお母さんうまいタイトルつけるなあ。写真撮って欲しかったわ」 誰もいなくなった途端、向日葵たちは話し始めました。 「こんなにカンカンに照り付けられたら、俺らも顔背けたなるっちゅうねん!!」 「ほんまやなあ。暑いからってみんなすぐ帰っていくもんなあ。せっかく俺ら満開やっちゅうのに」 「そうそう、さっき、何で向日葵は真夏に咲くんやろう、春とかに咲いたらええのにとか言うとったで。 俺らは花火と並んで、夏の代名詞なんやで。それにもし春に咲いたとしても桜はんにはかなうわけあらへんがな」 「まあ、花の中でも桜はんはダントツ人気やもんなあ。情緒があるとか言われて。それに比べて俺らはなあ・・・」 と口々に向日葵達がぼやいていると 「ちょっとちょっと、そんな卑屈にならんでもええやんか」 それまでのやりとりを黙って聞いていた、向日葵が話し始めました。 「ほら、ゴッホの”ひまわり”とか、映画にも”ひまわり”ってあるやんか?」 「あ~、両方有名やもんなあ。けど両方とも外国の作品やからなあ・・・」 さっきよりはちょっと明るい気持ちになったものの、やっぱりまだ向日葵達がいじけていると 「皆さん、日本中に感動の嵐を巻き起こした映画をお忘れになってはいけませんな」 と先程とはまた別の向日葵が話し出しました。 そう言われても、向日葵達はわかりません。しびれを切らしたのか、向日葵はこう言い出しました。 「”いま、会いにゆきます”やんか。まあ、紫陽花はんも出てるけど、何てったってあれは俺ら向日葵がメインやろ~。 あ、もちろん人間以外でやけど」 「あ~、そうや、あそこの向日葵はん、一躍有名になったもんなあ」 「それに、あの2人ほんまに結婚したんやで。まあ、あの二人は別れはったけど・・・。そんでもあの映画をきっかけに 結婚した人もおるやろし、まあ、言ってみれば俺らはキューピッドってわけやな」 と向日葵達はそれぞれ言いだし、(まあ少々強引ではありますが)、向日葵達は皆少しずつ晴々とした 気持ちになってきました。 「なあ、俺らの花言葉は”ずっとあなたを見つめています”やろ? 俺らは太陽はんをそれこそずっと見つめてきたわけやん。いわば太陽はんに片想いっちゅうわけやな。 それやったらどんなに照り付けられても、しっかり太陽はんの方を向いとかなあかんのちゃうか?」 「そうやなあ。それでこそ、俺らが向日葵として生まれてきた甲斐があるっちゅうことやもんな」 「よっしゃ、太陽はん、俺らも負けへんで」 向日葵達は一斉に太陽の方を向き始めました。 「あれ、お父さん、さっきの向日葵達、皆、顔上に上げてるよ」 さっきの親子連れが戻ってきました。 「やっぱり向日葵はこうやないとなあ。俺もこいつらに負けんように頑張らんとなあ」 お父さんは気合を入れるように、握りこぶしを振り上げました。 「そうそう、私と舞の為にも頑張ってね。」 お母さんはそう言いながら、心の中でこう思っていました。 ”あなた、いつもありがとう。貴方は充分頑張ってるわよ”、と・・・。 「そういや、”いま会い”のビデオ返しに行かんとあかんな」 「そうね」 本当はお母さんもお父さんも、その映画の中に出てくるワンシーンをやってみたかったのですが、 恥ずかしくて出来なかったことは、お互いに内緒です。 3人は女の子を真ん中に手をつないで帰って行きました。 女の子は時々お父さんとお母さんの手にぶら下がるようにしながら。 その様子を向日葵達はちょっと照れ笑いを浮かべながら、そっと見つめていました。 (終) ジャンル別一覧
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