ケーキの魔法使い3それから半年が過ぎ・・・。誠はチラシを作ってアピールしたり、色々手は尽くしましたが、お店は相変わらずの状態でした。 貯金も底をついてきたけれど、誠はどうしても店を閉める気にはなりませんでした。 (きっとママと来てくれる。それまでは頑張らないとな・・・) 誠はあの女の子と交わした約束を心の糧にして、日々暮らしていたのでした。 そんなある日・・・。 ”カランコロン” 扉が開くと、そこには20代半ばでしょうか。きれいな女性が立っていました。 「いらっしゃいませ」 女性はショーケースを一通り眺めると 「あの、ケーキはこれだけですか?」 と聞きました。 「はあ。これだけですが・・・」 (って朝からほとんど売れてないんだけど・・・) 「そうですか・・・」 そういうと女性は出て行こうとしました。 「あ、あの、何かお探しですか?」 「あ、いいんです。売り切れなら・・・」 「え、売り切れって、そんなうち人気ある店じゃないし、いつも売れ残る位で」 (売り切れる商品なんて1つも無いって・・・) 「え?」 「お店間違えられたのかも知れませんね」 誠は努めて明るくそう言ってみると、女性は首をかしげながら 「でも、クローバーさんってこちらですよね?」 「そうですけど・・・」 誠もつられたように首をかしげながら、そう答えました。 「こちらに幸せになれるケーキがあるって聞いたんです・・・」 「幸せになれるケーキ?」 「はい・・・四葉のクローバーの形をした・・・」 (あ、あのケーキのことか・・・) 「・・・あ~、それ、もしかして女の子に聞きませんでした?」 「そうです。舞ちゃんに聞いて・・・」 「(あの子、舞ちゃんって言うんだ)あ~、あれは商品じゃなかったんで、ショーケースには並べてないんですよ。 あ、でも、ちょっと待ってて下さい」 そういうと、誠は奥の冷蔵庫からあの時作ったのと同じケーキを取り出した。 (あの子がいつ来てもいいように、って毎日作ってたけど別にいいよな。また来た時に作ればいいんだから・・・) 「これですけど・・・」 とケースの上に置きました。 「わ~、可愛いらしいケーキ・・・。でも1人では食べきれないわ・・・」 女性は困ったようにそう言いました。 「そうですね・・・(そりゃ1ホールだしなあ)。でも、どうしてこのケーキを?」 「・・・私と舞ちゃん、家が近所でよく一緒に遊んでたんです。お母さん入院してるし、お父さんは会社と病院と 行ったりきたりしてるし・・・」 「ああ・・・」 女性と舞ちゃんが二人で遊んでるシーンが誠の脳裏に浮かびました。 「私、仕事もプライベートも全然上手く行かなくて・・・。でも舞ちゃんといると楽しくて、お母さんのことで大変なのに、 いつも明るくて、私、舞ちゃんの存在にすごい救われてて・・・」 (なんか、今の俺と一緒だな・・・) 「で、ある日、舞ちゃんが、『私、こないだ幸せになれるケーキ食べたんだ。』って・・・」 (あのケーキが幸せになれるケーキ・・・) 「その時は、へえ、そんなケーキがあったら食べてみたいなって言って、終わったんですけど・・・」 (だろうな・・・) ジャンル別一覧
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