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心のままに~星に願いを~

心のままに~星に願いを~

ケーキの魔法使い4

「・・・私、もう何もかも嫌になってしまって・・・」
女性は誰に言うわけでもなく、小さな声で呟きましたが、誠はあえて聞こえないふりをしました。
「で、町をふらふら歩いてたら、このお店の前に来てて、ふっと思い出たんです。ケーキのこと・・・。
そのケーキ食べてみたいなって・・・」
「そうだったんですか・・・」
「すみません、こんな話・・・」
「いえ、いいです。俺で良ければ、どんどん話して下さい。どうせ暇だし・・・あ、そうだ。お時間あります?」
「え?」
女性は怪訝そうに聞き返しました。
「あ、いえ、ちょうど作ろうと思ってたのがあるんですよ。試作品なんですけど。良かったら食べてくれませんか?」
「あ、あの・・・」
「あ、別に下心とか全然無いですから、安心して下さい♪だから、絶対ここで待ってて下さいね」
そういい残すと、誠は奥へと入っていきました。
女性はどうしようかと考え込んでいましたが、その場で待ってみることにしました。
舞ちゃんも座ったあの椅子に座って・・・。

20分後・・・。
「お待たせしました~」
明るい誠の声が店内に響き渡りました。
手にしてたのは、あの四葉のケーキをショートケーキサイズにしたものを乗せたお皿でした。
「わ~、可愛い~」
「へへへ。我ながら力作だなあっと」
誠は照れ隠しに少しおどけた顔でそう言い、ケーキをテーブルの上に置きました。
「これ、私のために?」
女性はちょっと遠慮がちに聞いてきました。
「あ、いや、その・・・ちょうど作ろうと思ってたんですよ。小さいサイズ♪」
誠は照れ隠しに、あわててそう答えました。
「そうなんですか?でも、手間かかりますよね、これ・・・」
女性はケーキの乗ったお皿を手に取り、しばらく眺めていました。
「お客様のご希望に出来る限りお答えするのがうちのモットーですから、ってほんとはただ暇だからなんですけどね♪」
誠は明るくそう言うと、軽くウィンクしました。
「ふふ。舞ちゃんの言ってた通りだわ」
「え?」
「ここの店長さんは、魔法使いなんだって。誰でも笑顔にしてくれる魔法のケーキを作ってくれるんだって・・・」
(そんな風に思ってくれてたんだ。くそ、泣けてきた・・・)
誠は目にごみが入ったというように目をこすり
「はは、魔法使いなら、このお店をもっと流行らせるんですけどね」
とケーキを箱に詰めながら、少し自虐気味にそう言いました。
「流行りますよ。きっと。こんなに素敵なケーキを作れるんだもん」
女性は心の底からそう言っているようでした。
「ありがとうございます。あ、そうだ舞ちゃんはどうしてます?」
「舞ちゃんは・・・お母さんが転院されたんです。それでおばあちゃんの所に住む事になったみたいで・・・」
「そうですか・・・」
「でも、必ずここにまた帰ってくるって言ってましたよ。お兄ちゃんと約束してるからって・・・」
「(あの、約束覚えててくれたんだ・・・)そうですか・・・」
「これ、お金は・・・」
「あ、いいです。それ試作品なんで」
「でも・・・」
「あ、じゃあ美味かったかどうか報告に来てくれます?で、美味しかったら他のも買ってもらえばいいですから♪」
「ありがとう。また必ず来ます」
「約束ですよ。いつでもお待ちしてますから」
「はい。本当にありがとう・・・」
そういうと、女性は大切そうにケーキの箱を抱えて帰って行きました。


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