テーマ:わたしの田舎暮らし(11)
カテゴリ:晴耕雨読時々昼酒
今日は松本師匠からの頼まれ仕事で、いつもより多少の早起きで午前8時過ぎの電車に乗って京都駅まで向かう。一般的な通勤時間よりは少し遅い電車だが、ここ数年間の目覚まし時計なし生活には、多少の緊張感。なんせ本数は少ないローカル線なので。
車中で、原田マハ「楽園のカンヴァス」を読む。アンリールソーの「夢」に絡む美術系ミステリーで、倉敷市の大原美術館の展示室から物語が始まり、ニューヨーク、バーゼル、そして結末はニューヨーク近代美術館の展示室。余談ですが、大原美術館の描写では、ちゃんとエル・グレコの「受胎告知」の話はでてきた。作者は東京都小平市生まれだが、中学高校を岡山市で過ごしているので、大原美術館へは足繫く通っていたのではないだろうか。かなり以前、当方も美術館至高のコレクションを鑑賞したが、倉敷の繊維業界、財界の蒐集家の「粋」を感じました。後世にまで名作(作中では永遠の命)を伝える地方美術館。エルグレコの暗い色彩、あれは当時の絵具だからと知人の絵描きに教えてもらった。使われた絵具からも真贋を鑑定できるらしい。 さて、印象派の時代から、次代のゴッホ等を経て、ピカソやマチスなどの前衛芸術が評価されるまでのしばらくの間。画壇からは、画法、遠近法も知らない下手くそ、子どもの落書き、日曜画家とまで蔑まれたルソー。元は税関吏だったため、著名な思想家ルソーと間違わないように「税関吏ルソー」と呼ばれたとか。最晩年までお菓子(ボンボン)売り、バイオリン教師で食いつなぎ独自の世界を描き続けた。でも、かれの平面的な絵画と色彩が若き頃の天才ピカソに多大な影響を与えた。これが本作の主軸にある。ピカソが求めた、巧いことより、感銘を与える作品。遠近法を用いない平面性と構図。 表紙はアンリールソーの「夢」 絵に描かれた女性ヤドヴィガは若き人妻で洗濯女。彼女との関係性は後半は生きてくる。余談ですが、洗濯女で、エミール・ゾラの「居酒屋」の主人公を連想した。あの作品の結末は悲しかったな。娘(ナナ)と息子を主人公に三部作。ナナは読み始めたが、あまりの暗さに断念した記憶がある。この作品には、作者が中高生時代を過ごした岡山市(倉敷市まで近い)と関西学院大学文学部&早稲田大第二文学部での学業、卒業後のキュレーター経験が十分に活かされていると感じる。当時、作品が画廊に売れない画家(ルソーも)は、仕上がったカンヴァスを画材店へ持ち込む。ただカンヴァスとして3フランで買い取られ、そのまま5フランで店に並べられる。パリに出てきたピカソが、ルソーのカンヴァス(作品)を画材店で買った逸話があり、ピカソは最期まで作品を手放さなかったとか。作中では、この上塗りカンヴァスが作中では重要な意味を持つ。 ピカソ アビニョンの娘たち(1907年作) 本作ではルソーの影響か?とも感じさせるが、史実ではピカソが尊敬していたのはセザンヌらしい。この作品で、ピカソの友人や画廊主からは、天才ピカソの才能が消えた、狂ったと評されたとある。ピカソの青の時代、バルセロナからパリに出てきたばかりで貧しい生活、周りには貧民層?ばかり、だから、暗い色調だったとか。絵具もたくさん買えないのも理由ではないか。画家が貧乏な頃は、同時期に大作二枚はないと鑑定の参考にするらしい。大きな画材や豊富に絵具が揃えられないからとの理由。これが本作の絵画の真贋判定にも使われている。絵のサイズは2m×3mぐらいか。 余談ですが、ゴッホは弟テオの援助で画材や絵具には困らなかったらしい。これをゴーギャンが嫉妬した。彼がゴッホのお守り役?を務める条件で、テオはゴーギャンを経済的に支援したらしいく、タヒチ行きの船賃もテオに無心している。脱サラで画家になったゴーギャン、妻に逃げられ苦労の時代。恵まれた兄貴(ゴッホ)に嫉妬して当然か。またまた余談ですが、ゴッホ終焉の地、彼の下宿(食堂の二階)で質素な葬儀が営まれた際、テオは壁にゴッホの絵をかけたとのこと。生前、カフェで個展を開くことを熱望していたゴッホ、葬儀が最初の個展となった。テオは参列者にゴッホの絵を譲ったため、彼の子孫の手元には殆ど作品が残っていない。今では、ひまわりだけでも美術館の目玉所蔵品になっているから、まさに生前は時代が追いつかなかったということか。さて、20世紀はじめの1フランの貨幣価値は、一日の労働対価(日給)が1フランなので約五千円ぐらいか? 食料品(パンやハム等の値段)の販売価値では約2千円と比較できる。絵画をキャンヴァスとして3フランで引き取ってもらうと、なんとかパンとアブサン(酒)は買える値段か。 いつも歴史小説的なものを読むと、当時の貨幣価値が気になるのは、小市民? 小役人根性かな。幕末ものでも、二束三文って、今の価値価値が気になる。かけ蕎麦の値段とか。お針子仕事を終えた娘たちが近松門左衛門の曾根崎心中を観たさに、日給握って竹本座へ~と聞くと、日給はいくら? とか。 レ・ミゼラブル(ナポレオン失脚後の王政時代)で、ジャンバルジャンがコゼットへ残した遺産(マリウスへの持参金)は60万フラン。貧乏貴族のマリウスに古くなった馬車を買い替えてくだいと伝えたぐらいだから、労働単価なら6億円、物品価格なら3億円ぐらいの価値かな。ジャンバルジャンの資産は200万フランあったが、殆どを寄付。 昼食は病院食堂で天津飯とミニラーメン980円。まだ日本の物価は安いです。二品あると得した気分になる小市民です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.11.22 17:47:08
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