052547 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

弁護士・伊藤和子のダイアリー

弁護士・伊藤和子のダイアリー

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2008.06.26
XML
  私が弁護士登録以来関わっている事件でいまだに未解決の事件といえば、
 名張毒ぶどう酒事件、という冤罪事件です。
   事件が発生したのは、1961年、なんと私が生まれるずいぶん前なのです。
 被告人奥西さんは、5人の女性を毒殺した罪に問われました。一審は無罪、
 しかし高裁で逆転死刑判決を受け、最高裁もこれを維持しました。
 奥西さんは、40年以上の間無実を叫び続け、死刑確定後は毎日死刑執行の
 恐怖にさらされながら生きています。
 よく私は「日本の人権状況ってどんな問題があるの?」と外国人に
 聞かれると、この事件の話をするのですが、ここまで聞いただけで、外国人は
 あまりの異常な展開に言葉を失ってしまいます。
  だいたい、一審無罪になったら、検察官は控訴できないという国が
 アメリカをはじめ少なくないのです。ところが、この事件、その後も再審開始決定
 (裁判のやりなおし)がされて、さらにひっくりかえる、というかたちで
 被告人の人生が翻弄され続けてきました。
 事件当時30代だった被告人はいまや81歳です。。。

  私はこの事件のことが頭からいつも離れない状況にあります。
 無実の人をいつまでたっても救うことができない日本の刑事司法を
 そのままにしていることが、法曹界の一員としてなんともやりきれないのです。

 死刑確定後、奥西さんは、7回目の再審請求を続け、七度目の再審では、
 日本の第一線の科学者から「犯行に使用された農薬は、奥西氏が所持し、
 それを使用したと自白していた農薬と異なる」という決定的な鑑定を
 新証拠として提出しました。
  こうした新証拠を受けて、2005年、名古屋高裁がようやく再審開始決定を出しました。
 新証拠に照らして、有罪認定に合理的疑いがある、という決定でした。
 ところが、2006年12月にこの決定は覆されました。そのときのショックは支援者にも
 弁護団にもそして誰より本人にとって計り知れないものでした。
 この決定は旧態依然というべきか、科学的証拠について無理解なまま
 「同じ農薬だという可能性もまったくないわけではない」などとして証拠価値を
 否定する一方、捜査段階の自白を金科玉条のごとく信用する、というものでした。
 本当に意外な決定だっただけに、新聞各紙は「疑わしきは罰するのか」と
 一斉にこの決定を批判しました。

 そのときから一年半。現在もこの事件は最高裁に係属しています。
 最高裁の段階でも、弁護団では再審取消決定の
 誤りを明らかにする意見書を提出し、実験や鑑定も行っています。
 自白については日本の専門家だけでなくアメリカの専門家にも
 意見書を書いてもらって提出しました。
  アメリカの専門家が法廷意見書を日本の最高裁に提出するのははじめてのことですが、
 アメリカでトップクラスの虚偽自白の専門家の方が「この事件はおかしい」
 ということで意見書を作成してくれました。
  アメリカでは、すでに125件の、完全に無実であることが証明された事件について
 虚偽自白事例が集積されているのですが、こうした虚偽自白事例と奥西さんの
 自白には多くの共通点がある、ということです。

  最高裁からはまったく音沙汰なし、という事件も多いのですが、この事件では、
 たとえば今週水曜日には事件を担当されている調査官との面会で
 弁護団から時間をとって説明をさせていただく機会がありました。

  私としては、「この事件で再審無罪が出ない限り、裁判員制度になっても
 日本の刑事裁判にほとんど期待は持てない」といつも思わずにはいられないのですが、
 最高裁には、本当にぜひとも、「疑わしきは被告人の利益に」の範をこの事件で
 これから裁判員になる市民の方々に示してもらいたいと思っています。

  
 
  
 
 
 

 

 
 


 
 





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2008.06.27 02:56:22
[刑事事件・裁判員制度について] カテゴリの最新記事


PR

Profile

coomomoi

coomomoi

Calendar

Category

Favorite Blog

まだ登録されていません

Freepage List


© Rakuten Group, Inc.