ふらりかずたま　ひとり言　

柔道ワールドグランプリ（嘉納杯）の男子１００キロ超級をテレビ観戦しました。決勝では井上康生と石井慧が対戦し、石井が井上の「指導」ポイントを誘い優勝しましたが、何とも腹立たしい試合でした。

１つには、石井の試合運び。今風の柔道スタイルなのでしょうか、ポイント稼ぎに徹していました。準々決勝のシリトレー戦でも石井は相手に技を出させず、ラスト３１秒で相手の「指導」ポイントを誘いました。また準決勝の高井戦でも「指導」の差。勝ちにこだわった、ヨーロッパ選手のような戦法です。この戦法がいいか悪いかよく分かりませんが、私の目からは、石井はまともに技を出していない、攻撃していないと感じました。自分は積極的に攻撃していないのに、さも積極的であるかのように見せかけ、相手に技を出させないで消極的であるかのように見せる。これは、はっきり言って、反則技とされる「かけ逃げ」でしょう。
井上との試合では、内股一本を狙う井上が引き手にこだわり、掴んだ瞬間投げを打とうとするのに対し、石井は井上左手に自分の指をからめ引き手を取らせないようにするだけ。井上が自分の右袖に手をかけるや、すぐに片手で「体落とし」風の「かけ逃げ」をやり、井上の技を封じるのです。100キロを超す体重でしかも百戦錬磨の井上を、片手で投げられると思う人間はいないでしょう。
「有効」ポイントや延長の「ゴールデンスコア（なんでもいいからポイントを先に取ったほうが勝ち）」方式が、柔道のルールになってしまっていますから、石井のポイント稼ぎ戦法でもＯＫなのかもしれませんが、釈然としません。

２つめは、外国人審判の力量です。彼らの目には、井上が消極的で、石井は技を出していると映るようです。かけ逃げか本当の技かを見極める技量もない審判に任せるから、姑息な「ポイント稼ぎ」柔道がまん延し、日本柔道の伝統から遠のくのです。国際柔道連盟には日本人理事はいません。柔道を極めた日本の柔道家が理事として、技術指導員として前面に出なければ、一本技を競うはず柔道が、フィギアスケートのような表現や印象によるポイントで勝敗を競う種目になってしまいます。すでにそうなっているのかもしれません。


本文とは関係なく塩原・箒川の紅葉

３つめは、井上のように単調な攻め。井上は得意の内股一本で勝負したかったのでしょうが、お粗末の一言につきます。連続技も攻めの変化もなく、ワンパターンで釣り手を取り、取らせてもらえない引き手を狙い続けました。相手は当然防御します。石井の場合は防御も単調なワンパターンで、相手に「指導」が行くのを待つだけですが、外国人選手は単調な攻めのスキを突きます。
何回も単調に攻めるのですから、相手にしてみれば、何を狙っているのか、次にどう出るか、見切ってしまえます。もう井上は終わったのでしょうか？　それともカッコ良く勝たなければという意識に自縛され、自由闊達な柔道ができないのでしょうか？
日本人同士の練習・試合なら、組み手争いがあっても基本的には組んで、それから立ち技を狙い、連続して寝技に入るパターンが成立します。ところが、国際試合では通用しません。外国人選手には、まともに組ませない、思いきり腰を引き、体を低くして技も掛けさせない、柔道とは言えないような変則スタイルが多く見られます。朽木倒し、諸手刈りといったレスリング風タックル技もガンガン使ってきます。また、掛かるはずのない小技を仕掛け、自分は攻めているよう振る舞います。そして、正当な技を掛けようとして同じパターンに陥ったり、組み手にこだわり続ける日本人選手の「指導」を誘うか、スキを突く「ポイント稼ぎ」柔道が目につきます。それらに対する対抗策を持たない、という点に日本人選手の弱点があるようです。

今でも思い出すのは、アトランタオリンピックで田村亮子が北朝鮮のケー・スンヒに負けた決勝。あのＹＡＷＡＲＡちゃんが、徹底的に組み手を嫌うスンヒを攻められず、逆にポイントを奪われ敗北しました。アトランタ以降、田村は外国人選手の変則スタイルに自在対応し、谷となった今でも健在です。正当柔道にこだわり続けるだけでは、ニッポン柔道将来はお寒い限りなのではないでしょうか。