経堂界隈

2018/05/22(火)06:36

僕ら老夫婦のおろしや国酔夢譚 その2

City - People - Living(155)

​承前​ Petersburgまでは順調な旅だった ロシア語を全く解さぬ僕は、今回の旅行については、今さら無駄な抵抗はせず、多少を解するカミサンに、自分のやりたいことだけを伝え、あとは任せていた。 無謀とも思えるが、飛行場からホテルまでは、タクシーでなく、バスと電車を乗り継いで行くことになっている。僕としては到着が午後9時過ぎ。飛行場は市内からさほど離れていいないのだから、日本円にして2-3千円であろうタクシー代を節約して、あえてリスクを冒すことはない とは思ったが、まあ、たまには冒険もいいさ。命までとるとは言うまい。 「39番のバスに乗るんだよ!」 カミサンの声に、タクシーの客引きを無視して、建物の外に出る。 おっと、ちょうど、目の前で39番の表示のあるバスがドアを閉めて発車してしまった。 おやおや、次は何分待つことになるのか ところが である 想像とおおよその旅行ガイドに反し、ロシアの公共交通機関は、少なくとも今回行ったPetersburgとMoscowについては極めて便利。運航の頻度は日本以上とも言え、混雑も少ない。 既に、次の2台連結の39番バスが待機していて、おばちゃんがこれに乗れと誘導する。 切符を買おうとすると、「あとで」と身振りで伝える。 荷物ごと低床のバスに乗り、座るとまもなく発車 運航間隔は5分程度である バスを案内してくれたおばちゃんは実はバスの車掌で、しばらくして改札に回ってきた。 片側4車線はあろうかという道路の一番端はバス専用路線らしく、まったく渋滞もなくバスはいくつかの停留所に止まり、人が乗り降りしていく。数個目の停留所まで10分か15分だろうか。そこで地下鉄に乗り換え。 Moskovskajaという駅で、​​路線図​では青の路線で下から3番目。ここから青の路線を北上し、路線図でAと表示のあるNevskij Prospektがホテルの最寄り駅。 駅に入ると、改札の手前に出札所があり、僕らの荷物を見て、なぜかカミサンは2枚、僕は1枚という。1枚40ルーブルなので、たいした額ではない。日本でもかつては大きなものを持ち込むと、手荷物料を取られたが、自動改札の今は、そんなものは気にしたことがない。 たぶんそうだろうと思ったのは、改札口にバーがあり、カミサンの荷物は背が高いのでカミサンともう一人分バーを通るために必要であり、背の低い僕の荷物はバーに抵触しないので一人分ということ。 そこからいきなり階段。 重い荷物をもって階段はきついなぁ 実は、多くの階段では壁面のどちらか側に金属製のスロープが設けられていて、大きな荷物は、それを使って移動するらしいのだが、この段階では僕らの知るところではない。 階段が終わると、今度は長いエスカレーター。スピードが速く、荷物が落ちそうになる。こんなものをこの深さのエスカレーターで落とせば、人身事故になってしまう。必死に抑える。 ロシア一般に冷戦時代の影響で防空壕を兼ねて建設された地下鉄の駅は深い。Petersburgの場合、地質的なことも加わり、特に深いと聞く。延々と妙に豪華なエスカレーターを降りると、これがまた立派なドームの広い駅。一面二線のホームで、ホームの両側にそれぞれ別方向の電車がやってくる。日本では大阪御堂筋線の梅田とか心斎橋を、さらに豪華にしたような造りである。 「どっちだい?」 路線図を見ているカミサンに尋ねる 「こっち!」 「右側通行と左側通行が日本とは逆だよ。大丈夫?」 「たぶん」 二重ドアが開いて電車に乗り込むと案の定、電車は僕らの感覚とは逆の方向に動く。 「なんかなぁ逆方向に行ってない?」 「待ってよ!今路線図見てるんだから」 問題は路線図じゃなくて方向なんだけど.... 「だいじょぶ。路線図の目的地の方向に動いてる」 「どうだろう?日本でも電車の左右で同じ路線図出してる電車、いっぱいあるよ。反対側のも見てよ」 「今見るわ........やばいかも 右と左の路線図、一緒だよ」 「それなら、次の駅で反対側の電車に乗り換えればいいさ」 と言ってる間に、電車は地上に出て川を渡る。車内放送が次の駅名を伝えたらしい。 「ごめん!やっぱ逆」 「ぎゃっ!」 ところが、次の駅は、予想に反し、二面二線の地上駅。簡単に反対側に乗り換えられない。 「じゃあもう一駅次まで行ってみるか」 ところが である。 電車はこの駅止まりらしく、乗客全員が降りていく。僕らもやむなく電車から降りる。 この駅の次の駅が終着らしいのだが、そちらまで行こうというのだろう。ホームのベンチに座る人もあるが、次の電車がいつ来るのか。次の駅で反対側に乗り換えられるかどうかの保証はない。 しょうがない。向かいのホームに移動しよう。 ところが である 階段はまあまあ、そんなにひどくなかったのだが、ホームには改札が別にあって、もう一度切符を買わねばならない。切符といってもトークンとでもいうのか、コインのようなもので財布の中では一緒になってしまう。回数券があると旅行ガイドにはあったが、そんなものを売っている様子はない。 そんなことを言っている間に、電車が発車してしまった。 係員の指示で、やはりカミサンは二人分、僕は一人分を払って入場する。 ロシアの地下鉄はすごい。10時過ぎにもかかわらず、次の電車がやってきて、僕らが乗ると、それほど待つことなく発車してしまう。これは、僕らがこの旅行中乗ったすべての路線で、そうだった。 しかも、どの駅も(地上駅は別)空調されていて、しかも転落防止の二重ドア。 駅間距離は長い。それほど早いスピードで走るわけでもないが、結構な時間がかかり、たぶん駅間は2kmはあるのではないか。電車に乗ってくる人々は、この時間なのでか、事務系ホワイトカラーか学生と思しき人が多い。 身なりはしっかりしているが、日本の人々の服装と比べると、どの人たちの服にも着古した感があり、質素だが清潔。酔っ払いは皆無。 20分ほどだろうか、電車は僕らの目的地Nevskij Prospektに到着。とりあえず、長いエスカレーターに乗って上に登っていく。この駅は乗り換え駅なのだが、僕らの乗った青の線の駅はNevskij Prospekt、乗り換えの緑の線の駅名はGostinyj Dvor。二つの線の間に改札はないのだが、駅名が違う。 さしずめ近くで言えば、小田急線の豪徳寺と世田谷線の山下。JRの大阪と阪神、阪急、地下鉄の梅田みたいなもんだ。実は、緑の線は、このあたりではNevskij Prospekt(ネフスキー大通り)の下を走っているので、「Nevskij Prospektのどこ」を言っていて、それに対し青の線は、Nevskij Prospektとの交差ですよとお知らせしてくれている という論理。 出口に行くのかと思えば、乗り換え線のホームに出てしまったので、もう一度やり直し。改札を出ると 階段...... さほどの長さではないが、荷物が重い。 それでも、さぁ、あとはホテルまで歩くだけと気を取り直して階段を登って地上に出た。 「どっち行くの?」 「待って、今ガイドブック見るから」 「よせよ。もう。あそこにホテルのネオンがあるだろ。あそこまで行ってどこだか聞くんだ」 「嫌だよ。ガイドブック見るの!」 一般的にはカミサンが正しい。しかし、僕の直観は、それでは分かるまいと告げていた。 ガイドブックの地図と旅行社から送られてきた地図を見比べ、カミサンが示す方向へと歩く。しょせん、それは僕がホテルのネオンと言った方向ではあるのだが..... 5分ほど歩いたところで、旅行社から送られてきたホテルの位置と思しきあたりに着いたのだが、それらしきものは見えない。 「じゃあこのあたりを探してみましょう」 文学カフェとかがある一帯なのだが、ホテルらしきものはない。荷物を引きずって、そこらを一周するが、目指すところは見当たらない。 思いあまってカミサンが文学カフェに入り、レジのおっちゃんにホテルを聞くのだが、わからない。 警備員のようなおっちゃんが、Nevskij Prospektの僕らがやってきた方向を指して、このまままっすぐ歩いて行けと言う。わからん。 「しょうがない。住所から聞いてみて」 英語ができるという女性に聞くと、やはりNevskij Prospektの逆方向を示す。 ようやくカミサンが納得して、そちらの方向に歩く。 橋を渡って一本目の角を曲がる。ホテルの住所にある通りの名前。 「こんなとこ?誰も歩いてないじゃない。ホテルなんかあるの?」 「しゃあねぇだろ。住所がそうなんだから」 ところどころにある住居表示をたどっていくと、おや?目的地の住所を過ぎてしまっている。 これはショッピングセンターだな。 右側が奇数、左側が偶数だから、こっち側でいいはずだよな。 ホテルの住所と思しきあたりの建物に、中庭に入っていくと思われる通路があり、そこへ入る。 「こんなところにホテルがあるの?」 「フランスでもイタリアでも、3スタークラスはこんなもんさ」 ヨーロッパのホテルは、よほど金を張りこまない限り、そんなもんだ。日本を基準に考えると間違う。 フランスでは一泊二万円で屋根裏だったし、ロンドンのインターコンチネンタルなんぞ、100年前みたいなところに泊まらせられた。ミラノのミケランジェロとかブルネルスキーはまあまあだったが、あいつらは4スターで相当高い。 舗装もない中庭の一角に灯りのついたところがあり、疑心暗鬼のカミサンを伴って、そこまで歩くと、やはり、そこが目指すホテル。 夜勤のおっさんが一人のフロントでチェックイン。 425号室という。カードキーと、もう一つ階段室の鍵を渡される。二方向避難の非常用階段の鍵だ。 「朝食は7時から。一階の別の場所」と、ドアの先の左側を示す。 カミサンはまだ知らないが、たぶんエレベーターはあるまい 「エレベーターはどこ?」と聞くと、「エレベーターは工事中。完成は二か月後」 ははん、ワールドカップ狙いで、客室を増築してるんだな。 重い荷物を4階まで引きずって持ち上げ、そこから段差いっぱいの回廊を、中庭を半周巡って反対側。ところが、423まで行くと、その先は工事中。埃除けと思しき幕をめくってさらに進もうとすると、カミサンが、なんかの間違いだから、もう一度フロントに行くと言ってきかない。 やむなく、階段室まで戻って荷物をそこに置いて一階まで降り、フロントのおっちゃんに、部屋がわからんと伝えると、やおら電話する。しばらくすると、すでに寝ていた風情の兄ちゃんがやってきて「彼が案内する」という。 もう一度階段を4階まで上がり、回廊を半周。さらに埃除けの幕をくぐって進んでいくと、424号室、そして425号室。部屋が分かったところで、兄ちゃんはさらに先へと僕を案内。飲料水のタンクがあり、さらにその先が非常階段。 ようやく部屋に入ると、「この細さのベッドに寝るのか!」というほどベッドは狭い。 まぁ、ヨーロッパのホテルはこんなもんだ。 幸い、飲み水はちゃんとあるし、バスタブもあってお湯も出る。トイレも流れる。部屋にはSamsungのエアコンがj入ってるが、これは効かない。テレビも、つかない。エアコンは夏用だけで、それとは別に壁際にヒーターが入っていて、部屋は暖かい。 カミサンはこれほどはないまでの不機嫌。工事中の通路を動画に撮影し、持参のWi-Fiを立ち上げ、旅行社の担当者にメールした。 「まぁ、怒るなよ。今日はここに寝るしかないんだから。日本人夫婦がタクシーじゃなくてこの時間にやってくるなんて彼らは想像してない。チェックインが遅かったから、ひどい部屋に入れられたのさ」 時間は12時を回っている。日本時間では朝の6時。完徹だな。長い一日。 風呂に入ってベッドに倒れこんだのはもう現地時間の1時過ぎだった。 僕らの波乱万丈のおろしや国酔夢譚は、まだようやく始まったばかり この項続く

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