名もなき少年

名もなき少年

名前すら与えられない少年がいました。
彼には母も父もいません。
彼には愛し守る人も、愛してもらい、守ってくれる人もいません。
彼は一人ぼっちなのです。
ある日用事があり彼は隣町に出かけました。
町には彼と同い年くらいの子供がたくさんいました。
町の子供は遊ぶ仲間もいれば、遊ぶ道具もあります。
そして母も父もいます。
少年はとても悲しくなったのです。
そして同時に孤独感と孤立感を味わうのです。
その光景を彼は町に行く度に目にしたのです。
彼は一生を通し他の人から愛されず、守られずに終りをとげるのでしょうか?
永遠の眠りにつくのでしょうか?
少年の心は深呼吸ができない。
そんな苦しいとき少年は空を見上げます。
彼はふと気がつきます。
空を飛んでいる鳥達は何も悩む事はないだろうと。
青く澄んだ大きな空はまるで父のよう。
白くふわふわと柔らかそうな雲は母のよう。
きっと空が自分の居場所なんだと。
自分も空を飛ぶ事ができないかと。
少年は考えました。
鳥と共に空を舞い、空という新しい地で新しい人生を送りたいと。
少年は強く願った。
そして彼は屋根によじ登りました。
さあ空へ!!!
彼は腕を大きく広げ。
向こうの太陽を見上げます。
今行くよ!!!
彼は飛んだ!!!
空を見ながら、鳥を見ながら。

思ったとおり。
空は大きく果てしない。
雲は疲れたときに丁度いいベッドになる。
空は僕の生きる場所。
僕の安住の地とする。

少年の周りは鳥達ではなく少しばかり人にも見えるものが飛んでいた。
彼と同じような背格好。
大人というより子供に近い。
その生き物は楽しそうだ。
笑っている。

子供だ!!
その子供たちは少年に近づいてきた。
その子供はいった。
「君、背中を見てごらんよ。君は僕の兄弟なんだよ。」
少ししか見えないが肩越しに白いフワフワと風をうけている羽が見えた。
付いてるというより生えている。
周りの子供たちの背中にも羽が生えていた。
大きい羽が。
少年はまさかとは思ったが彼の背中に生えているのも子供たちと同じものだった。

あなたは気付きましたか?
彼の正体に・・・・。

彼は天使。

彼はなぜ名前がつかなかったんだと思いますか?
なぜ他の子供と遊べなかったんだと思います?

他の人間には見えなかったんです。

どうして彼に母も父もいないのか?

彼が天に仕える清い者だからなんです。
彼の両親は一緒に空を飛んでいる天使たちと同じで、神なのです。
だから兄弟と天使たちは言ったのです。

彼は赤ちゃんのとき雲から落ちてしまい、あの町でひとり寂しく生きていたのです。
少年の両親は彼が自分から来る事を待っていたのです。


しばらく経ってしまいますが、彼は今神に仕える身としてたくさんの生と死を見守ってきました。
誕生する者、去っていく者達を・・・・。
彼はあとしばらく経ったらきっと神となり多くの人々に幸福と試練を与えるでしょう。
彼は今幸せだそうです。
今彼は彼らしく生きています。


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