あの日・・・あの日の事を、一日も忘れたことはない・・人生の中で、一番悪い日。悲しい日。 私は、枕元においてある携帯が鳴って目がさめた。 夫からの電話だった。 その日、夫は会社の人間ドックに入るため、朝5時に出かけていた。 前の晩、遅くまで仕事をしている私を気遣って、起こさないで出かけていった。 小雨が降る中,自転車で・・・ (忘れ物でもしたのかな・・)電話に出ると見知らぬ男の人の声 「救急隊ですが,ご主人はどこに行こうと思っていたのですか?」 なかなか用件を言わない救急隊の方に、不振に思いながらも(事故だ・・)と思った。 搬送先の病院を訪ねる私に、「奥さん・・落ち着いてください。ご主人が路上で倒れていました。心肺停止状態です・・・」 その先は、覚えていない。なぜか外にいた。 そして(娘には悟られないようにしなくちゃ)それだけしか考えていなかった。 病院では、眠っているようにしか見えない夫を、起こそうと必死だった。 クモ膜下出血。 医者の話では、あっと言う間の出来事だったらしい。 もし、あの日。私が起きて車で駅まで乗せていってたら、夫は死ななかったんじゃないのか・・・・ 自分の事で、いっぱいいっぱいになっていて、夫の体調の変化を見逃さなければ・・・ 夫は、たしかに疲れていた・・・ やさしい言葉もいたわる事もしてあげなかった、私が死を早めてしまったんじゃないか・・・ 悔やんで悔やんで・・・ 夫いつもやさしかった。誰にでもやさしかった。 私は・・・・自分の事ばっかり・・ もし、今、夫と話すことが出来たなら「ごめんね」と言いたい。 いまさら遅いけど。 四十九日、納骨を終え、(もうあきらめなくちゃいけないな)と思い初めていたら 夫が夢に出てきた。 ニコニコしながら「ひとりは、さみしくてよぉ」とおちゃらけて笑ってる。 「今なら、ひとつだけお願いを聞いてあげるよ」と。 「じゃぁ・・あの日の前の日に戻して!ちゃんと起きて駅まで乗せていくから」 と言う私に 「それは、なぁ・・・・・」困ったような顔をしてる。 目が覚めて、本気で生き返らせれないか考えた。 私は、娘を立派に育てなければならない。 夫への恩返しだから。 泣いてなんていられない。泣いてる顔は嫌いなはず・・・・ 私が、お墓に入るとき沢山の話を持っていかなければならない。 くやしい事に、夫は44歳で止まっているが、きっと私は夫の歳を越しているだろう・・・ 8歳も年上だった夫に「ばあさん!」とか呼ばれるかもしれない。 「あの日は、なぁ・・・」とか話してくれるかな。 その日を私は、楽しみにしている。 |