橋本健二の読書日記&音盤日記

2007/05/31(木)07:21

ムック・セオリー『リアルリッチの世界』(講談社・2007年・952円)

格差社会と階級社会(95)

 貧困に関する本が続々出版される一方で、富裕層を扱った本も多くなっている。格差拡大と二極化傾向が、出版界にも現れている。これは、富裕層の生活カタログといった趣のムック。株で儲けてフェラーリを乗り回す成金も出てくれば、先祖代々の本物の金持ちも出てくる。腕時計、ホテル、別荘、デパート、クレジットカード、レストラン、社交クラブ、医療など、領域ごとに富裕層向けサービスが紹介されていて、「うーむ」と唸るしかない。山梨にある「シャトー・ルミエール」のオーナーが出てきて、数百年前のものを含む一万本のコレクションの話をしているが、これは真面目にうらやましい。「ルミエール」程度のワイナリーが、そんなに儲かるはずはない。先祖の資産があってのことである。脳天気な記事が多い。月に一〇〇万円近くもかけて子どもを慶応幼稚舎に入れようとする親たちは、「天は人の上に人を作らず」「独立自尊」の福沢諭吉の教育理念を絶賛しているとか(笑)。「アークヒルズクラブ」についてある会員が、「日本の方向性がここで決まっていると言ってもいいでしょう」と豪語する。君が決めてるわけじゃないだろうけどね。  最初の方はページの色がベージュだが、次は白になり、ついでベージュ、茶、黒とだんだん濃くなっていく。その順にだんだん話がやばくなってくる。単なる金持ちの贅沢暮らしの話から、デパートや銀行が客を裕福さによって差別している話、法の網の目を使った蓄財、さらには相続税逃れや税務署の査察など。雑誌の特集なども多いが、あれこれ買い集めなくてもこれ一冊で、最近の富裕層ビジネスは概観できそうだ。もっとも、こんなムックに載らないこともいろいろあるのだろうけれど。

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