橋本健二の読書日記＆音盤日記

[酒・居酒屋・グルメ] カテゴリの記事

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  『古典酒場』第6号(三栄書房・2009年・980円)

  　居酒屋ムック「古典酒場」の第六号が出た。表紙のデザインが変わったので、書店で探すときはご注意。今回のテーマは「山手線酒場」で、大崎、五反田、駒込、田端など、ふだん行かないような駅の近くの居酒屋がいろいろ紹介されている。　必見は特集冒頭の「一日で何駅呑めるかな？　目指せ全２９駅はしご酒」で、倉嶋編集長が山手線全駅の居酒屋を一日で制覇しようと試みた記録。結局、１９駅で沈没したというが、その根性は立派。沈没したところの写真まで載っている。この人、美人でキャラが明るいので、今回を機に、もっと前面に出ていいのでは？　さて、その遺志を継いで、全駅制覇を達成しようという人はいませんか。かなりの数の駅を、ビール小瓶と酎ハイ一杯でやり過ごせば、何とか達成できるかも。　ちなみに私も、恒例の座談会で登場しています。古典酒場（vol．6）

  2009年03月14日

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  山縣基与志編『歌が聞こえてくる　東京ガード下酒場』(毎日コミュニケーションズ・2008年・1300円)

  　居酒屋本にも、トレンドがある。地酒ブームが始まったころは、地酒をいろいろ揃えたのがいい居酒屋だとされ、銘酒居酒屋の紹介が多かった。太田和彦氏が登場してからは、居心地の良さや伝統が重んじられるようになった。景気がよかった時期には、懐石風の良質の料理を出すグルメ居酒屋を紹介する本が増えた。　そして最近は、下町酒場や立ち飲みなど、大衆的な店を紹介する本が受けている。本書も、この最新の流れに沿ったもので、有楽町、新橋、神田・上野、渋谷と都心を一回りした後、高円寺、吉祥寺と中央線へ向かう。最後には番外編として、思い出横丁、OK横丁、ハモニカ横丁など、ヤミ市起源の飲食店街の紹介が。ガード下ではないけれど、同類とみなされているわけだ。というわけで、私好みの店が満載。歌が聞こえてくる東京ガード下酒場

  2009年01月15日

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  森下賢一『居酒屋礼讃』(筑摩書房・2008年・800円)

  　かつて毎日新聞社から出版された単行本に、大幅加筆して文庫化された。原著は、今日では花盛りの各種居酒屋本の元祖とでもいうべきもので、私も大いに参考にさせていただいたもの。とくに、客の社会的構成を服装から読み解くという手法は、ここから着想を得ている。　本書は、酒と居酒屋の歴史や、文学史の中の酒と居酒屋にも多くのページを割き、とくに俳句に関する部分は、今日まで他の追随を許さない。東京のすぐれた居酒屋を紹介した部分は、新たに取材して修正と追加がされていて、ガイドブックとしても役立つ。　膨大な内容だけに、十分アップデートできていない部分もないではないが、ここまでやってくれれば文句はない。居酒屋好き必携である。居酒屋礼讃

  2008年12月29日

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  坂崎重盛『東京煮込み横丁評判記』(光文社・2008年・1200円)

  　著者は墨田区に生まれ、大学で造園学を専攻し、長年にわたって自治体で都市計画に携わった人物。退職後はエッセイストとなり、『TOKYO 老舗・古町・お忍び散歩』『東京本遊覧記』などの著書がある。当代一の、東京街歩きの達人の一人といっていい。この著者が、煮込み酒場について書いたというのだから、読まないわけにはいかない。　巡り歩くのは、阿佐ヶ谷から始まって、小岩、新橋、浅草、赤羽、北千住と続き、だんだんディープ下町へと入りこんで三ノ輪、立石、八広などと続く。街歩きの楽しさと、大衆酒場でのくつろぎが一体となった、希有な本。居酒屋好きなら、必読である。東京煮込み横丁評判記

  2008年12月20日

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  村上春樹『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』(平凡社・1999年・1400円)

  　この夏、アイラ島へ行って、何カ所かのディスティラリーを見学してきた。もともとアイレイウイスキーは好きだったのだが、それ以来ますます好きになり、今では食後から寝るまでの間の酒は、たいがいウイスキーである。ロックでなめるように飲む。これまでは、のんべんだらりとビールやら酎ハイやらを飲み続けていたから、酒量もだいぶ減ったようで、なかなか健康的だ。　これは村上春樹が、妻の村上陽子さんとともにウイスキーを求めてを旅した記録。写真は、陽子さんによるものである。前半はアイル島のアイレイモルト、後半はアイルランドのアイリッシュだが、前半の方がずっと出来がいい。生ガキにアイレイモルトをかけて食べる話は垂涎もので、先日実際にやってみたが、たしかにいい食べ方である。「子供が生まれると、人々はウイスキーで祝杯をあげる。人が死ぬと、人々は黙してウイスキーのグラスを空ける。それがアイラ島である」という締めくくりも、気が利いている。　現在は文庫も出ているが、こういう本は大きなサイズで読みたいものである。村上春樹『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』

  2008年12月11日

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  『東京銘酒肴酒場』(三栄書房・2008年・1200円)

  　居酒屋ムック『古典酒場』の、これまで発行された5冊の総集編ともいうべき居酒屋ガイドブック。ホッピーと酎ハイ、もつ焼きと煮込み系の下町大衆酒場を中心に、多数の店を紹介している。A4版と大きいので、開いて歩き回るには向かないが、飲みながら読むにはちょうどいい。　全体は都心部エリア、東東京エリア、西東京エリア、南東京エリアと4つのセクションに分かれているのだが、下町大衆酒場が中心だけに普通の分け方だと東東京ばかりになってしまう。このため、赤羽や十条までが西東京に含められてしまっている。南東京など、わずか6軒だ。この構成からも、本書のスタンスがよくわかるというものである。　巻末には例の「居酒屋通ブログ5人衆」おすすめの居酒屋リストがあり、私も登場している。東京銘酒肴酒場

  2008年12月04日

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  「BRIO」2009年1月号

  　光文社のミドル男性向け生活誌だが、最新号の「旬の銀座」という欄に登場している。毎月、画廊やレストラン、バーなど、銀座のスポットを紹介する一ページの記事だが、今回は私が銀座の居酒屋について語ったものを、ライターさんがまとめてくれた。たとえば、こんな具合である。「お洒落な店が現れては消えていく銀座にあって、名店と呼ばれる居酒屋には何十年も続いている店が多い。戦前から現代まで変らない銀座を代表しているのは、デパート、呉服屋、道具屋、料理屋などですが、居酒屋もそれに近いくらいの歴史で、銀座の柱の一つになっていると思います。」　1ページだけなので、書店で立ち読みでもしてください。BRIO (ブリオ) 2009年 01月号 ［雑誌］

  2008年12月01日

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  なぎら健壱『絶滅食堂で逢いましょう』(徳間書店・2008年・1500円)

  　なぎら健壱が、古き時代の雰囲気を色濃く残し、いつ滅びるかわからない(ように思わせる)食堂・喫茶店・酒場を巡り歩くという、雑誌連載の単行本化。赤羽「まるます家」の女性店員たちがずらりと並んだ、表紙の写真が素晴らしい。奥には、なぎら健壱が何ともいえない笑顔を見せている。　昼間に大衆食堂を巡り歩きビールを飲むというのは、自由業の特権で、なかなか真似ができない。ヒマになってらやってみたいものである。吉原の「桜なべ　中江」、森下の「はやふね食堂」は、ぜひ行ってみたい。　かつては日雇い労働者でいっぱいだった新宿の「食堂長野屋」のおかみは、「バブルがはじけたら、みんなホームレスになっちゃった」という。歴史のある安くていい店がなくなってしまう一因は、ここにある。私の老後まで、健在でいてほしいものである。絶滅食堂で逢いましょう

  2008年11月28日

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  西健一郎『日本のおかず』(幻冬舎・2008年・1600円)

  　東京の日本料理では最高峰ともいわれる、新橋・京味のご主人が、家庭で作ることのできるお総菜を中心に解説した本で、かなり評判になっている。　レシピはシンプルで、理にかなっている。さっそく2種類ほど作ってみたが、レシピどおりにすると、意外に味が濃い。料理の初心者は、味付けがなかなか決まらず、調味料を追加しているうちについ濃すぎる味付けになってしまうように思う。少し料理を覚えてくると、今度は味が濃すぎになるのを避けるあまり、薄味になりすぎるようだ(私がそうだ)。潔く適量の調味料を一度に加え、旨みを引き出すということか。　しかし、そもそも京味で使っているものとは素材の質が違うだろうから、これで良いのかという疑問も残る。もう少し、いろいろ作ってみよう。日本のおかず

  2008年11月27日

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  古谷三敏『BARレモン・ハート 23』(双葉社・2007年・552円)

  　先日23巻を手に入れて読んだばかりだが、今度は24巻が出た。今回も13のストーリーを収めているが、酒に関するうんちくを生かした、おしゃれで知的な雰囲気のものが多い。　「島育ち」──登場するのは、「ザ・シックス・アイル」というウイスキー。スコットランドの6つの島のモルトをブレンドしたとは、それだけでも飲んでみたくなる。飲み屋街の描写が素晴らしい。　「ラベルの謎」──「ラフロイグ　田中屋オリジナル」とは……。ぜひ手に入れたいものである。　「ショットガン・ウェディング」──「１＋１＝３」で、できちゃった婚の乾杯酒とは。これは、古谷三敏の発想の勝利である。BARレモン・ハート（24）

  2008年11月20日

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  古谷三敏『BARレモン・ハート 23』(双葉社・2007年・552円)

  　この作品、連載開始から20年以上経つが、ようやく23巻。粗製濫造はせず、良い水準を保っているといっていい。今回は、13のストーリーを収めている。　「予期せぬ掘り出し物」──アードベッグにこんな酒(セレンディピティ)があるとは知らなかった。いかにも松ちゃん好みの女性が登場するが、その後は何もないようだ。　「幸せの黄色い鳥」──メルシャンの白ワイン「甲州きいろ香」のラベルに、鳥が描かれているというのは気づかなかった。このワイン、甲州ワインとしては香りが強く美味しい方だが、ちょっと値段が高めだ。　「男勝り」──若い編集者たちに恐れられている女性編集者が出て来るが、これくらいの怒り方は当たり前では？しかし、このジン(ウェット・バイ・ビーフィーター)は飲んでみたい。Barレモンハート（23）甲州きいろ香　　［2007］　750ml

  2008年11月08日

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  なぎら健壱『酒にまじわれば』(文藝春秋・2008年・1381円)

  　『朝日新聞』の購読を止めた。小泉改革礼賛、規制緩和推進の論調が目だった頃から、止めようと思ってはいたのだが、仕事に必要な情報があるのは事実なので、そのままにしていた。しかし今年、3ヶ月間の渡欧で止めたのを機に、そのままにすることにした。そういうわけで、現在は『毎日新聞』と『東京新聞』を購読している。　しかし『朝日』購読中に、楽しみにしていた記事がなかったわけではない。そのひとつが、なぎら健壱の連載エッセイだった。この本は、それを一冊にまとめたもの。文句なしに、楽しめる。笑わせてくれる。かと思えば「縄のれん　死んだ親父に　会いに行く」なんて風にほろりとさせてくれたりもする(これは、なぎらの知人の句)。　ともかく軽いエッセイなので、よほどの酒好きかなぎらファンでない限り、借りて読むのがいいかも。もちろん、私は買いましたが。酒にまじわれば

  2008年10月18日

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  『古典酒場・銀座昭和浪漫編』(三栄書房・2008年・933円)

  　好評の居酒屋ムック、第5弾。今回の特集は、なぜか銀座。なぜ銀座かというと、収録されている座談会で編集長の倉嶋さんが「高級エリアにある大衆酒場に女の子を連れて行ったら、『ここにこんな渋い大衆酒場があるんだ！』って、喜ばれたりしませんか？」と動機を語り、他の参加者に「そんなところへ連れて行って喜ぶ女性は、編集長だけですよ」と突っ込まれている。いつものように、安くていい店を集めているが、ちょっと洋風のバーが多すぎでは？　巻頭には、池袋・人世横丁へのオマージュが。文章は太田和彦だが、この人、ときどきこういう名文を書く。　ちなみに、これまで４回参加している恒例の「居酒屋通ブログ○人衆よもやま話」ですが、今回はヨーロッパ滞在中のため欠席しました。古典酒場（銀座昭和浪漫編）

  2008年10月03日

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  『食楽』2008年6月号

  創刊3周年とのことだが、どうしたことか、いままで知らなかった雑誌である。今回の特集は「いま通いたい　焼鳥屋焼きとん屋」。焼鳥屋と焼きとん屋を、このように並列させたタイトルというのは、いままでみたことがなかった気がする。グルメ本や雑誌で取り上げられるのは、たいがい地鶏系の高級焼鳥屋で、焼きとん屋が取り上げられるのは大衆酒場関係の記事と相場が決まっていた。少し事情が変わってきたようだ。取り上げられるのは、勘定が万を超えそうな高級焼鳥屋から、立石の「江戸っ子」まで。鶏と豚、それぞれの部位についての解説が役に立つ。焼きとん好きの私でも、「ズイ」「ドテヤキ」は食べたことがない。第2特集はクラフトビール。両国のポパイを超える店がないのは分かっているが、いってみたい店もいくつかあった。『食楽』2008年6月号

  2008年05月21日

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  『古典酒場・沿線酒場〈京成＆世田谷線〉編』(三栄書房・2008年・933円)

  第四弾が出ました。今回も、巻末の「居酒屋通ブログ五人衆よもやま話」で登場しています。テーマは「山の手酒場・下町酒場」。その他、五六頁にはホッピー酒場についても書いています。ご笑覧を。さっそくで恐縮ですが、訂正が一件。下高井戸駅の前の踏切のそばの店を推薦していますが、昨日行ったところ、名前こそ酷似しているものの、まったく別の店になってしまっていました。焼酎の種類は激減し、串焼きは種類が減り高くなりました。推薦は撤回します。Tokio古典酒場（沿線酒場〈京成＆世田谷線〉編）

  2008年04月22日

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  森まゆみ『懐かしの昭和を食べ歩く』(PHP・2008年・950円)

  ご存じ森まゆみさんが、東京・横浜の老舗を食べ歩きながら、ご主人や女将さんに先代や創業当時の思い出話を聞くという趣向。ありがちな企画だが、さすが森さん、ツボを押さえたインタビューで読ませてくれる。「予約なんぞは下町らしくないし」と満員の店を敬遠したり、ご安心ください、本書の店は『ミシュランガイド』には載っておりませんとさらり言ってのけるところも、いい。浅草と銀座のいくつかの店には、ぜひ行ってみたい。ただ、記述に初歩的な誤りがある。17頁に、小津安二郎が奥様と一緒に浅草の洋食屋に来たとあるが、小津は生涯独身だった。93頁に、新橋お多幸で「昔は裏を三十間堀が流れていたこと」を思い出したとあるが、三十間堀は1949年から埋め立て工事が始まっているので、1954年生まれの著者が見たはずはない。汐留川の間違いだろう。訂正しておいた方がいいと思いますよ。「懐かしの昭和」を食べ歩く

  2008年04月21日

• 『ミシュランガイド東京2008』(日本ミシュランタイヤ・2007年・2200円)

  こんなもの、買うつもりはなかったのだが、必要があって購入。はっきりいって、行ったことのある店は一つもない(笑)。しかし、食べたことはなくても、この本がけっこういい加減なものであるということはよくわかる。まず、都心および準都心8区(品川・渋谷・新宿・中央・千代田・豊島・港・目黒)の店しか掲載されていない。調査員が、この範囲でしか動いていないのだろう。文章が、素人的。「余計な手を加えすぎず、素材の持ち味を充分に引き出すことを心掛けていると言う」。あたりまえだ。「お勧め料理の白焼きは、さっぱりとわさび醤油で味わう」。うなぎの白焼きは、そうやって食べるものだ。「自慢のだしは、味付けのバランスに配慮が込められている」。まともな料理屋で、配慮をしない料理人はいないと思う。「夏場の鱧は骨切りにし」。当たり前だ。これで、2200円。まさか、毎年出すつもりじゃないでしょうね？

  2008年04月16日

• 河原萬吉『古今いかもの通』(四六書院・1930年・70銭)

  ありとあらゆる「いかもの」についてのうんちくを並べた奇書だが、戦前期の酒や肴についても書かれていて、私にとっては資料的価値がある。盛り場の夜店に「やきとり」と書かれた屋台がでていて、一串二銭などと書いてあるから、地方から出てきた人は東京は安いものだと感心するかもしれないが、その正体は豚の五臓六腑であり、材料は屠殺場から一頭分一円五六〇銭で仕入れてくる。さらに、この「豚の子宮を食べさせるやきとり」に付き物なのはデンキブランで、一杯十銭。その製法は「日本薬局方に合はぬ不正アルコールをわかして、冷めないうちに、砂糖の黒焼き少量を加へ」一晩放置したもの、とある。やきとりの方はこの通りだろうけれど、そんな「デンキブラン」が実在したのだろうか。謎である。かなり売れた本なのか、ネットの古書店でけっこう簡単に入手できる。

  2008年03月25日

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  酒類総合研究所『うまい酒の科学』(ソフトバンク・2007年・952円)

  全ページカラー印刷の新書。醸造酒とは何か、蒸留酒とは何かから始まって、清酒、焼酎、ワイン、ビール、ウイスキーとブランデー、リキュール、スピリッツ、その他の醸造酒、合成清酒、みりん、粉末酒と、あらゆる酒のジャンルについて、その製造法や飲み方などについて網羅的に解説した入門書。酒飲みには、たいへん役に立つ本だろう。お役所の作った本らしく、酒税法など法規上の規定について詳しく書かれていて、初耳の情報も。たとえば、EUの規定で「クレーム・ド・○○」というリキュールは、1リットルあたり250グラム以上の糖分(カシスのみは400グラム)を含むことと規定されているとのこと。道理で甘いわけだ。ちょっと、気になる記述もある。リキュールのところになぜか「加賀の菊酒」が取り上げられているが、これは純然たる日本酒。ビールのところでは「発酵が終わるころになると、上面発酵酵母は液面に浮き上がり、下面発酵酵母は底に沈む性質がある」と書かれている。よくある記述だが、実際には、発酵が終わるとどちらも底に沈むはず。酒の専門家が書いているのだろうから(まさか、素人のライターが書いて、チェックから漏れたということは？)、何か意図があるのかもしれないが、誤解を招きそうだ。とはいえ、酒飲みなら一家に一冊という、スタンダードな解説書で、広くお勧めできる。うまい酒の科学

  2008年03月20日

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  雁屋哲・花咲アキラ『美味しんぼ・101』(小学館・2007年・505円)

  今回は2話。「親の味・子の心」は、山岡と雄山の相互依存と確執のお話で新味はないが、山岡が雄山の教えを段ボール箱2つ分のノートに書き残していたという事実が、はじめて明らかにされる。しかし、山岡の人格描写との間に一貫性がないように思うのだが。「食の安全」は、食品添加物と家庭の食習慣の崩壊、そして有機栽培についての長編評論といった性格のもの。情報量があって勉強になるし、活字が苦手な若者には最適だろう。美味しんぼ（101）

  2008年03月03日

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  古川修『世界一旨い日本酒』(光文社・2005年・700円)

  最近、純米生酒を常温熟成させ、場合によっては開栓して空気に触れさせた状態で熟成させるなどして、燗で飲ませる店が評判を呼んでいる。一昔前までは、いい日本酒は冷やで飲むものであり、とくに生酒は冷蔵しておいて温度を上げずに飲まなければならないとされていたから、最初は驚いた。しかし、実際にやってみると、そのうまさに驚く。この飲み方の仕掛け人の一人が、この著者。なぜ、このような間違った「常識」が広まったのかについて、戦後日本酒の歴史をひもときながら解き明かし、新しい日本酒の魅力について熱っぽく語る。日本酒好きは必読。ちなみに、こういう日本酒を飲ませてくれる店が新しく阿佐ヶ谷にできた。「吟雅」という店で、南口一番街の一番奥にある。興味のある人は、どうぞ。古川修『世界一旨い日本酒』

  2008年02月19日

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  前田己治子『英国パブの誘惑』(双葉社・2000年・170円)

  今年の夏は、英国へ行く予定。となると、パブについて予習しておかなくては。こんな時にうってつけの一冊を見つけた。基本の単位は、カラー写真入りの2-4ページの記事で、そのタイトルは「パブの時間割」「パブの種類を見わける」「パブのドレス・コード」「オーダーの英会話」「情報基地としてのパブ」といったぐあい。とても役に立ちそうだ。英国パブでエールを飲み歩く快楽を、早く味わいたい。少し古い本だが、英国のパブがそう変わるはずもあるまい。 前田己治子『英国パブの誘惑』

  2008年01月30日

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  ラズウェル細木『酒のほそ道二十二』(日本文芸社・2008年・590円)

  いつも買うわけではないが、何となく気になって買ってみた。酒と肴、そして居酒屋をテーマにしたマンガである。とくにストーリーがあるわけではない。これは旨そうだとか、たしかにこんなことってあるよなぁとか、細かいところで共感を呼ぶのが身の上。第1話、居酒屋のコハダは、寿司屋と違って大ぶりで酢が強めの方がいい、というのはその通りかも知れない。第8話、確かに私も、いくらスタウトだからといって、常温ではなかなかのどを通らない。日本の気候のせいか、それとも日本人の味覚のせいか。第20話、あさりの風干しの串焼きというのは、いかにも旨そうだ。他の貝でも、工夫すれば作れるはず。こういうマンガは、飲んべえ仲間同士で職場に備え付けておいて読むのがいちばん良さそうだ。残念ながら、私の職場はそういう環境にないのだが。酒のほそ道（22）

  2008年01月08日

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  角岡伸彦『ホルモン奉行』(解放出版社・2003年・1800円)

  著者は『被差別部落の青春』で注目されたライターだが、本書では「ホルモン奉行」を自称して、表紙写真にはわざわざお奉行様の姿で登場、全国各地、世界各地のホルモン料理を食べ歩き、屠畜や流通、料理の現場を取材している。ここで「ホルモン」と呼ばれているのは精肉以外のすべてで、多様な部位を含むが、それに輪をかけて多様な料理法があるのに驚かされる。被差別部落との結びつきが強いこともあって、なかなか食べられる店がないのが残念。著者は、いちど全国の「ホルモニスト」を集めて「ホルモン・サミット」を開いてはどうかと提唱しているが、それと関係あるのかないのか、先日長野市で開かれた部落解放研究全国集会では、関連イベントとして「ホルモン(モツ)・サミット」が開かれていた。全国のモツ料理が屋台形式で振る舞われたらしい。私はある分科会で講演を頼まれたので長野市へは行っていたのだが、時間の関係で参加できなかった。本書を読んで、無理してでも参加するんだったと深く後悔してしまった。関東のモツ煮込み・もつ焼き好きの人も、ぜひ読んでみてください。ホルモン奉行

  2007年11月14日

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  雁屋哲・花咲アキラ『美味しんぼ・100』(小学館・2007年・505円)

  　ついに、第100集。今回は全ページが「日本全県味巡り・青森編」にあてられていて、郷土料理に興味のない人は買う必要がない。例によって「究極」「至高」とは違うだろうという郷土料理が、これでもかとばかり数多く登場する。その数は、60種類近い。雁屋哲は、情報を精選するという作者の役割を、完全に放棄している。実はいま、青森の居酒屋文化についての小文を書いているところだったので、参考になるかと期待したのだが、あまり得るところはなかった。今日気づいたのだが、この「全県」シリーズには、酒と料理を合わせるという視点が希薄である。風土と素材を重んじるのは一つのやり方だが、これだけでは食文化を語ったことにはなるまい。しかしともあれ、100集突破はめでたいことではある。美味しんぼ（100）

  2007年11月01日

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  外食産業を創った人びと編集委員会編『外食産業を創った人びと』(商業界・2005年・1800円)

  　日本マクドナルドの藤田田、吉野家の松田瑞穂、テンアライドの飯田保など、外食産業の創業者たち20人の評伝である。とくに、現在のようなチェーン居酒屋の成立した経緯に興味があって、手に取ってみたもの。印象深いのはニユートーキヨー創業者の森新太郎である。外食産業元年は大阪万博の1970年というのが定説で、チェーン展開とシステム化により、板前を中心とするギルド社会が壊れ始めたのがこの時期だという(巻末の「外食産業の0年」より)。ところが森は、1938年には13店舗のビアホールをもち、全国一の飲食店チェーンになっていたうえに、1952年から大卒採用を始め、料理人の育成も始めていたというから、ビジネスモデルの先駆者ということができる。ただの飲食店ではなく、最高の建築を志したり、ヨーロッパの音楽やドイツ料理を導入したり、先駆的な試みも多い。1987年に亡くなったときは、坂口謹一郎が「ビヤホールの育ての親のご逝去にお悔やみ」と弔電を寄せたという。その他では、「がんこ」の小嶋淳司が面白い。こちらは大阪・十三の4坪半の寿司屋からの出発だから、まさに創業者である。「がんこ」の東京進出は、なぜ遅々として進まないのかというのも面白いテーマだと思うが。外食産業を創った人びと

  2007年10月22日

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  田沢竜次『Ｂ級グルメ　この町が美味い！』(筑摩書房・2007年・700円)

  　以前も書いたことがあるが、1986年から10年近くにわたり、文春文庫ビジュアル版として刊行された「Ｂ級グルメ」シリーズは、私の愛読書だった。おそらく、すべて3回ずつくらい読んだだろうか。わたしの東京の大衆食文化についての知識は、ここから得られた部分が大きい。シリーズが出なくなって寂しい思いをしていたのだが、その執筆者たちはそれぞれに活躍しているようだ。本書の著者もその一人で、これは雑誌「ヤングアニマル」連載記事を集めたもの。有楽町、秋葉原、神保町、北千住など、東京各所をめぐるＢ級グルメの小旅行である。カレーやラーメン、甘いものなど、登場するジャンルは幅広く、何かのついでにどこかへ行くことがあれば、あらかじめ関係する部分を読んでおけば役に立つだろう。ただし、居酒屋はあまり出てこない。それに「Ｂ級グルメ」シリーズが、ある種の都市論になっていたのに対して、本書はただのグルメガイドに徹している。それでいいという人もいるだろうけれど、私にはちょっと物足りない。「北の赤羽、西の吉祥寺、南の蒲田」など、東京のマクロ構造に対する目はちゃんとお持ちのようなのだが、それが前面に出ていないのは、私にとっては残念である。 田沢竜次『Ｂ級グルメ　この町が美味い！』

  2007年09月28日

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  石渡美奈『社長が変われば会社は変わる！』(阪急コミュニケーションズ・2007年・1500円)

  　ホッピービバレッジの跡取り娘で副社長、ホッピーミーナこと石渡美奈さん初めての著書。子どもの頃から作文が得意だったというだけあって、文章もなかなかのもの。プロローグからして、泣かせてくれる。経営計画書の発表後の余興で、社員たちがウルトラマンタロウの替え歌で「ミーナ、ミーナ、三代目ミーナ」と歌うのを聴いて号泣してしまったという話。こんなに社員たちから愛されている跡継ぎ娘がいるなら、これからも安心してホッピーを飲むことができそうだ。1968年生まれというからまだ39歳。いろんな人に指導を仰ぎながら、持ち前のバイタリティで、会社を引っ張っていく姿は爽快。「経営の師匠」だという小山昇を、新興宗教を思わせるくらいに持ち上げているところは、門外漢には少々余計だが、実際いろいろ助けられているようだから許そう。中小企業の経営者には、この本から学ぶところは多いはず。しかし誰よりも、ホッピーの好きな人はぜひ読むべき。数年前まで、工場がろくに掃除もされず汚かったという話や、昔の酵母を使い回し続けてビール会社出身の技術者にあきれられたという話など、少々意外だったが、現在ではすっかり改善されているとのこと。読めばホッピーがますます美味しくなること間違いない。 石渡美奈『社長が変われば会社は変わる！』

  2007年09月22日

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  高田公理編『料理屋のコスモロジー』(ドメス出版・2004年・2800円)

  　タイトルの「料理屋」とは、料理店一般ではなく、料亭レベルの高級日本料理店のこと。民俗学者、文化史家、料理研究家、料理人、ジャーナリストなどが、料理屋の起源と発展過程、そして現代的展開について多角的に論じている。料理屋の歴史は、意外に新しいらしい。18世紀の江戸中期とするのが一般的な見解で、近代に入ってからとする見解もあるという。揺籃期の居酒屋は日本書紀にも登場するから、ずいぶん違うものだ。料理屋の発展過程についての大きな見取り図を描いているのは編者の高田である。もともと人間には「共食」という特徴がある。社会的分業の発達とともに家族のもとを離れて食事をする必要が生まれ、ここから飲食店が誕生するのだが、すると社会的分業とともに発展した利益共同体の中でも「共食」の機会を持つ必要が生じる。ここから高級料理を供する料理屋が登場し、経済力をつけた商人と高級武士の需要に応えたのだという。現代の料理屋の社会的位置については、小川裕久が論じている。飲食する場には日常から高級への序列化されたピラミッドがあり、いちばん下が家庭、そして居酒屋、小料理屋、割烹と続く。そして、最上位に位置するのが料理屋(料亭)だが、近年では他の飲食店から断絶して、枠から外れるようになってしまっているのではないか、という。私の考えでは、すでに居酒屋は多様化が進み、家庭以上に日常的であるようなものから、料亭レベルの料理と酒を供するものまでの広がりを見せているように思うのだが。ちなみに本書は、「食の文化フォーラム」という21巻シリーズの1冊。食について、これだけ多様な論考が可能だというのは驚かされる。 高田公理編『料理屋のコスモロジー』

  2007年09月20日

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  高田公理『酒場の社会学』(PHP・1983年・980円)

  　著者は1944年生まれの人類学者。京大を卒業後、一時期スナックを経営していたことがあり、その時の経験をもとに書いたのがこの本である。スナックだから、普通にいう「酒場」とはちょっと違う。しかも常連客が親しくなったり、ライバル意識を募らせたり、喧嘩したりと、かなり濃密な人間関係を取り結ぶタイプのスナックだったらしいから、やや例外的な気もしないではない。だから「酒場の社会学」という一般的なタイトルはいかがなものかという気もするが、最後の部分で酒場で飲む酒を「ハレの酒」「ケの酒」に対して「スキの酒」と規定するアイデアは、けっこう的を射ているように思える。スキとは、「数奇」あるいは「好き」のことである。ただ問題は、私のような居酒屋好きは、基本的に一人になるために居酒屋へ行くという部分が大きく、その側面を「スキの酒」で表現できるかという点だろう。むしろ非職場・非家庭の第3空間という、宮台真司・太田和彦的なアイデアの方が、私にはしっくり来る。とはいえ、常連同士の、あるいは店のマスターやホステスとの交友を楽しむという人々が多いのも事実で、居酒屋の社会的位置を規定するのはけっこう難しそうだ。現在品切れだが、古書で容易に入手できる。 高田公理『酒場の社会学』

  2007年09月18日

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  古川修『蕎麦屋酒』(光文社・2004年・720円)

  　私には、蕎麦屋で酒を飲む習慣がない。もっとも、神保町や秋葉原へ出かけたときに神田「まつや」に立ち寄って飲むことが、年一回くらいはある。旅先や観光の途中なら、ビールや酒を一、二本くらい飲むことはある。しかし、その程度だ。蕎麦屋では酔うことができないし、料理の種類は少ない。蕎麦は日本酒以外の酒には合わないから、酒の種類も少ない。なにより、居酒屋のような多彩なたたずまいというものがない。しかし、私の好みの料理を数種類おいた、くつろげる雰囲気の店が近くにあれば、ときどき通いたいとは思う。なにより、蕎麦屋で酒というのは、日本の居酒屋文化の重要な一部なのだから、無視することはできない。　世に蕎麦のガイドブックと居酒屋のガイドブックは数あるが、本書は「蕎麦屋酒」のガイドブックという点で異彩を放つ。長年ホンダで研究開発に携わったあと大学教授に転じたという人物だが、蕎麦についての知識・見識には並々ならぬものがある。そして、全国津々浦々の店をよく知っている。前半が蕎麦論・蕎麦屋酒論で、後半は写真とメニューの入った蕎麦屋ガイドになる。遠出してまで蕎麦屋酒をしたいとは思わないが、比較的近くの店もあるので、今度試してみることにしよう。 古川修『蕎麦屋酒』

  2007年09月11日

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  青木正児『酒の肴・抱樽酒話』(岩波書店・1989年・460円)

  　原著は1948年と1950年で、これが一冊にまとめられたのが1962年、改版を経て文庫化されたのが、本書である。文学や歴史を専門とする人には、ときどき驚くほど博識な人を見かけるが、この著者などはその最たるものだろう。中国古典文学を専門としていたようだが、中国食物誌についてもいくつかの著作があり、本書はその精華ともいうべきもの。「市井の縄のれんというやつは好みません」という著者のことだが、居酒屋についての話がないのは残念だが、その代わりに理想とするのは、自宅に「酒室」を持つことだという。その効用はといえば、酒の燗を台所に任せていれば主婦の不満の種になるからだとか。それは酒肴も同じことで、だとすれば自宅の外に「酒室」となる居酒屋を持てばいいではないかという気もするが、これは好みというものだろう。　日本語では魚＝肴であり、海の幸とその加工品こそが酒肴の中心だが、実は中国語の肴は肴の右に「殳」を付けたものが元の字で、これは畜獣の骨付きの肉のことだという。こんなところに、文化の違いが現れる。文化といえば「酒茶論」が面白い。上戸と下戸の論争を扱った本は昔からいくつもあるらしいが、その一つに『酒餅論』があり、餅に麺類と乾菓子が加勢した一軍と、酒に肴と鳥が加勢した一軍が対峙したところを、飯の判官が仲裁するという。まさに日本の食文化を象徴するようなお話である。紹介しているときりがない。読んでみてください。 青木正児『酒の肴・抱樽酒話』

  2007年09月03日

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  常盤新平編『酒場(日本の名随筆・別巻4)』(作品社・1991年・1600円)

  　ちょっと期待はずれだ。「酒場」というテーマで34編のエッセイを集めているのだが、実際にはその多くは、酒の関係する文士たちの交友録。酒場そのものを扱ったものは、さほど多くなく、たまにあったと思えば、酒場というより酔客の観察だったり、地方都市の酒場ガイドだったりする。どうも、日本の従来の文壇には酒場そのものを描くという習慣がなく、その空白を森下賢一や太田和彦が埋めたということだろうか。　とはいえ、印象に残るものもいくつか。高田宏によると、昔の出版社では仕事場と酒場が明確に分離されていなかったとか。編集者たちを見ていると、何となく分かる気がする。阿部謹也は、中世のドイツでは居酒屋が行政機関の末端のような役割を担っていたという。日本にはそんな時代はなかったはずだ。諸井薫「飲み屋に関する歩兵操典」は、職場の上下関係がいかなる形で酒場に持ち込まれるかを描いていて面白い。 常盤新平編『酒場(日本の名随筆・別巻4)』

  2007年08月29日

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  酒とつまみ編集部編『酔客万来』(酒とつまみ社・2007年・1600円)

  　以前紹介した『酒とつまみ』という雑誌に連載されているインタビューを5本まとめたもの。登場するのは、中島らも、井崎脩五郎、蝶野正洋、みうらじゅん、高田渡。井崎脩五郎は、話題豊富で話し上手。サイレンススズカの最後のレースの話で涙を浮かべるところを読むと、この人はほんとに馬が好きなんだなと思わせる。感慨深いのは、高田渡。漢字をネタにしたうんちくと冗談が半々の話題がぽんぽん飛び出す。このインタビューの約一年後に亡くなったはずだが、最後のページには雨の日の井の頭公園の夜桜をバックにした写真。彼にとっては最後の夜桜だったろう。ぜひ、カラーで見たい一枚だ。彼が常連だった「いせや」は、もうすぐビルの一階になって復活するはずだ。 酒とつまみ編集部編『酔客万来』

  2007年08月27日

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  鄭銀淑『マッコルリの旅』(東洋経済新報社・2007年・1800円)

  　全国各地を旅しながら、地元の酒と料理を出す庶民的な酒場を巡り歩く。店の女将さんや常連客たちとすぐにうちとけて、話が弾み歌が飛び出す、そんな気さくな店ばかり。先々で酒蔵も訪問し、酒造りを見学し、試飲をさせてもらう。こんな本は、少なくない。この本は、その韓国バージョン。著者は日本に留学して長く住んだことがあり、日本語の著書も多い。　マッコルリを出す酒場を、デポチプという。デポはマッコルリを飲む大きな杯のこと、チプは飲み屋のことだから「一杯飲み屋」といったところか。そして女将のことを酒母(ジュモ)という。マッコルリは速成酒で発酵途中のものを飲むので、味は千差万別。美味いという噂を聞けばまっしぐらにデポチプと酒蔵に駆けつけ、味を確かめる。探求心というより、ともかく美味いマッコルリが飲みたいという欲求が書かせた、すばらしい韓国酒文化案内だ。知人の画家ゆかりのデポチプを訪ね、携帯電話で話をさせると感激のあまり涙を流す酒母。学生活動家たちを匿い、自らも連行されて拷問されたという酒母など。物語にも事欠かない。写真も、酒場の雰囲気を良く伝えている。各地のマッコルリ醸造元へのインタビュー記録も、酒造りへの情熱と愛着を良く伝えている。最後の方には、ソウルや釜山など都市部のデポチプ案内も付いているから、実用的でもある。また韓国へ行きたい。前回は日本語メニューのある高めの店ばかりだったから、今度はデポチプで飲みたい。いい本です。 鄭銀淑『マッコルリの旅』

  2007年08月24日

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  城アラキ・松井勝法『ソムリエール』第3巻(集英社・2007年・505円)

  　この間初めて読んだばかりだが、もう第3巻が出た。前回は誉めたが、今回は一言。ちょっと、ストーリーに無理がある。1965年のロマネ・コンティを飲むつもりで来た客が、いくら美味しいからといって、2000円の国産白ワインに感動するだろうか。パリで認められた天才シェフが、ワインを知らないなどということがありうるのか。レバノンで橋を造ったサラリーマン、いい話だが、同僚たちの態度が非現実的に冷たすぎる。ちょっと、取材不足なのではないだろうか。でも、「神の雫」よりはずっといい。今後に期待。 城アラキ・松井勝法『ソムリエール』第3巻

  2007年08月21日

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  城アラキ・松井勝法『ソムリエール』(集英社・2007年・各505円)

  　ワイン漫画がけっこう注目されている。一番人気は『神の雫』だと思うが、あまりに非現実的な上に商業主義が目に付くので、最近は読んでいない。だいたい、どんなにおいしいワインだって、周りの風景が一変したり本人が変身したりすることはない。当たり前だが。これまでで最高のワイン漫画は、やはり城アラキ・甲斐谷忍の『ソムリエ』だろう。　この『ソムリエール』は『ソムリエ』『瞬のワイン』に続く城アラキの第3作。作画は3つとも違い、今回は松井勝法。孤独な天才ソムリエ、父親との不思議な関係、協力的な父親の友人など、『ソムリエ』と共通する部分が多いが、今回の主人公・樹カナは現時点では無名のアルバイトで、ビルドゥングスロマーンの雰囲気である。ワインは必ずしも主役ではなく、あくまでも名脇役として人間ドラマを演出する。ここが、『神の雫』のいかがわしさと一線を画するところである。現在は第2巻まで。近く第3巻が出るらしい。 城アラキ・松井勝法『ソムリエール』

  2007年08月14日

• ホッピー・ビバレッジ株式会社『ホッピー本』

  　10日頃まで更新しないつもりだったのだが、集中講義の試験中に読めてしまったので、予定外の更新。　知らない人のために説明しておくと、ホッピーというのはノンアルコールビールの一種で、焼酎を割って飲むように作られたもの。東京ではけっこうポピュラーな飲み物で、ビールほど甘味がなくすっきりしているので、焼き鳥・焼きとんによく合う。このため、大衆的な焼鳥屋・焼きとん屋においてあることが多い。私は最近、これにはまっていて、一日一回飲まないと気が済まない(笑)。だから、冷蔵庫に常備してある。ちなみに、合わせる焼酎の定番はキンミヤ焼酎で、これも家に常備してある。この本は、ホッピーを作っている会社がＰＲ用に作ったもので、会社のホームページから注文できる。内容は、社長とその娘である副社長のインタビュー、ホッピー好きの出版人の対談、吉岡美穂のインタビュー、商品紹介など。90ページほどの薄い本で、ホッピーの千社札がおまけに付いている。長島引退やらアポロやら戦後史の紹介や、本社のある赤坂の歴史紹介にページが割かれていて、2310円という値段の割に中身がないのは残念。ホッピー好きなら、手元にあっても良いと思うが。

  2007年08月04日

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  『ＴＯＫＩＯ古典酒場・昭和下町和み酒編』(三栄書房・2007年・933円)

  　大衆酒場を中心に紹介するムックの第二弾。第一弾は四月に出版されている。ちまたに数ある居酒屋本の中には、ろくに取材もせず、あちこちの本や雑誌に取り上げられている有名店だけを集めて作られたものが少なくないが、これは違う。とくに珍しい料理や酒があってグルメ欲求を満たすというのではなく、安くて、おいしくて、大衆酒場の気さくな雰囲気に浸れるという店ばかり。とくに今回は「焼酎ハイボール、ホッピー、デンキブラン、ホイス」の特集ということで、下町酒場がいろいろ出てくる。長年居酒屋めぐりを続けている私でも、知らない店がいくつもある。居酒屋の好きな人なら、ぜひ読んでほしいと思う。　ちなみに、122-124ページには「居酒屋通ブログ三人衆よもやま話」と題する座談会があるが、これに私も登場している。対談相手は、居酒屋礼賛の浜田さんと、酔わせて下町の藤原さん。私が酎ハイ飲んでる写真もあります(笑)。 『ＴＯＫＩＯ古典酒場・昭和下町和み酒編』

  2007年07月30日

• 『酒とつまみ』第9号(酒とつまみ編集部・400円)

  　知る人ぞ知る、全編酒の話だけという雑誌。毎回バカバカしい企画をやるのだが、これまでの主だったところを列挙すると、・怒濤のホッピー割り研究22連発：ビール、芋焼酎、ハブ酒、ジン、カンパリ、梅酒、紹興酒、にごり酒など、いろいろな酒をホッピーで割って飲む。全員一致で優勝に決まったのは、にごり酒だった。・中央線で行く東京横断ホッピーマラソン：東京駅から高尾駅まですべての駅で降りてホッピーを飲む。飲んだホッピーは160杯。・7時間耐久立ち飲みマラソン：浅草橋『西口焼きとん』で開店から閉店まで。　今回の企画は、「酒じゃないもののアルコール濃度・徹底比較」で、奈良漬け、リキュールチョコ、酒粕飴などを食べた後、アルコール検知器で測定。奈良漬けは、食べた3分後でも検問に引っかかる量が検知されたとか。ただし、ちゃんとしたインタビューやエッセイもある。インタビューは松尾貴史で、若い頃の酒にまつわるエピソードが満載。有田芳生は、学生運動と酒に明け暮れた学生時代をふり返る。　不定期刊で、表紙には号によって「なんちゃって季刊」「心は季刊」などと書いてある。最新号であるこの号が出たのは、1月のこと。次はいつだろうか。酒とつまみホームページから注文できる。

  2007年07月19日

• 吉田類『酒場のオキテ』(青春出版社・2007年・552円)

  橋本健二の居酒屋考現学に追加しました。

  2007年07月12日

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  『ｄａｎｃｙｕ』2007年8月号

  　この雑誌、年に1回くらい買っているだろうか。今回は創刊200号とのことで、これまでに掲載された約1万軒の飲食店の中から、「日本一うまい店集めました」という特集。ジャンルの分け方が独特で、「揚げ物」「豚肉」「アジア」「名酒」など、料理法や料理のジャンル、素材などが混在しているが、これはすべてをカバーしようとした結果の工夫だろうか。カバーする範囲が広すぎて、結果的にあまり興味のない部分が多くなってしまうのは仕方がないところ。すぐには役に立たないが、ふと「おいしい○○が食べたい」と思い立ったときには使えそうだ。　しかしこの雑誌、記事を装った広告が多すぎる。このため、ちゃんと取材して水準を超えたものを厳選したであろう記事そのものの、印象も信頼感も薄れてしまうのが難点。 『dancyu』2007年8月号

  2007年07月07日

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  雁屋哲・花咲アキラ『美味しんぼ』第99巻(小学館・2007年・505円)

  　ついに、99巻。100巻を突破するマンガというのは、「こち亀」と「ゴルゴ」くらいだと思っていたのだが、いつの間にかここまで来てしまったか。今回のメインは、「究極の料理人」の秋編と冬編。新橋「京味」の西健一郎が、父親・西音松の料理を再現してみせるというシリーズの完結編だが、マンガというよりは料理紹介で、ストーリー性はほとんどない。何度か書いたが、マンガは料理法を説明するには適しているので、製法はよく分かるものの、料理の色やテクスチャーはわからない。完結したことだし、カラー写真付きの特別版を出してほしいところだ。「病院食の喜び」、栗田さんのような素晴らしい相棒が欲しいという飛沢の前に、おいしい病院食を作ることに精を出す清川翠という女性が現れ、これはまた縁結び話かと思いきや、相棒なんかいらない、一人でやる、とのこと。さすがにワンパターンすぎると思ったのかもしれないが、今回はけっこう必然性があるので、一緒にしてやっても良かったのでは？ 雁屋哲・花咲アキラ『美味しんぼ』第99巻

  2007年06月30日

• 小林章夫『パブ　大英帝国の社交場』(講談社・1992年・600円)

  　英国のパブというのはまだ行ったことがないが、「居酒屋考現学」を提唱する私としては避けて通れない。本書は11世紀頃のインやエールハウスといった前身から説き起こし、現在(といっても15年前だが)に至るまでの歴史を描いたもの。とくに、その社会的機能が重視されている点が興味深い。18世紀のパブについて書かれた部分が圧巻。パブは職業斡旋の場でもあり、地方からやって来た人々や失業者が、パブの掲示板に群がってくる。給料の支払場所でもあり、労働者は受け取った給料をすぐに酒につぎ込んでしまう。そして政治運動、労働運動の拠点ともなり、各派それぞれがごひいきのパブで作戦を練る。　日本の居酒屋はどうだろう。仕事が終わった労働者が毎日集まる大衆酒場というものは日本にもあるが、これが労働運動の拠点になったなどということがあるのかないのか。人々に安らぎやくつろぎを与えるということ、地域の社交場になるという以上の社会的機能を担ったことがあるのかないのか。これは、今後の検討課題。どなたか、手がかりがあったら教えてください。なお、パブで結婚披露宴が行われることがあるというのを、日本との違いとして強調した記述があるが、斎藤寅次郎監督の「お父さんはお人好し」という映画には、居酒屋で結婚式をする場面が出てくる。かつては日本にもあったのではないだろうか。現在は品切れだが、古書で簡単に手に入る。

  2007年06月29日

• 神澤柚実子『日本酒ソムリエが通う 東京のizakaya』(青春出版社・2003年・1380円)

  　今日は、読書日記の更新はお休み。毎日一冊は、とても無理です(笑)。その代わり、橋本健二の居酒屋考現学に「酒の本」を一冊追加したので、ご笑覧を。

  2007年06月14日

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