浅羽通明『右翼と左翼』(幻冬舎・2006年・740円)
「右翼」「左翼」とは何かという、当たり前のようでよく分からない問題について、発端であるフランス革命期から説き起こし、ヘーゲル、マルクスを経て、19-20世紀初頭の世界史における「右」「左」について概観した後、戦前・戦後・現代日本の「右」「左」について論じるという、通史スタイルの新書。あとがきで著者は、入門書・概説書レベルのものをもとにしただけで、誰でも書ける本だと謙遜しているが、そんなことはない。博識で、しかもバランス感覚がなければ書けない本である。とくに、近代日本における「右翼」「左翼」の形成過程について論じた部分が面白い。また、日本でなぜ平和主義と左翼が結びついたのかについても、注目すべき指摘がある。 結論は、「右翼」「左翼」がともに明確な理念を失うとともに、それぞれの構成要素が個別の政策として拡散したため、国家による再分配政策を支持するか否かを色分けする基準という程度にしかその意味が残っていない、というもの。それは確かにその通りだろうけれど、日本でも世界的にも格差が拡大している現状では、それこそが重要というものではないか。著者は、先進国は経済全体が豊かになって貧困なプロレタリアはごく稀になったという認識のようで、この基準をいささか過小評価しているように思える。私自身はもちろん左翼のつもりだが、他方ではよく左翼の主張とされることの多いプライバシー保護問題には鈍感な方だ。見解の相違する部分は切り捨てて、格差拡大の克服という一点で、広義「左翼」の再結集をというのが、現時点の最大の課題だと思う。過去の左翼運動にはありがちなことだったが、人権問題や反戦平和、反天皇制などで参加者を値踏みするような発想が、いちばん良くない。 浅羽通明『右翼と左翼』