瀬戸大瀧が見えた 半分実話
車で走っている時、つい大声を張り上げてしまうのは何故だろう。 考えたのだが、そうすることによって、気持ちが晴れるからではないだろうか。 だが、今は、一瞬晴れてもすぐに憂鬱になってしまう。 そんなとき、いつも利用するのは瀧だ。 今日、思い立った。 ならば、岩屋堂へと向かおう。 岩屋堂は山の中にある公園で、奥には落差20メートルほどの大きな瀧がある。 瀧のすぐそばに車を止めて瀧の正面に立った。 ザーーーっという音が、周りの音を掻き消す。 瀧を凝視すると、あることに気がついた。 この瀧の美しさは、地上から5メートルほどの凹凸が 水流を白くキラキラと輝かせているからであると。 正面から瀧を見上げても、どこから来た水かはわからない。 もしかしたら、汚いところを通ってきた水かもしれない。 ただ、その瀧はとても大きく、とても美しかった。 周りを見渡し、誰もいないのを確認すると、瀧の轟音を飲み込むような声で言い放った。 「苦しいのは自分だけじゃない。みんな乗り越えている。俺のの夢は就職して親を喜ばせて、結婚して幸せをつかむこと、そして、週末には趣味をたしなむことができるようになることだ。絶対に叶う。」 その声は水流に混じって、瀬戸市街へと流れていった。 言い終わると、近くのベンチでタバコを吸った。 タバコの吸殻入れは3リットル入りの古びたビールの缶で、 ベンチの屋根を支えている柱に巻かれている針金で支えられていた。 そんな時、こんな声が聞こえてきた。 「僕も瀧が見たい」 誰がそんなことを言っているのかと思い、周りを見渡すが誰もいない。 「ずっと近くにいるのに一度も見たことが無いんだ」 その声の主はビールの缶だった。ビールの缶は柱に巻かれたままずっと過ごしてきたのだ。 「この柱に隠れて瀧を見てみてよ」 ビール缶に言われるとおり、柱に身を隠すとちょうど瀧が見えないではないか。かわいそうになった僕はきつきつに締められた針金を緩めビール缶を少し動かした。 「ありがとう、これで毎日瀬戸大瀧を見ることができる」 こんな僕でも喜ばれることがあったのだ。 少し見方を変えるだけで世界が変わる。それをビールの缶に教えられた。 これからはいろいろな角度からこの世の中を見てみよう。 もしかしたら、いろいろ気付くことがあるのかもしれない。