週刊金曜日はどこへ行く?北朝鮮核武装をめぐって
どこへ行く?週刊金曜日・北朝鮮の核をめぐって週刊金曜日は「特集:緊迫する朝鮮半島」として主な論文3本を掲載した。(09・6・5号)タイムリーな企画であることは間違いない。その論文は次の3本である。●北朝鮮のロケット発射と核実験:オバマ政権の安保理制裁は有効か(康宗憲:カン・ジョンホ早稲田客員教授)この康宗憲氏の論文の核心点。北朝鮮が一貫して追求してきたのは「貧しい核保有国」としての孤立ではなく、体制の安全保障(米国の敵視政策の撤回)なのだ。「米朝関係の相互不信と敵意が極度に高まっている現状」があるからこそ「北朝鮮核問題の根源」を冷静に分析すると、「米軍の先制攻撃を阻止する唯一の抑止手段として核保有」を選択した。(○核武装と核実験はやむを得ない選択=正しいのだ。早稲田客員教授康氏が日本人ではなく、在日しているコリアンとすれば日本人である私とは立場が違うが、それでも私は北朝鮮の核実験、核武装容認論は賛成できない。核と人類は共存できない。この思想=精神は譲ることはできない。かねてからわしは主張してきたが、金正日政権が体制の存続と発展を展望する時、その基盤を自国民と東アジアの人民の側にむけ、その支持の中で存続の根本条件を探るべきであろう。金正日政権の先軍政治をはじめとる対米交渉、綱渡り外交は「人民」を人質とした政治であり、冷戦期とベトナム革命の歴史的条件の中での南進政策(南部武力解放路線)の延長にある、すでに破綻した路線である。康宗憲氏の意見は目的が正しければ手段も正当化されるという主張である。私はもし金正日政権の目的は正しいと仮定しても、手段として賛成できないし、さらに目的(の政治)自体がもう一度再検討されるべきであるという意見である。●現地ルポ:あらゆる制裁を恐れない国(成田俊一:ジャーナリスト)筆者が聞いた生の声でルポを構成している。その結果、筆者はこの国は着実に力をつけている、人民は制裁を恐れていない、その敵愾心の根深さには驚くばかりだ。2012年強盛大国建設にむけ、挙国一致して奮闘している。(○朝鮮総連の活動家が週刊金曜日のこの号を無料で配布していることは十分に頷ける。私はこのジャーナリストを知らないが、内容はひどいものだ)●元北朝鮮工作員安明進(アンミョンジン)の告白(青木理:ジャーナリスト)07年7月覚せい剤を使用したとして、韓国で逮捕。ソウル地裁で懲役4年の実刑判決を受け、高裁で執行猶予つきの判決で、即日釈放された。97年安氏は横田めぐみさんら何人かの日本人拉致被害者を北朝鮮で目撃したと証言し、一躍有名になった。(93年9月脱北した)02年9月金正日書記が拉致を認めたことで安証言が脚光を浴びた。「私は金正日政権を倒すために一定部分はオーバーに言った。その責任は甘受します」「安氏にしても日朝会談後に高揚した反北朝鮮ムードのなかでメディアがその証言に群がり、証言の実相を検証しないままにひたすら垂れ流し、北朝鮮追求の先兵として祭り上げられてしまったのではないか」「『佐藤会長から1000万円は受け取ったのですか?』受け取りましたよ。あの時一生懸命やっている人たちを助けることがあれば助けたし、私は『5,000万円受け取った』と言われれば、『5,000万円受取ました』と答えるでしょう。ともかく私は彼らからたくさんの金をもらいましたから」***救う会の内紛:06年1月救う会の会長佐藤勝巳、副会長西岡力が札幌の男性から受け取った1千万円の寄付を着服したとして告発され、佐藤会長らは1千万円を安氏に渡したと主張。安氏は950円を受け取ったと証言し、不起訴となった「私は誰かに利用されたと思ってはいません。あえて言えば、時代が私を利用したのでしょう。でも結局私に残されたものは何もありません。このような姿を見せるのはつらい。マスコミ取材を受けるのはこれを最後にしようと思っています」●全体として週刊金曜日の特集は「北の核実験・核武装を擁護」し、あらゆる制裁を恐れない北の人民を賛美し、拉致事件を推進した安明進の悲惨な末路の報道で、拉致事件の虚構性を突こうとしている。これが特集の構成だとすると週刊金曜日はどこに行くのだろうかと思う。従来週刊金曜日はリベラル的、市民運動的な視点からの編集で一定の運度圏の人々の支持を得ているだけに無視できない思想問題状況である。とにかく、北の核実験と核武装に反対する意思表明がない。あらゆる国の核実験に反対する、核と人民は共存出来ないという日本の市民の歴史的原点はどこに行ったのか?歴史的に見れば、現在の朝鮮半島と東アジアの大きな変動は世界最後の「冷戦体制」の残存物の崩壊・転換過程であり、現存した社会主義に対して東欧市民革命が成功したことと同質の水準の事態が進行している。さまざまな勢力のアイデンティティーが問われておいる。日本の制裁論者も週刊金曜日の編集方針も、思想レベルでは冷戦時代の枠を維持し続けている点で同罪だと言ったら言い過ぎであろうか?