815491 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

ココ の ブログ

庭の草花(4)

庭の草花(4)

 文化と言えば、ボクは中学時代に選ばれて混声合唱団に参加し、コンクールに出たのがきっかけで合唱に興味を持った事があった。卒業後、合唱団仲間は其々別々の高校に進学する事になるのたが、ボクは誘いを受けて、中学のOBで造られている混声合唱団「イレブン・エコー」に入り、毎週、母校の音楽教室で歌う事になった。合唱団の名前の由来は、母校の中学が京都で11番目に出来たもので100年近い歴史を持つという由来にちなんでいた。尤も、毎週集まるメンバーの数が少なく11名程度だった事で皮肉交じりに「イレブン・エコー」という意味もあった。その母校は10年ほど前に統廃合で消えてしまったが、イレブン・エコーという名を、ふとガーデニングの最中に想い出し、懐かしくも切なく感じたのだった。

F-016 F-016

 何故急にイレブン・エコーを想い出したのか考えてみると、東北大震災で何もかも津波に流されてしまって残された瓦礫の中からアルバムを回収している捜索隊の姿をテレビニュースで観たのが思い至る原因だったようだ。自衛隊や警察、消防隊がそれぞれ数万人単位で捜索する光景は、任務とはいえ心が熱くなる想いだった。アルバムなぞ単なる写真集だが、其処には貴重な記憶が集約されていて、誰のものか分からなくとも保管しておけば、きっといづれ誰かが見つけてくれるだろうという配慮からだ。数万人もの死者を出した地震と津波の跡は、規模が大きすぎて戦争そのものの傷跡と何等変わらなかった。戦後65年もの永きにわたって戦争こそ無かったものの、そのお蔭で平和ボケして来た日本には晴天の霹靂だった。

F-017 F-017

 自然の猛威が生命・財産の危機というものを別の形で国民に心底から知らしめたようなもので、今も被災者は大変な想いで仮の生活を強いられている。それとイレブン・エコーとは全く関係が無いのに、結び付けて考えるだけの悲しみがあった。というのは、中学3年の秋にボクの父が事業に失敗して一家離散のような状態になり精神的に参っていたのだが、何とか無難に目標の高校に進学出来て直ぐにイレブン・エコーに誘われるまま学外活動ながら楽しい時間を過ごす事が出来たのだった。が、それなら悲しみでは無く楽しい想い出の筈なのに、夏の比叡山での合宿や日本海への旅行の写真をアルバムに貼ってあるのを想い出すにつれ、懐かしさよりも仲間のその後の消息が不明なのが胸を締め付けるのである。

F-018 F-018

 イレブン・エコーのリーダーは当時、学習院大学の大学院生だった。多分毎週のように京都に帰っていたのだ。そう言えば旅館の息子で金持ちだった。他には関西学院大学や同志社大学の学生や大学を卒業して社会人になっている人も居た。最年少の高校生のボクの他にも数名の女子高生が居たが、殆どが大学生だった。歳の差は最大で八つほどあり、平均年齢は二十歳ぐらいの女性メンバーが過半だった。男性メンバーを想い出すのは数名の先輩だが、女性は誰もが美人で、ボクは片想いのような気持ちで年上の女性に接していた事になる。勿論、相手は年下のボクを弟のようにしか観ていなかった。同好会は言わば上品な会だっただけに健全な雰囲気で、ボクにすれば堅苦しさは多少あったものの心から惹かれていた。

F-019 F-019

 ところが、ボクは高校でも音楽部に所属していたから次第にイレブン・エコーには2年ほどで行かなくなった。音楽部の方で忙しかった事もあったのだろう。その後のイレブン・エコーがどうなったか知らないが、音楽部のメンバーは卒業後、男性は大学でグリークラブに、女性は音楽大学へ行ったりした者が多かった。ボクはクラシック・ギターをやり始め、やがてフラメンコ・ギターに移って合唱団とは縁が無くなり、友人のグリークラブのコンサートに付き合う程度だった。それも独身時代までの事で、今では付き合いのカラオケで歌うぐらいなものだ。それなのにイレブン・エコーの事が気にかかるのはメンバーの消息が全く分からないからだ。懐かしい仲間に今一度会ってみたいと切に想う。

F-020 F-020

 しかし、それは不可能なのだ。何故なら、京都の中心地にある母校の中学・高校の卒業生の溜まり場になっているコーヒー・ハウスで、ボクが未だサラリーマン時代だった頃、先輩から聴いた話が頭にあるからだ。それはイレブン・エコーのリーダーが女性問題で不祥事を引き起こし、その後、家は没落し、本人も自殺してしまったというものだった。リーダーは上品な人柄で美男だったから話を聞いて俄かに信じられなかった。が、近所に在る室町の呉服問屋の社長をしている先輩が詳しく話してくれたので信じない訳にも行かなかった。ちなみに旅館のあった処には呉服関係のビルに建て替っていた。人は見掛けによらないものだと言う。それがボクを寂しくし、ひょっとすると美人の先輩達はリーダーに憧れていただけだったと想うと更に切なくなってしまうのだ。(つづく)

にほんブログ村 美術ブログ 建築家(芸術家)へ←ブログランキングに参加中です、クリックをどうぞ!


© Rakuten Group, Inc.