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ココ の ブログ

小説「猫と女と」(5)

小説「猫と女と」(5)




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 「今、何を考えているか当ててみようか?」情事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。




 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。




 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をベッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。




 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。信州を経由して名古屋周りで帰る事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。




 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はその気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足を唇で愛撫しながら空虚な気分を満たそうとした。




 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(つづく)







 


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