DJ Kennedy/life is damn groovy

2005/09/05(月)21:14

DJ Kennedy #162:Discover Japan No.1(2)

That's The Way Of The World / Earth, Wind & Fire 高原は既に秋の気配で、道端に咲くコスモスやマリーゴールドがほど冷たい朝の風に揺れていた。秋を感じると決まってこの曲を聴きたくなる。涼しげなメロディはとても良い気持ち。 旅の2日目に、新潟県の妙高高原へ行った。 何の目的も持たなかったが、ジグソーパズルの1ピース1ピースを埋めていくように、「行ったことのある場所」を増やそうという話になっていたのだ。 山の多いところだから、高速道路を使わなければ否が応でも高度のあるピンカーヴを克服しなければならず、山に入ってから「やっぱり高速道路を使えば良かったね」と苦笑するのだけれど、出掛ける時は必ず「景色のないハイウェイじゃなくて、その土地を知ろう」と勇敢なスローガンを掲げてしまうのでこういう失敗に反省しなければならなくなる。 その日はとても良いお天気で、まさか翌日には大型台風が襲って来るなんて想像もできなかった。野尻湖を過ぎ山道を抜けて暫くすると、妙高高原駅に出会った。ロータリーの広い、見るからにゆったりと時間が流れる光景で、駅の向こうはすぐ、小高い山が美しい緑で青々とした高い空によく映えていた。駅前のお土産もの屋さんで「越後の笹団子」が名物だと聞き一つずつ買って食べたらあんまり美味しいので、メンチの時と同様、追加オーダーとなった。これを、東京で食べてもあんなに感激は、しないんだろうな。 観光協会の横から商店街へ入り少し行くと、温泉がいくつかあることに気がついた。 赤倉温泉、関温泉、燕温泉と言い、名前の順に標高が高かった。赤倉温泉は外国人も多く訪れるという説明が、観光案内でもらったパンフレットに書いてあったが一人も見かけることはなく、それでも何となくレトロな雰囲気を持つ町並みが私達はとても気に入った。そうだ、温泉に入ろう、ということに決まったが、3つの温泉を廻ってから決めることにした。三つ目の燕温泉は随分と高いところにあり、私のストップにより断念され、二つ目の、赤倉からしばらく走った所にある関温泉に着くと、赤倉よりも更に静かな、急な坂道の途中に佇む小さな温泉場で、その坂道が柔らかな陽だまりになって平和な空気が流れていた。 老舗の温泉宿を見つけ、暖簾をくぐってお湯まで通された。 男女別々のお風呂になっていて、露天ではないけれど、天井から湯船までの大きな窓からは、日本海へと下る温泉街を穏やかに守るように聳える山々が雄々しく見えた。 びっくりした。お湯が、ちょっと赤いんだもの。鉄分の多いお湯なのだそうで、確かに鉄が錆びたような匂いがあり、洗い場もお湯と同じ色に染まっていた。でも、そのお湯は飲めば糖尿病などに効果があるのだそうで、試しにちょっと飲んでみようかと思ったのだけど、熱かった。触れられなかった、残念だけど。 誰もいないお風呂場で一人、雄大な自然を前にお湯を楽しんでいるなんて、そうか、これが日本旅行の醍醐味なのだと、初めて感じた。本当に、贅沢、という言葉がぴったりだと思った。 こうなると、もうどうにも止まらないのだ。のんびり浸かって大声で歌を歌い、お、熱いな?と思ったら上がる。また入る。熱いと思ったらまた上がる。こんなことを、何度繰り返したことか。何だか楽しくて仕方ない。 1時間ほどか経って「よし、気が済んだ」 鏡をマジマジ覗いてしまうほど頬やおでこがピカピカしており、ますます温泉が好きになる。 着替えて出て見ると、夫は隣のお風呂をまだ堪能している様子。納得の私は扇風機に当たり、冷たいお茶を飲みながら夫の出て来るのを待った。 それから少しして夫が真っ赤な顔で登場、温泉宿を後にし車に戻ると、彼も私も身体の異変に気付く。胸がドキドキし始め、シートに背をしずめているのに船にでも乗っているようなふらつき。続いて軽い吐き気?何?一体。鉄分を多く煽り過ぎたのではない?これはいけない。車を走らせることができない。パーキングエリアのヴェンディング・マシンでお水やお茶を大量に買い込み、お茶を飲み、お水を頭からかぶり、クーラーをがんがんかけてしばらくシートを倒していると、1時間でようやく楽になった。 温泉ビギナーズの私達は、「湯アタリ」という言葉を知らなかった。温泉には、掟があったのか。もっとちゃんと、調べておけばよかった。 見事に温泉の洗礼を受けた私達はしかし、このまま無勝で温泉場を去ることにはいかないと、夜になって長野に戻ってから、観光協会で知った「馬曲(まぐせ)温泉」に挑んだ。 ここは、露天ならぬ「野天」風呂、高い山の上にあり、お湯はすっきりとした、香りも感じない性質で、とても広く、日中であればきっと、連なる山々がどんなにか美しいだろうと想像できた。温泉の熱さにも慣れ身体を洗ってからお湯に入ると、肩先を冷たい風が駆け抜け、その気持ち良さに思わず目を閉じた。そして、思い切り両腕を広げてお湯をかき集め、ふと天を仰ぐと、無意識に溜息が漏れた。満天の星、中央にミルキィ・ウェイが走り、西の方向へ一つ、長い長い流れ星がスーッと尾を引いたのだ。今、この場の自分の姿がとても不思議に感じられた。 地の奥から湧き出すお湯が、人を癒し、こんなにも優雅な気持ちにさせてくれる。空も山も、小さな人間の楽しみを無言で支え、優しく包み込んでくれるのだ。人の造ったものを持たず使わず、ゆったりと身体を温め物思いに耽る。周りから聞こえてくる「はぁ~いいお湯だ」の声。極上のヒーリング・スポットは、いつまでも人を癒してくれるのだろう。 翌日私達は旅を終えて、大きな台風の予兆に晒されながら岐路を急ぐことになったのだけれど、ささやかなこの旅で、まず一つ、日本の良い遊び方を身につけることができたと心から嬉しく、既に次のバケイションに向かって地図を広げているところである。 妙高高原駅前。のびのびとした晴れの日がよく似合う。

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