そして今日も日は過ぎる

2007/02/04(日)15:45

ウォッチャーズ

歩く図書館と本の虫(135)

 大事な人々、愛した人々を次から次へと失い、それは自らが愛したが故ではないかと疑って、人との接触を断ち、孤独な魂を抱えた男。  偏執的な伯母から偏った世界観を埋め込まれ、人との接触を断って自らの世界に埋没する女性。  そんな二人を引き合わせるのは、深い知性を秘めた毛むくじゃらの守護天使。  本日は『ウォッチャーズ』についてです。  作者はディーン・R・クーンツ。以前クーンツの作品で面白いのにあたったことがあんまりないということを書きましたように、正直なところキングと並び称される理由が分からなかったのですが、認識を改めました。この作品はめちゃくちゃ面白かったです。  物語は孤独な魂を抱えた男性が、昔日の幸せだった子供の頃を思い出そうと故郷近くに行ったところから始ります。そこに現われたのは、何者かに追われているらしきゴールデンレトリーバー。  ひょんなことからこのレトリーバーと一緒に帰ることになった男性は、このレトリーバーとの生活に自らの孤独が癒されることに気付いていきます。  そして、このレトリーバー、人間並みの知性を持っていることにも気付きます。  男性がレトリーバーと生活をはじめたそのころ、レトリーバーを追う『怪物』は、人間を殺して移動し徐々にレトリーバーの住まう地方へと移動していきます。  物語は、これ以後、レトリーバーに関わる人々の心の移り変わりを一つの軸とし、他方で怪物の恐怖と、犬と怪物の関係、犬と怪物を追う者達の話しが入り組んで一気に突き進んでいきます。  若干クライマックスが駆け足な感じがするのが残念ですが、なんともいえない柔らかさを感じさせる結末まで読み手を掴んで離さない物語で、本当に面白かったです。  他に特筆すべき点は、キャラクター達が本当にイキイキしていて見事に立っている点ですね。主人公達や、犬を追う国家保安局の人間、保安官、弁護士、獣医、殺し屋、それに怪物に至るまで皆なにかしら強烈な魅力を放っているんですよ。  一応ホラーの範疇にはいる作品で、その恐怖の対象となっているのは怪物『アウトサイダー』なのですが、この『アウトサイダー』の悲しさは、凡百の怪物モノと一線を画していますね。  それが逆にホラー的な怖さを減じさせているところもありますが、本当に読んでいて心に響く逸品でした。  クーンツの真骨頂はこうした点にあるのかも。そうすると、この作品が書かれた年代の作品こそ、クーンツが評価されたその真の魅力に溢れているのかも知れないなあと思いました。  この作品を含め、この時代(1980年代後半)の作品は、最近は本屋でもほとんど見かけないのですが(私は古本屋で見かけました)、この時代の作品を扱っている文春文庫には是非とも再版して欲しいなあと思う次第であります^^

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