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2005年04月07日
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カテゴリ:カテゴリ未分類
翌日、嘉徳へ行くバスの本数が少なく、接続時間も良くない、泣く泣くあきらめて、船で加計呂麻島に渡ってみることにした。
加計呂麻には、ふたつの港がある。
平家の落人伝説や「男はつらいよ」の撮影地などもある島だが、
僕は加計呂麻のひとつの港に船で行き、バスに乗ってもうひとつの港から古仁屋に戻ってくるというこの島の観光をしないコースにした。
「生活するように旅がしたい」というのが僕の旅の主題である。
観光客しかいない観光地に行くより、その土地の匂いや生活を少しでも感じたいのである。
チケットを買い、船に乗り込んだ。
ここの海の色はとてもキレイだ。
信じられないほど美しい緑色の海。
僕は子供の頃から、ずっと海の色は青い色をしているものだと思っていた。
常識だと思っていたものが常識ではないのだ。

船員のひとりがくわえ煙草をしていた。
その煙草を海へ投げ込んだのだ。
よくみるといくつかの煙草が浮いていた。
う~ん。

港につくとマラソン大会をやっていた。
この大会は、深夜にテレビで見たことがある。
人ごみを避け、バスに乗り込んだ。
この島の生活路線であろうバスだが、港を出るとき乗客は僕ひとりだった。途中から4人組の老人が乗り込んできた。
そのひとりのおばあさんが信じられないほどの厚化粧をしている。
その4人は大きな声で話しているのだが、言葉がわからない。
耳をすませ、聞き取ろうとするがわからない。
4人組はすぐに降りていき、次の港まで誰も乗ってこなかった。

バスの運転手は民家のポストに新聞や手紙や宅配便などを配っていく。
そのせいか次の港まで時間がかかってしまった。

港の待合所で三線を弾きながら歌っているおじさんがいた。
挨拶をすると、どこから来たかと訪ねられた。
さっきの4人組のことがあったので言葉がわかって胸をなでおろした。
奄美の唄で知っている唄があるかと聞かれ
僕は「むちゃ加那節」しか知らなかった。
この、むちゃ加那は哀しい物語なのである。
実際にあったことを、島唄として語り継がれているのである。
この加計呂麻島にウラトミという絶世の美女がいた。
薩摩の小役人に見初められるのだが、権力に屈したくないウラトミは拒んでしまう。
家族は罪になるのを怖れ、ウラトミを小舟で海へ流してしまう。
喜界島に流れ着いたウラトミは地元の漁師と結婚し、ムチャカナを産む。
成長するたびに美しくなるムチャカナを同世代の村の娘たちは嫉妬し、海に誘って岩場から蹴落としてしまう。
母のウラトミも後を追い、二人は帰らぬ人となる。
三線の音色はこんな哀しい物語も浄化し、聞くものを月の光のようにやさしく包み、太陽のように温かい気持ちにさせる。

古仁屋に戻ってみると、水中観光船のポスターがある。
名瀬行きのバスまで少し時間があるので、乗ってみることにする。
チケット売り場に行くと次の便がもう出るらしい。急いで乗り場まで行く。連絡していてくれていたのか僕を待っていてくれた。
正直、あまり期待をしていなかったのだが、初めて見る海の中の珊瑚と、熱帯魚にあっけにとられた。
竜宮城という例えが正しいのかどうか、とりあえずそこは別世界だった。
奄美には「ネリヤカナヤ」という言葉がある。
海のかなたには神々が住む楽園(ネリヤカナヤ)があると言い伝えられていた。
僕にとってはこの島がネリヤカナヤに違いない。

バスで名瀬に戻る。途中、嘉徳への分岐路で君を想う。
今回の旅で君に会うことはできなかった。
またいつかここに来るから。

ホテルにチェックインし、部屋に入ると、机のうえにパンフレットがおいてある。
宿泊者にはレンタカーの割引をしてくれるとのこと。
車があれば一度はあきらめた嘉徳に行ける。と思い。
さっそく内線でホテルのフロントに電話するが、直接レンタカーの営業所に連絡してくれとのこと。
渋々リュックの奥のほうに眠っていた携帯を取り出し、予約を入れた。
ホテルで夕食を取り、夜の町を散策してみる。
途中、寄ったスーパーに「おにポー」が置いてある。
うれしくなって買い込んでしまう。

長かったこの旅の最後の夜。


***********************************


朝、目覚めは良い。ホテルの部屋からもすんなり出られた。
1泊しかしてないので情が移ってないのもあるが、今日は元ちとせのふるさと「嘉徳」に行くのである。
ホテルのまん前にあるレンタカーの営業所に行く。返車は空港の営業所に返す予定で、ひととおりの手続きを済ませ、
車に乗り込む。
CDはもちろん元ちとせ。デビューアルバムの「ハイヌミカゼ」を聞きながらのドライブだ。
このアルバムの中で「君ヲ想フ」が一番のお気に入りである。
この作詞は彼女自身で、18歳で奄美を出る時、空港で見送る友達や両親と離れる淋しさや都会で一人で生きるという不安で泣き崩れた。
でも、そんな不安を抱えてやってきた都会で出逢った人達に
”ふるさとを想うという気持ちをもらった”
と、そんな気持ちを詞にしたそうだ。
サビの部分になるとつい大声で歌ってしまう。
この旅のクライマックスの嘉徳までの道中が、楽しくて仕方がないのである。
何度も通った国道58号線を走る。

長いトンネルをいくつか越え、カヌーをしたマングローブパークで休憩をとる。
またカヌーをしたい衝動にかられるが先を急ぐことにする。
一昨日歩いた道を車で通る。
歩き疲れてバスを待っていたバス停を過ぎると峠に入る。
急なカーブが続く。
道路に書かれた「スピード落とせ」の文字が「元ちとせ」に見えてくる。
「○○とせ」しかあってないやん。と、ひとり突っ込みまで出てしまう。

一昨日と昨日、バスで通過した嘉徳の分岐路に着く。
今日はこの道を曲がれるのだ。
うれしさがこみあげてくる。
ここからは道幅が狭くなる。
車の運転は不馴れなので、対向車が来ないよう祈りながら車を進めていった。

ずーっと民家もない山道。途中、蛇が道路を横切っていくのがみえた。
ハブではないと思うのだが。
やっと民家が見えた。路地のような細い道を通り、嘉徳のバス停の近くに車を停めた。
まず嘉徳の海岸に出てみた。
元ちとせもこの海岸を見ていたと思うと感慨にふける。
それから集落を歩いみた。
コンビニも自動販売機も見当たらない。
歩くとすぐに突き当たりに出てしまい、そこには学校があった。
中には誰もいる気配がない。
ちょうど、おばあさんが通りかかったので聞いてみた。
廃校にはなっていないが休校の状態になっているらしい。
しかしこの村には子供がいないのでいずれは無くなると。
ついでに元ちとせの生家はどこなのか聞こうかと思ったが、やめた。
ほんのすこし歩いただけだが、帰ることにした。

ここで君を想えたこと、君を感じられたこと。
それだけで僕の最高の想い出になる。

空港へ車を走らせる。
まぶたを閉じれば、あの小さな集落と嘉徳の海岸が甦ってきた。


おわり





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最終更新日  2005年05月19日 11時19分53秒
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