三十路の大学院生はっしーの研究日記

2004/09/27(月)17:59

「組織行動の考え方」

書評(35)

金井壽宏+高橋潔「組織行動の考え方」第3章、モチベーションに関するところを読み終えた。非常に興味深かった。 モチベーションに関するさまざまな学説が概観されたあと、経営学でよく用いられる「目標」という概念をキーワードとした「目標設定理論」というのが特筆されてあった。目標設定理論の説くところでは、高い成果と努力を引き出す目標のあり方として、(1)挑戦的だが困難すぎない目標  (2)具体的で測定可能な目標 (3)本人に目標が受容されていること (4)成果のフィードバックが与えられること の4つが挙げられていた。いずれも経験的に、納得できるものに思われた。あんまり困難すぎる目標を与えられてもしらけてしまってやる気は出ないし、そうかといって簡単すぎる目標でもいけない。また、目標は具体的であるほうがいいというのもその通りだろうし、一方的に指示された目標より本人も受け容れている目標のほうがやる気が出そうだ。また、適切なフィードバック(特にポジティブなもの)がやる気を引き出すというのも、受験戦争時代や院生時代の自分を振り返ると正しいような気がする。 しかし、である。ここでNHKの人気番組「プロジェクトX」のケースが登場する。プロジェクトXのケースは、たとえば「富士山頂に巨大レーダーを設置して台風への砦とする」「津軽海峡にトンネルを通す」といったような途方もないものばかりで、それらが成し遂げられたことを考えると「困難すぎる目標にはひとは動機づけられない」という目標設定理論では説明できない。また、途方もないこれらの目標は具体的で測定可能とも思えない。さらに、プロジェクトの挑戦者たちにはこれでもかとばかりに「失敗」という負のフィードバックが襲いかかる。打ちのめされ、頓挫しても不思議はないのに、挑戦者たちはめげずに立ち上がっていく。こうして、プロジェクトXのケースでは目標設定理論の説はことごとく否定されるのだ。 最後に著者たちは、「『夢』が人を動機づける」という仮説を立てて章を終えている。最後の仮説の妥当性はともかくとして、人を動機づける要因というのは非常に複雑怪奇で、学説もいろいろあるがまだ解明し尽くされていないのだということを学べたのは、なかなか興味深かった。解明されていないから勉強しなくてもいいということではなく、逆に解明されていないからこそ、モチベーションに関するいろんな説を勉強して、経営者として現実の企業経営、人心掌握に応用していきたいと思った。

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