2013/06/24(月)21:16
『微笑む人』読了
【送料無料】微笑む人 [ 貫井徳郎 ]
<内容紹介より>
エリート銀行員の仁藤俊実が、意外な理由で妻子を殺害、逮捕・拘留された安治川事件。犯人の仁藤は世間を騒がせ、ワイドショーでも連日報道された。
この事件に興味をもった小説家の「私」は、ノンフィクションとしてまとめるべく関係者の取材を始める。周辺の人物は一様に「仁藤はいい人」と語るが、一方で冷酷な一面もあるようだ。さらに、仁藤の元同僚、大学の同級生らが不審な死を遂げていることが判明し……。
仁藤は本当に殺人を犯しているのか、そしてその理由とは!?
貫井氏が「ぼくのミステリーの最高到達点」と語る傑作。
読者を待つのは、予想しえない戦慄のラスト。
<あらすじ>
水遊びにはまだ早い安治川で、
ある家族の行楽を襲った水難事故死と思われたのは、
実は夫(仁藤)による母子殺人だった。
妻と子供を失った気の毒な夫と思われた仁藤は、犯行の理由をこう語った。
「本を置く場所が欲しかった」
この事件に興味を持った小説家「私」が、彼自身をはじめ、彼を知る人達に取材を進める。
仁藤は最高学府卒業、見てくれも良くいつも穏やかな笑みをたたえているような人物。
彼を知る人達は「彼に限って人を殺すようなことはしない。冤罪だ」と言う。
しかし彼はいわゆる精神異常者ではない。
取材を進めていくにつれ、過去に遡って
彼の周りで突然死を遂げた人物が複数いることを知る「私」。
仁藤が犯人であると確信する「私」。
だが、何故彼が殺人を、普通の人が捉えるように
してはいけないこと、恐ろしいこと、捕まるかもしれないこと
と認識していないのかが不可解で納得できない。
そんな折、彼の現在の心を形成したと思われる事件を突き止める。
それは彼がある程度深く係わった女性に共通する名前
「ショウコ」の原点だった。
ショウコに降りかかった不幸を取り除くために、最初の殺人を犯したのだ。
やっと納得できたと思う「私」だったが、そこには思いもかけない嘘があった。
「ショウコ」を知るホステスのカオリは言う。
納得できないことは怖い、理解できないから恐ろしい。
自分の周りには納得できないことはいくらでもあるのに、
何故殺人犯の心理だけは理解できないと落ち着かないのか。
「私」は問われて答えることができない…
<感想>
おどろおどろしい表現や、エグい描写はほとんどありません。
仁藤の笑みは微笑みではなく、その後ろには何かを含んだ酷薄な笑み。
ホステスのカオリの薄ら笑い。
最後の章に入ったところで、ある程度予想がついた人も多いのではないでしょうか。
ここに登場する人たちの多くは、
「そんな理由で人を殺める人はいない。ましてやあの仁藤さんが」
と口を揃えて言いますが、本当にそうでしょうか。
世間を騒がす犯罪には、私には到底理解できないようなことが多々あります。
ですから、仁藤のような理由で犯罪を犯す人がいないとは言いきれないと思うのです。
そういう意味で、怖いと思う作品でした。