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chapter10

LastGuardian

chapter10「Counterattack」

月影市のゴミ処理場。
そこには5人の人という枠を超えた存在が居た。
4人は、世界の空間を歪む本となる存在。
もう1人は、その存在を拒む、漆黒の悪魔だった――。

レドナ「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

グリュンヒルを素早く振り上げ、目の前にいるイクトゥーに斬撃を入れる。
目の前にいるのが誰であろうと関係ない。
目の前にいる以上敵、だから殺す。
そういう暴力心が胸の奥底で湧いていた。

リリアム「ち、ちょっと!ほんとうにコイツさっきのレドナかよ!?」

戦闘開始40秒で、エビルロープの最大限8本のロープを使いレドナを捉えようとする。
しかし、すでに4本は再起不能までズタズタに引き裂かれている。

オローズ「3人で時間を稼いでおけ。
     強引だが、"あれ"をしてくる」
アギト「わかった、なるべくはやく頼みます!」

そうは答えるものの、3人でこの狂人と化したレドナを止められる自信はあまり無かった。

レドナ(ん・・・1人じゃヒュルイエの降臨は出来ないはずなのに・・・)

ヒャイム「リリアム、アギト下がって!
     コイツで動きを押さえとく!」

そんなことを考える余裕もなく、敵の攻撃は続いた。
ヒャイムは、大剣グラヴィティーブレイドを地面に突き刺し、重力魔法を展開した。
ゴミの山で、多少地面は荒れているものの、効果が全く無いわけではない。
無論、この剣の重力効果は使用者が例外者を決めることが可能である。
よって、アギトとリリアムはこの効果を受けない。

しかし、そんな中重力に逆らう漆黒の影があった―――。
この重い空間で、一旦は地面にうつ伏せになったが、それでもまだ立ち上がるレドナが――。
グリュンヒルを構え、ヒャイムに向かって低く飛ぶ。

アギト「ヒャイム!危ない!!」
レドナ「ああああぁぁぁぁぁっ!!!」
ヒャイム「うっ・・・・くはぁぁ!!」

3人の声はほぼ同時で、重なった。
アギトの制止。
レドナの咆哮。
ヒャイムの苦痛を訴える声。
その光景は、一瞬で血塗られた。

レドナのグリュンヒルの漆黒の刃が赤く染まる。
それは、ヒャイムの腹部にグラヴィティーブレイドを貫通して刺さった証明となった。
その一瞬さを物語るべく、未だに破壊されたグラヴィティーブレイドの欠片が宙を浮いている。

ヒャイム「い・・・や・・・いやぁ・・・・うっ!」
レドナ「はああああぁぁぁ!!」

そのままリグティオンを構える。
先端が割れ、砲撃モードとなる。
銃身と化したそれは、ヒャイムの顔面に距離間無しに突きつけられた。

そして、何のためらいも無しに、レドナはリグティオンのトリガーを引っ張った。
蒼い魔力ビームがヒャイムの顔面を貫通した。
その蒼い光は、さらに増大していき、頭からヒャイムの全体を消し去った。
残ったのは焦げ臭いにおいと、リグティオンの冷却用の排気ダクトからの煙だけだった。

アギト「ひ・・・ヒャイム・・・」
リリアム「う、うそだろ・・・おい・・・」

呆然と立ちすくむ2人。
見つめるのは目の前で一瞬で殺された仲間の居た空間と、それを実行した漆黒の悪魔。
最初、グリュンヒルで突き刺した時の返り血を拭くことも無く、レドナは2人を睨んだ。

レドナ「次は・・・テメェらだ・・・」

ギロリとした目つき。
普段のレドナからは想像もできなかった。

アギト「大丈夫です、オローズが来るまで持ちこたえましょう」
リリアム「あぁ、分かってるよ・・・」


一方、レドナ探索中のカエデとロクサスは。

カエデ「もうっ・・・どこ・・・いっちゃった・・・のよー」

ずっと走りっぱなしだったカエデが足を止め息を切らしながら言う。

ロクサス「魔力反応も全然見当たらないし・・・。
     月影市のほうも探してみる?」
カエデ「そ、そうだね・・・ふぅ」

心配そうに、カエデは薄暗くなった秋になりかけの空を見上げた。
そして、月影市。

カエデ「無茶・・・しすぎないといいけど・・・。
    それに、なんだかレドナじゃない強い魔力を感じる・・・」
ロクサス「この重苦しい魔力反応って・・・奴ってわけないよな・・・」」

どうやら、その存在に2人は前々から感知していたらしい。
そして、そのレドナやイクトゥー外の強い魔力反応に2人は少々脅えているようだった。

カエデ「そんなはずは・・・ないとは言い切れないけど、そうだったら厄介ね」
ロクサス「とにかく、急いで兄貴を探そう」

励ますように、ロクサスは言った。
それにカエデは頷くと、2人は再び走り出した。


レドナ「ぐあああぁぁぁっ!!!」

ドスン、と重い音と共にレドナはゴミの山に叩きつけられた。
それだけではない、いたるところに傷跡があった。
シルフィーゼの黒衣も所々焼け焦げている。
理由は5対1のこの現場がそれを物語っている。

ヒャイム「残念ね、レドナっ!!」

グラヴィティーブレイドで、きりつける。
かろうじてレドナも回避するが、左頬に切っ先が当たり、血が噴出す。
次の瞬間、グラヴィティーブレイドは平地に刺さり、重力効果でゴミの山に縛られる。

ソトゥー「ヒュルイエは再生能力もあるからねぇ~。
     僕らも元どおりだよ~あははは~!」

シャウタルプラントの触手が襲い掛かる。
ひび割れたグリュンヒルで、確実にあたる2本だけをガードしようとするが、動かない。
両手両足に触手が叩きつけられ、痛みにレドナは声も上げることができなかった。

オローズがさっき言ったこと。
それはヒュルイエを復活させるのではなく、天鳴石の効力を使うことだった。
天鳴石、ヒュルイエの能力、自己再生。
天鳴のヒュルイエの名は悪魔で仮の名であり、実際は再臨のヒュルイエである。
そのことをレドナはすっかり忘れていた。
その効力は計り知れず、どんな傷でもすぐに修復してしまう。
無論、今までのヒャイムとソトゥーが復活しただけではない。
今後はオローズ、リリアム、アギトとも再起不能にしても復活する状況に陥った。
イクトゥーを倒す方法、それは天鳴石の破壊のみとなってしまった。

オローズ「さぁ、たてよレドナ・ジェネシック!!」

笑みを浮かべ、オローズはレドナの頭を掴んだ。
意識が遠のいてゆくレドナ。

レドナ(責任を・・・・とらないと・・・いけないのに・・・)

目の前で、勝利が確定し、この上ない喜びだというように笑うオローズ。
力を振り絞って逃げようとする。
しかし、各部が痛み、それを拒ませる。
それだけではなく、仮に逃げられたとしても周囲は完全に包囲されている。

レドナ(負けたら・・・だれが・・・俺が・・・やらないと・・・)

ドクン――。
心臓の音ではない、何かの鼓動が高鳴る。
体全身が痛くて、何も考えられない。
でも、確かに聞えた。
その鼓動は、レドナの何かを挑発するようなものだった。
そして、その鼓動はこう告げた。

???("力"を欲するか―――?)

オローズ「何か最後に言い残したいことはあるか?」

ふと、オローズがレドナにたずねた。
今ここで、お前を倒す、などと言ったことを言えば瞬時に笑いながら殺される。
いや、どう返答してもそれを逃れることはほぼ不可能。

だから、レドナは賭けにでた。
その鼓動に言葉ではなく、思念で答えた。

レドナ(強くなろう・・・とかは・・・思わない。
    でも、責任をとれる・・・・皆を守れる力が欲しい・・・)

その返答は自分の力を、覚醒させた―――。

???(ならば汝、この力を解き放て―――)

瞬時、レドナの全身が光り輝いた。
唐突のことで、オローズも掴んでいた手を離し、後ろに下がった。

レドナ「俺は・・・俺は、最後まで戦い抜く!!」

ボロボロのシルフィーゼの黒衣が弾けた。
そして、その光は赤黒く、奇妙な光を放ちながら、レドナの身に纏いついた。

それは、レドナの新たなリーンジャケットとなった。
シルフィーゼとは打って変わって、両側に長いスカート。
体の部分は、ベルトのようなものが幾重にも巻きついている。
両肩のプロテクターも、灰色のものから黒く金のラインの入ったものに変わっている。

完全にリーンジャケットが装着されたのを確認した。
気づけば、身体的な傷も完全に回復している。
そして、その名前が"イミティートの黒衣"であるとさっきの鼓動が教えてくれた気がした。

オローズ「ば、ばかな!!こんなはずが・・・!!」

驚いたのはオローズだけではない、他の4人も唖然としている。
逆に、レドナは驚きよりも大きな期待と確信があった。
体中に力が溢れ漲るのが分かった。

レドナ「こいっ!」

両手を開き、武器の具現化をさせる。
蒼白い光がその武器の形状へと変化していく。
そして、現れた武器はグリュンヒル、リグティオンと酷似している武器だった。
まったく形は違うが、どちらの大剣も、前の二本の面影があった。
グリュンヒルは、赤い紋章が刃に彫られ、中心に空いていた1本の穴の形状が変化している。
リグティオンは、砲門が計5つになり、排気ダクトもその分大きくなっている。
そう、武器の中のプラグレサーが反応し、武器がレベルアップしたのだ。
プラグレサーによる武器のレベルアップに必要な条件。
それは、武器使用者の精神的成長とリンクする。
つまり、レドナが新たなリーンジャケット、イミティートの黒衣を身に纏った。
そのことにより、レドナの精神面は大幅に成長した。
それに連動し、武器も変化していったのだ。

レドナは、プラグレサー自体が、脳に名前をかたりかけてくるのが分かった。
グリュンヒル零式、ガルティオン、それが新たな武器の名前だった。
3つの新たな力、1つの新たな決意を胸に、レドナは再び武器を構えた。

早速レドナは、ガルティオンを操作した。
刃の中心部に1つ、両サイドの刃に2つずつついている砲門を開かせた。
ガチン、と機械音をたて、瞬時に魔力を吸収する。
そこで、レドナは新たなことに気づいた。
リグティオンであれば、使用者の魔力から魔力ビームを放っていた。
だが、ガルティオンは、周辺に散布している魔力を吸収し、それを放つ方式であった。
要するに、仮にビームをはずしたとしても、再度吸収し、使用者本人の魔力消費はほんの少しとなった。

5つの砲門に、さっきまでの戦闘でそこらじゅうに散布している目に見えない魔力が集まる。
蒼白い球体となり、レドナはトリガーを操作した。
5つの光が、オローズに向かい超高速、しかも追尾式で追いかけていく。

オローズ「ぐっ!!」

1発当たるだけでも、そうとう辛いこの魔力ビームを回避する暇なく、所持する槍で防いだ。

ヒャイム「後ろががら空きよ!」
レドナ「甘くみるなよ!!」

後方から、グラヴィティーブレイドを構えたヒャイムが襲ってきた。
半回転し、レドナはそれをかわす。
ゴミの山に叩きつけられたグラヴィティーブレイドの上に、グリュンヒル零式が叩きつけられる。
そして、グリュンヒル零式に描かれた赤い紋章が、残酷なまでに赤い光を放つ。
ふと、柔らかな音がした。
その瞬間、柔らかな音とは裏腹に、グラヴィティーブレイドが粉砕した。

ヒャイム「な、なによこれ!?」

信じられない光景に、驚いた声を出す。
咄嗟にヒャイムは柄の部分のみとなったグラヴィティーブレイドを離し、後ろに下がった。

レドナの持つグリュンヒル零式の特殊効果、"ウェポンクラッシュ"。
使用者の魔力を無条件に底近く抉り取る。
しかし、代わりに今触れている相手の武器をどんな効果がかかっていようと破壊する。
無論、再起不能なまでに。

オローズ「くそっ!一旦退くぞ!!」

オローズの焦った声が、しんとしているゴミ処理場に響いた。
イクトゥーは、急いで転移魔法を発動させ、空間に消えていった。
どうやら、幸いなことにイクトゥーはウェポンクラッシュの特性を知らないようだった。
レドナの魔力が底にきていることを。

魔力を限界ギリギリまで抉り取られたレドナは、身体的な傷は無くとも、精神的な傷で、ゴミ山に倒れた。
同時に、武器も、イミティートの黒衣も消え、神下中の制服に戻った。
しかし、そのレドナの顔には笑みがこぼれた。

欲しかった"力"を手に入れたからだ―――。


一方、月影市にて、レドナを探索中のカエデとロクサスは目の前の悪夢に驚きを隠せなかった。
イクトゥーとは違い、白いコートを着ていた。
武器は手にしていない、だがそれ以上に重いオーラを漂わせていた。

カエデ「なんで・・・アンタがここに・・・!?」
???「小さき勇者に、力を与えていたのさ・・・」

フードを深く被り、口以外見えていない。
それでも、夜空を見上げて言ったのは分かった。

ロクサス「まさか、兄・・・いや、レドナのことか!」
???「さぁな。
    私はさっきも言ったとおり、小さき勇者に力を与えただけ・・・」
カエデ「遠まわしに言い過ぎると、こっちも任務の一環としてアンタを殺すわ、ヒドゥン!」

ヒドゥン、と呼ばれたその男は、ふふっと笑ってこう言った。

ヒドゥン「小さき勇者なら、ここから1kmほど離れたゴミ処理場にいる。
     そこに行け、真実を知りたければな」

それだけを言い残すと、転移魔法の展開も無く、霧のように消えていった。

ロクサス「月影市のゴミ処理場・・・なんでそんなところに・・・」
カエデ「推測は後!とにかく、さっさと行くわよ!」

2人が、レドナを発見したのは、それから10分後のことだった。
周囲の物が焼け焦げたにおいと、抉られた地面の痕が残る中、レドナは無傷でいた。
そのことに、少々不可解さを感じながらも、カエデとロクサスはレドナを連れて鳳覇家へ戻った。

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