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EP05「現れた影」

 -12/1 AM07:31 ARS総本部司令室-

 大きなガラス張りの窓から朝日がさんさんと差し込む中、吉良はその陽だまりに入り外を見ていた。
その時、机の上の電話が鳴った。陽だまりから出るのを一人で尻込みながら吉良は受話器を取った。

剛士郎「もしもし。おぉ、これは総理。お久しぶりですな。
    総理直々に電話とは、長話になりそうだ。」

 吉良はゆっくりと椅子に腰を下ろした。

剛士郎「・・・・ついに、世界を変える決断をしましたか。
    いえ、とんでもない。コレで我々も堂々と戦えるので助かります。」

 机の引き出しを開け、吉良は数枚の資料を取り出した。

剛士郎「ははっ、ご心配なく、例の機神のドライヴァーもこちらに協力してくれると。
    実に面白そうなドライヴァーです。」

 取り出した資料の中から、ツンツンの黒髪、赤い目をした証明写真の貼ってある紙を一番上にした。

剛士郎「鳳覇君なら、本当に未来も今も救えるかもしれません。
    ただ・・・・鳳覇 茜君にこの事を伝えるべきか否か――。」

 その資料の裏に載っている、同じく黒髪で赤い目をした女性の証明写真の貼ってある資料を見ながら言った。
剛士郎が指差す項目には、「職業:ARS機神・疑似機神研究部」と記載されていた。


EP05「現れた影」


 -12/1 AM07:31 鳳覇家-
 俺がARSに入って二日が経った。特に入ったからといって多忙な毎日になったわけでもなく、昨日まで普通に学校へ行っていた。
そして土曜日の今日、俺はARSからお誘いがあった。今後の事について、一緒に戦うメンバー紹介を兼ねての歓迎会をするそうだ。
正直な所、あの吉良の性格を考えると歓迎会をメインにしていそうな気がする。
 それはさておき、俺は今携帯片手に御袋に電話を掛けている。今後の生活費についての話をするつもりだ。
話によるとARSは一応は給料を出してくれるそうだ。どうやらARSは日本でも良く知られている多くの電気機器メーカーに関与しているとか。
信じられないが、今の電気機器は大半が機神のデータを応用しているらしい。その技術提供分の金というのだから相当なものらしい。
だから御袋から貰っている生活費を少しでも減らそうと思っている。
 その時、電話が繋がった。

暁「もしもし、御袋?」
茜「あら、電話なんて珍しいじゃない。」

 聞こえてくる御袋の声、少し胸に熱いものを感じた。

暁「ちょっと報告があってさ。
  俺バイト始めたから、少し生活費削っていいぜ。」
茜「ふ~ん、暁がバイトねぇ、何やるの?」

 聞かれると覚悟していたが、やはり直に聞くと言葉が詰まってしまう。

暁「ん、あぁ~、まぁ、う~ん、ちょっとパソコン関係の仕事・・・でね。
  プログラムのテスターやるんだ。」
茜「でもそれだけじゃ生活大変でしょ?」
暁「ううん、なんとかやってけるぐらいは貰えるっぽいし。
  それにあんまり御袋に迷惑かけたくないしさ、もう高校生だし。」

 実際にはなんとかどころか、普通に暮らせてなお余る額が支給されるのだが、そんな事はいえない。

茜「そう?それならいいけど。
  でも困ったらいつでも言いなさいね。」
暁「わぁーってるよ、んじゃ、仕事頑張ってね。」
茜「は~い、暁もね、それじゃ。」

 電話が切れた。とにかく疑われずに済んでホッとした。


 -同刻 ARS本部地下 機神・疑似機神格納庫-
 大きな部屋に4機の機神・疑似機神が専用台座の様なものに固定され並んでいた。
その中の一機はアルファード、両耳の長い角は90度折りたたまれている。その横には青い機神、スティルネス。
向かい側にオレンジと黄色のゴツゴツした疑似機神が、その横にはピンク色の開発途中であろう疑似機神がある。

淳「お子さんですか?」
茜「えぇ、なんだかバイトみつけたから生活費減らしていいって。」

 淳は暁がARSに入ったことを知らされていた。それで簡単に推測がついた。

茜「それにしても、この機神、エネルギー数値が尋常じゃないわね。」

 アルファードに繋いでいる端末の数値を見ながら、茜が言った。

淳「そりゃ港を1つ、簡単に消し飛ばすほどの広範囲兵器を積んでるからね、その尋常は普通なんじゃないかな?」
茜「でもスティルネスのデータと比較しても全然この機神と基本設計から違っているようだわ。
  リネクサスはこれを機神という概念の元に製造しているのではないのかもしれないわね。」
淳「つまりそいつは機神に分類されない、と?」

 眉間に皺を寄せながら淳が訊いた。

茜「そういいたいところだけど、言葉が見つからないわ。今のところは機神としておきましょ。
  ところで、この機神のドライヴァーはまだ発表があってないの?」
淳「えっ、ま、まぁ。どうやらドライヴァーは高校生らしくて、まだ決意が付いてないとかなんとか・・・。」

 淳は必死に茜に察されまいと、言葉を詰まらせて言った。淳はドライヴァーが誰なのか知っている。戦う決意をしたことも知っている。
ただ、それが"あなたの子供です"とはとても言い切れなかった。剛士郎も結局はまだ未公開情報としてARS内に知らせている。

茜「ちょっと残念ね、高校生がこんな機神を扱うなんて。」

 アルファードの胸部ボディに手を付けて呟いた。

淳「どういう意味だい?」
茜「いくらなんでもこの機体の力は高校生には重荷になりすぎてるって事よ。
  静流君ぐらいの歳ならいいんだけど。」
???「俺もいちおー高校生でドライヴァーなんだけどな~。」

 格納庫の奥から足音と声が聞こえてきた。

茜「あら、佑作君に静流君も、どうしたの?」
佑作「話そらさないでくださいよ~、俺だってゲッシュ・フュアーは重装備で相当重荷積んでるんっすよ?」

 そういって、佑作は黄色の疑似機神を指差した。

茜「そうね、ごめんなさい。」
静流「ところで、その機神については何か分かったんですか?」

 静流がメガネを怪しく光らせて言った。

茜「それもまだ全然、スティルネスより複雑だわ。」

 いかにもお手上げ、といった感じで茜が言う。

淳「ただ洒落にならないぐらい強いらしいぞ~、これじゃゲッシュ・フュアーも一撃でやられるかもな。」
佑作「あんまり馬鹿にしないでくださいよ~っ!」
淳「はっはっは、すまんすまん。」

 ふくれっ面をする佑作を、淳は笑ってなだめようとした。

静流「ということは、それだけ我々も覚悟しなければならないと言う事ですね。」

 鋭い目で静流が淳を見る。

淳「あぁ、そういうことだな。」
佑作「どういうことっすか?」
茜「きっとこの機神はスティルネスでもゲッシュ・フュアーでもドライヴァー次第では太刀打ちできないわ。
  それだけのものを生み出せるリネクサスを相手にするということよ。」

 佑作は納得した表情で、茜の話を聞いた。

静流「それだけではない、また暴走などされたらこちらがひとたまりもない。
   あのサンクチュアリ・ノヴァの前では何もかも無力だからな。」
淳「同じ接近戦で戦うとして、一番ノヴァに注意を払わなくちゃいけないのは神崎君だもんな。」

 同情したように淳がうなずく。

静流「別に私はそれを問題視しているわけではない、至近距離でノヴァを放つようなら切り捨てるだけだ。」
佑作「神崎さん、冗談になってないや。
   そういや、あの後方支援機はどうすんですか?」

 佑作はゲッシュ・フュアーの横にいるピンク色の疑似機神を指した。

茜「ルージュもはやく完成させないといけないわね。できればこの機神のデータを使いたいんだけど・・・。
  まだ未知数だから、スティルネスとゲッシュ・フュアーのデータを入れる予定よ。
  今完成度80%ってところかしら。」
静流「ドライヴァーは決まったんですか?」
淳「まだまだ、候補者と志願者は居るんだけど、この前言ったとおり野朗ばっかでね。
  どうもこの女性らしいフォルムと、後方支援っていう地味な役が気に入らないんだってわがままばっかだよ。」

 淳が苦笑する。

茜「ドライヴァーの都合に合わせてフォルムを変更するなんて馬鹿な事は大きなタイムロスになるから、絶対に出来ないわ。」
静流「よくもまぁ志願者と言えるものだ。」

 静流があざ笑った。

茜「そうね。でもそんな人たちがこの機神に乗るぐらいなら、未熟な高校生が乗ったほうが良かったのかもしれないわね。」

 茜がアルファードを見上げていった。

茜「貴方達はドライヴァーの事聞いてない?」
佑作「えーっと、それは・・・。」
静流「いえ、まだです。吉良司令が極秘情報として扱っているようですので。」

 佑作の見え見えな発言を隠すように静流がきっぱりと言った。佑作と静流にも剛士郎から口止めがかかっているのだ。

茜「そう、残念ね・・・。」


 -12/1 AM09:12 鳳覇家-

 "メンバー紹介メイン"の歓迎会に備え、俺はARSの制服を着ようとしていた。だが、普通の制服とは違いそこそこ複雑である。
襟なのかどうか分からない部分があったり、ただの装飾だったりと。だが、そこそこカッコよかったのも事実だ。
 とりあえず、携帯と財布と吉良のおっさんから貰ったIDカードをポケットに俺は外に出た。マンションの下まで行くと、引越し会社のトラックが2台停まっていた。

暁「誰か入居すんのかな・・・?」

 そう思い、俺は少し引越し業者の人が荷物をマンションの中に運ぶ姿を見ていた。
 すると、家の人らしき人物が出てきた、ちょうど同年代ぐらいの男が業者の人と話をしている。青い目という点を除けば、何となく俺に似ている姿だった。
男が話し終えると、マンションに入っていこうとした。せっかくなので、俺は声をかけた。

暁「おーい!」
???「ん?」

 青眼の黒髪少年が振り向く。

暁「お前、今日からここに住むのか?」
???「あぁ。」
暁「俺は鳳覇 暁、ここの最上階に住んでる、よろしくな!」

 俺は握手を求め、手を差し出した。

レドナ「"夜城 レドナ(やしろ れどな)"、よろしく。」

 それだけ言うと、レドナと名乗った男は俺の手を無視して中に入って行った。

暁「なんだよアイツ。」
???「あら、あなたもここの人?」

 黒髪に長い髪、青い目をした女性が声をかけてきた。見ると、その女性は車椅子に乗っている。
その美しい容貌に俺は一瞬詰まった。

暁「あ、はい、最上階に住んでる鳳覇 暁です。」
レイナ「私は"夜城 レイナ(やしろ れいな)"、レドナ君の姉です。
    ごめんね、レドナ君何か気に障る事言わなかった?」
暁「いえ、何も・・・。」

 さすがに本人の姉にイヤなヤツだとは言えない。

レイナ「両親が事故で死んでから、ずっと皆と仲良くするのを拒んでるの。
    仲良くすればするほど別れる時が辛くなるからって。」
暁「・・・そう・・・ですか。」

 俺は驚いた、親父の言葉に似たことを他の人の口から出るなんて。

レイナ「でもほんとはいい子だから、迷惑かけるかもしれないけど・・・よろしくね。」
暁「はい、分かりました!
  それじゃ、俺ちょっとバイトがあるんで。」
レイナ「うん、それじゃ。」

 俺は一礼して自転車を取りに行った。夜城さんも笑顔で手を振ってくれた。


-

レドナ「・・・あいつか。」

 俺に架せられた使命、あいつを倒せば――。

レイナ「ん?どうしたの?」
レドナ「いや、なんでもない。
    結構広い部屋でよかったなって思ってさ。」
レイナ「そだね、でも2人だとちょっと広すぎるかも。」

 そう言ってレイナは微笑んだ。この笑顔を守れるのは俺しか居ないんだ。そのためなら。

レドナ(鳳覇 暁・・・・サンクチュアリのドライヴァー・・・・。)


-

 -12/1 AM09:52 ARS総本部司令室-

 馬鹿でかい司令室に、花やら飾りやらがいっぱい広がっていた。設けられた大テーブルには豪邸級の料理が並んでいた。
それに使い人であろうかメイドさんも幾人か居た。
 ARSの財力というか、サービス精神というか、俺はぽかんとしていた。

剛士郎「それでは、鳳覇君と榊君の入社を祝って、乾杯!」

 無駄な前置き話も無く、吉良のおっさんは会を開始した。拍手喝采する中、一人のスレンダーな女性が小台に上がる。

雪乃「ぇ~こほん、それでは副司令である私"有坂 雪乃(ありさか ゆきの)"が皆さんのメンバー紹介をさせていただきます。」
剛士郎「有坂君、そういうのは後にしよう後に・・・・・。」

 有坂さんの鋭い目が吉良のおっさんに向けられたのが素人の俺でも分かった。その目に吉良のおっさんは黙り込む。

雪乃「いちおう"メンバーの顔合わせと紹介"がメインですからね。」
剛士郎「わ、分かってますっ。」

 吉良のおっさんは肩幅を小さくして席についた。

雪乃「それでは改めまして紹介を始めますね。
   手前からARS特別戦闘員の神埼 静流くん。」
静流「よろしく。」

 凛々しい男はそれだけ言うと、席に着いた。あれがスティルネスとやらのドライヴァー。声と見た目が一致していた。

雪乃「同じくその隣が寺本 佑作くん。」
佑作「よろしくな、鳳覇、榊!」

 神埼とは打って変わって、こちらは明るい少年のようだ。

雪乃「後は本日別任務で出動中の桜 かりんさん。
   以上が機神・疑似機神で共に戦うメンバーになります。
   それでは――。」

 その時、司令室のドアが開いた。一同が振り向くと、そこには白衣を着た女性と佐久間が立っていた。
しかし、その女性には見覚えがあった。

暁「お、御袋・・・・・?」
茜「・・・・バイトってこれの事だったのね。
  分かったわ、吉良司令がドライヴァーを極秘にしていた理由が。」

 御袋の声は震えていた。それ以前に俺の頭の中もパンクしそうだった。何故ここに御袋がいるのか。

茜「暁・・・・・。」
暁「そ、その・・・・これには・・・・深いわけが・・・。」

 一瞬にして冷めた空気に、茜の怒鳴り声が響く。

茜「ドライヴァーならドライヴァーって教えなさい!!
  こっちはあの機神について色々聞きたいことがあるっていうのに、ドライヴァーが極秘とか言うから段取りが遅れたじゃないの!」
暁「へ?」

 怒られたのは怒られたが、その内容は間逆だった。 俺はってっきりドライヴァーになったことを怒られるのかと思った。

茜「機神とドライヴァーはいわば一心同体の存在なの、あの機神を解明するにはドライヴァーの存在が不可欠なんだから。」
暁「怒って・・・・ないのか?」

 恐る恐る俺は訊いてみた。

茜「怒ってます!なんで早く言わなかったの?」
暁「それは・・・って、御袋こそ宇宙研究の会社にいるんじゃなかったのかよ!?」

 理由を捜すうちに反論の言葉が見つかった。冷静に考えて何故御袋がここにいるのか。

茜「私は最初からここのARSの機神・疑似機神の研究員として働いてたの、心配かけたくなかったし。」
暁「じゃ、俺も心配かけたくなかったから、が理由になるな。」
茜「それとこれとは違う!」
暁「い~や、同じだ!」

 これだから大人はあまり好きじゃない。子供のことになると自分の事は棚に上げる。

剛士郎「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。」
茜「今日はこのぐらいにしときましょう、暁、歓迎会が終ったら即集合ね。」
暁「わぁーったよ・・・・ったく。」

 学校の先公に呼ばれるよりもその言葉は重かった。

暁「あ、親父もARSに関係してんのか?」
茜「ほんのちょっとね、ここが他企業に情報提供しているのは司令から聞いてる?」

 俺は頷いた。

茜「お父さんはその提供してもらっている立場なの、私の職のことは知ってるけどARSには関係ないわ。」
暁「そっか・・・。」

 さすがに家族全員ARS社員となるのは気が重かった。

剛士郎「さて、次は鳳覇君と榊君、自己紹介いいかな?」

 熱が冷めてから、吉良のおっさんはタイミングを見計らって言った。

榊「あ、はい。私は"榊 輝咲"、ご存知のとおり未来からの者です。
  何卒ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくおねがいします。」

 律儀に挨拶する輝咲。一礼して、席に着く。

暁「改めまして、"鳳覇 暁"です、皆よろしく!」
佑作「それにしても、珍しい名前だよな~、俺最初"あかつき"って思ったぜ。」
淳「たしかに、そうだね。」

 苦笑いする寺本、それに頷く佐久間を俺は血の色をした目で睨んだ。

暁「・・・・・・・っ。」
佑作「あれ・・・・なんかやばい雰囲気?」
暁「てっめぇぇぇぇぇっ!!!!」

 俺は椅子を蹴って、テーブルの反対側までジャンプし、寺本の背後に付いた。そして両手をグーにして寺本のコメカミをグリグリする。

佑作「がぁぁぁぁぁっ!!ギブ!!ギブ!!!」
暁「俺の名前が何だって・・・・?」

 俺がこの世に長年生きている上での最大の私的な悩みの種のが一つある。それが今ここで再び現れた。
名前を"あかつき"と呼ばれること、それが種だ。そう呼んだからには容赦しないのが俺のポリシーだ。

茜「あ~あ、暁はそう呼ばれるのが一番嫌いなのよ。」
淳「ちょ、ちょっと落ち着けって。」

 佐久間に両脇を抑えられ、俺は抵抗をやめて寺本をコレでもかと言うほどににらみつけた。

佑作「いって~・・・まったく"あかつき"君は酷いなぁ~。」
暁「んだとぉぉっ!?」

 一旦は許そうとしたが、俺は佐久間の腕を振りほどき、再びコメカミにグーの拳をめり込ませる。

佑作「ぐぉぉぉぉぉっ!!やめ!やめてぇぇぇぇぇ!!!」
暁「ごめんなさい、もうしませんは・・・・?」
佑作「ごぉぉぉめんなざぁぁぃ、もうじまぜん・・・。」

 半泣き状態になったところで、俺は寺本から拳を離した。

剛士郎「さっそく寺本君と仲良くやってるじゃないか、うん、いい光景だ!」
雪乃「ちょっと違うと思いますけど・・・?」

 その時、この空気をかき消すかの如く、サイレンが鳴った。

剛士郎「どうした?」

 有坂さんは机の受話器を取って、連絡を仰いだ。

雪乃「こちら司令室、どうしたの!?・・・・何ですって!?
   大変です、東京湾周辺に機人反応です!」
剛士郎「すぐに現地の非難を急がせてくれ。
    歓迎会は一旦お開きだ、神崎君、寺本君、鳳覇君、ただちに出撃だ!」

 吉良のおっさんが初めて本当に司令のように見えた。

静流「了解、いくぞ寺本、鳳覇!」
寺本「りょ~かいっ!」
暁「あぁ!」

 もう戦うことから逃げない、皆を守る力がある、暴走なんかさせない。
 俺は神崎の後に続いて司令室を出た。エレベーターに乗り、一気に下の階まで降りていく。
BF30階でえれべーたーは停止し、ドアが開いた。目の前に映る光景に俺は息を飲んだ。
俺のアルファードを含め、巨大な機神か疑似機神かが4機。その一機はスティルネスであることも分かった。
どうやら格納庫らしい。

静流「鳳覇、地上に出るまでは自動でカタパルトが動く、下手に自機を動かすなよ。」
暁「了解!」

 神埼も寺本はすでに自分の機体のコクピットに乗り込んでいた。俺も急いでアルファードのコクピットへ階段を上った。
入ると、モニターの光が中を明るく照らした。同時に通信が入る。

雪乃「皆準備はいい?今回は全機沿岸部Cポイントに打ち上げるわ。
   神崎君と鳳覇君は接近戦で敵を迎撃、寺本君は後方から援護をお願い、いいわね?
   じゃ、各機発進!」

 その声を最後に、アルファードが後にぐいと引き寄せられた。背部のカタパルトに接続されたようだ。
沿岸部のCポイントというのがいまいちよく分からないが、きっと沿岸の方に出るのであろう。

静流「スティルネス、神崎 静流、出る。」
佑作「ゲッシュ・フュアー、寺本 佑作、いくぜ~!」

 真横にあったスティルネスとその前方のゲッシュ・フュアーが物凄い速度で上に引っ張られていった。俺も負けじと気合を高める。

暁「鳳覇 暁、アルファード、行きます!」

 言い終えると、アルファードも同じように物凄い速度で上に引っ張り上げられた。不思議とGとやらは感じなかった。
光が差し込むと、本当に埋立地らしき所に出ていた。

静流「鳳覇、行くぞ。」

 スティルネスが太刀を構えて肉眼でも確認できるエインヘイト向かって突撃した。

佑作「後は任せとけよ、鳳覇!」
暁「あぁ、分かった!」

 真横にいた黄色とオレンジの重装備の機体が後に下がる。砲戦タイプの機体であるのは俺にも分かった。
俺も背中の太刀を2本抜き出して構え、スティルネスの後に続こうとした。だが黒い機体がそれを邪魔した。

暁「何!?」

 黒い機体はアルファードに突進を仕掛けたらしく、俺はバランスを崩し転倒した。モニターで相手を確認する。
それは黒いエインヘイトらしかったが、面影だけで装甲はまったく異なっている。

静流「気をつけろ、そいつは敵のエリート機だ!」

 神埼の通信が入る。

佑作「鳳覇!ミサイル打つから立ち上がるなよ・・・・っ!?」

 佑作が援護をしようとするが、海の中からのビームに佑作のゲッシュ・フュアーは回避でよろけた。

???「あら、そんな重そうな機神でこの砲撃をかわすなんて。」

 ビームを放ったであろう馬鹿でかい銃を背負ってるこれまた違うタイプの赤色のエインヘイトが海中から現れた。

佑作「長距離戦用のエインヘイト!?」
暁「なんだって!?」
???「余所見をするな。」

 アルファードに入る衝撃、黒いエインヘイトがアルファードを手持ちの両刃の大剣で薙ぎ払っていた。

暁「くっ、エース機が2機かよ・・・!?」
静流「いや、3機だ。」

 見ると、一般のエインヘイトを倒し終えたスティルネスも別タイプの日本刀を持つ水色のエインヘイトと鍔迫り合いをしていた。

???「我らを甘く見ては、痛い目にあいますよ。」
静流「なら遭わせてもらおうか。痛い目とやらに。」

 その時、通信が入る

雪乃「敵は"麗華 修(れいか しゅう)"の近距離戦用のエインヘイト・スウァータンズ。
   それと"ヒルデ・リゼイム"の遠距離戦用のエインヘイト・ポジトロンよ、気をつけて!」
佑作「有坂さん!あの黒いエインヘイトは何なんですか!?」

 エインヘイト・ポジトロンの砲撃をかわしながら佑作が訊く。

雪乃「黒いエインヘイト?・・・・データに無いわ。
   とにかく各機慎重に対応して!」
暁「なんだよ!俺の相手は新手かよ!」

 この黒いエインヘイト、機動性がどうとかではない、パイロットの技術がすごい。初戦のカイルとは全然違う。
機人のくせして簡単に機神の動きに追いついてくる。

暁「コイツ・・・強ぇ・・・!!」
???「後に下がって攻撃を受けるだけか・・・カイルもよく手こずったな。」

 黒剣はなおもアルファードに傷を入れていく。ノヴァを放ちたいが、ここでは出来ない。

暁「あんまり馬鹿にすんなよっ!!アルファード!!」

 右の剣で相手の剣を受け止め、左手の剣を投げ捨て空いた左手でパンチを腹部に直撃させた。

???「っ、パワーはさすがに凄いか。」
暁「アルファードを甘く見るなよ。」
???「機体性能に頼るだけでは、俺の勝ちだな。」

 目にも留まらぬ早業で黒いエインヘイトの蹴りが胸部に当たる。そのまま立て続けに右ストレート、左回転蹴り、両刃大剣での一突きが来る。

暁「ぐぅっ!?」

 アルファードは強烈な衝撃に再び倒れた。その上に黒いエインヘイトが乗り、足で頭部を踏みつけた。

???「お前を倒せば・・・・っ!」
暁「待ってたぜ、この瞬間を!!」

 俺はアルファード特有の尻尾を黒いエインヘイトの足に突き刺した。そのまま一振りしてエインヘイトを投げ飛ばす。

暁「お返しだぁっ!!」

 投げ捨てた左手の太刀を拾い上げ、黒いエインヘイトの胸部装甲に傷を入れた。その傷から見える搭乗者の姿に俺は驚きを隠せなかった。
黒い髪に青い瞳、間違いない、あれは――。

暁「お、お前は・・・夜城!?」
レドナ「・・・。」

 返事は無いが、間違いなくあれは夜城 レドナだった。

暁「なんでリネクサスに居るんだよ!!」
レドナ「お前は分かってたまるかっ!!」

 黒いエインヘイトの両刃剣が振り上げられる。俺は慌てて後に下がった。

ヒルデ「レドナ、修、データは取れたわ。引くわよ。
    じゃ~ね、坊や。」
佑作「ま、待てよ!!」

 ゲッシュ・フュアーが乱射するミサイルをひらりとかわして赤いエインヘイトは海中に潜った。

修「今回はこれまでです、あなたとまたお手合わせ願いたい。」
静流「いいだろう、神崎 静流だ、覚えておけ。」
修「それでは。」

 水色のエインヘイトも海中に潜る。

レドナ「ヒルデ、すまないが回収を頼む。」
ヒルデ「分かってるわよ。」

 再び赤いエインヘイトは海中から現れると、黒いエインヘイトを降りたレドナを自機のコクピットに居れ、機体を再び海中に引きずり込んだ。

静流「敵もそろそろ、本気のようだな。」
佑作「うわ~、きついなぁ。」

 海中に消えた3機のエインヘイトを見送るかのようにスティルネスとゲッシュ・フュアーは海沿いを見た。

暁「レドナ・・・・あいつが。」

 今日会ったばかりだが、あいつがリネクサスにいることがとても気になって仕方なかった。
あいつの姉はこの事を知っているのだろうか、あんなに優しそうな姉をレドナは勝手に裏切っているのではないだろうか。

EP05 END


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