312743 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

EP09「乙女の本気」

 -11/23 PM01:05 陽華高校 2-A教室-

 待ちに待った昼休み、俺は空腹を満たすため急いで持参の弁当のフタを開けた。
開けると共に俺の眼前に拡散する弁当の匂い。

暁「いただきます。」

 箸を手に取り、米に箸が触れるか否かの瞬間に誰かの叫び声が聞こえた。

真「ぐああああっ!!弁当を、わ!す!れ!た!」

 と叫ぶ真。その目は俺を見ている。視線が語っていることは何となく推測が付いた。
"飯を分けてくれ"と言わんばかりの眼差しだ。

小夜「まったく、今日は学食使えないってセンセが言ってたじゃん。
   少し分けてあげるから落ち着いて。」

 岸田の介入により、俺への被害は無くなった。そう思っていると、

小夜「鳳覇君も、分けてくれるよね?」

 さすがに女子の言う事となると断りがたいものがあった。

暁「ったく、わーったよ。」
真「おぉぉぉ・・・我親友よ!恩にきるぜ!!」

 真も岸田も俺の机に集合した。席に着くと共に俺は真の空いた口にゆで卵を丸々一個詰め込んだ。

真「ぐぁ・・・・っ!!うん、うまい!」

 俺としては攻撃したつもりだったのだが、真にとっては回復効果となってしまったようだ。

真「そーいえば、小夜って自分で弁当作るのか?」
小夜「う~ん、たまにかな。お母さんが居ないときとかは自分で作ってるよ。
   はい、これ。」

 答えながら、岸田は自分の弁当の蓋に米とおかずをのせて真に渡した。

真「おう、サンキュ!
  俺も料理できるようになりてぇなぁ・・・。」
暁「料理の世界を舐めるなよ、少なくともお前が見てきた世界より広いぜ。」

 俺も岸田の弁当の蓋に自分のおかずを少し置いた。

小夜「ふふっ、確かに言えてるかも。
   そういえば、明日予定ある?」
真「おう、空いてるぜ!
  って、今日はクリスマスイブイブじゃねぇか!」
暁「もうそんなシーズンか。」

 教室のカレンダーを見て呟いた。先月からドライヴァーになったり、戦ったりで全然そういう行事を考えることも少なくなっていた。
きっと先月は今までの中で一番いろいろあった月だろう。

小夜「去年みたいにさ、また泊り込みで鳳覇君の家でクリスマス会しようよ!」
真「お、賛成賛成!」
暁「そーだな、俺も賛成・・・っていうか、俺の家だしな。」

 あんなごたごたがあった後だからこそ、こういう息抜きは欠かせないだろう。
 それはそうと、岸田は何故真だけ誘わないのか俺は気になった。俺に気を使っているのなら余計なお世話だ。
2人で楽しんでくれれば、それで俺は小さな悩みが一つ減るというのに。

真「そうだ、輝咲ちゃんと鈴山先輩も誘おうぜ!」
暁「待て待て!なんで2人の名前をここで出すんだ!」

 突拍子の真の発言に俺は焦りを隠せなかった。大人数で盛り上がるのはいいが、さすがにその組み合わせだと気まずくなりそうな気がしてならない。
かといって片方だけ誘うのは無理な話しだが。

小夜「へ~、いつの間に一気に2人もゲットしたの~?」
暁「待て、違うっての!」

 一応真には鈴山との関係は教えてある。というのも数日前、ARS本部から帰宅途中を目撃されたのだ。
関係とは言っても、ただ俺たちはドライヴァー同士と言うだけの話しだ。

小夜「それなら、真とこの恵奈ちゃんも誘っちゃえば?」
真「おっ、そりゃいい!」
暁「だから勝手に話しを進めるなっての!!」


 EP09「乙女の本気」


 -12/24 PM01:30 鳳覇家-

 という訳で、遂にこの日が来た。一つ言える事は、やはり気まずい。

真「さぁ、諸君!今日はクリスマスイヴだ!
  善は急げという言葉があるように、もうクリスマス気分で盛り上がろうぜ!」
小夜「はーい!」
恵奈「もー、真ってば。」
結衣「うん、そうだね!」

 どうやら気まずいと思っていたのは俺だけらしく、皆はかなりテンションが上がっていた。

輝咲「こんなに大勢でクリスマス会をするのは初めてだよ。」

 嬉しそうに輝咲が言う。

小夜「輝咲ちゃんも、今日はいーっぱい楽しもうね!」
輝咲「はいっ!」

 さすが女子、初対面でも完全に溶け込んでいる。

暁「司会者さーん、一つ質問でーす。」
真「ん?何かな~?」
暁「ケーキ買ってくるとか言ってた馬鹿野朗は誰でしたっけ?」

 無論、馬鹿野朗とは司会者のことで、司会者とは真のことである。昨日から俺が買ってくると言い張っていたのに、今日は手ぶらでいる。

真「ふっはっはっは、よくぞ聞いてくれたぁっ!」

 真特有の何か真にとっては面白く俺にとっては迷惑この上ない笑みを浮かべている。

真「せっかく女子が4人もそろったということで、暁の手作りケーキを賭けたケーキバトルをしようと思う!!」
暁「は?」

 部屋にいる全員がポカーンとなった。

真「だから、恵奈と小夜と輝咲ちゃんと鈴山先輩でケーキを一つ作るのだ!
  そして一番美味しいケーキを作れた人が、暁の特製ケーキを食べる権利を得ることが出来るのだ!」

 やはり、真にとっては面白く、俺にとっては迷惑この上ない事だった。

小夜「う~ん、確かに面白そうだけど、私はもうケーキ食べたことあるから判定側に回ろうかな。
   3人で戦って、勝った人が特製ケーキと鳳覇君からお姫様抱っこなんてどう?」
真「ナイスアイディア!さすが小夜!!」
暁「ちょ~~~っと待て!いや、ちょっとじゃなくて完全に待て!絶対待て!」

 極悪非道の真と岸田のコンビが結成されてしまった。

暁「多めに見てケーキは作ろう!だが何でお姫様抱っこなんだよ!
  つか、皆も反対だろ?」

 振り返って選手となっている3人に意見を求めた。

恵奈「暁お兄ちゃんと・・・・。」
結衣「鳳覇君に抱っこ・・・・。」
輝咲「暁君に・・・・・。」

 3人ともどうやら既に妄想の世界に入っているようだ。真の強引かつ斬新な提案。
それに臨機応変に対応する相手の核心を突いた岸田の提案の融合ほど、最強の組み合わせはこの世に数種しかないだろう。
例えて言うなら、白と黒を混ぜて綺麗な虹色が出来ていると言ったところか。

小夜「さて、じゃあ決まりだね!」
真「制限時間は今日の夕食まで!材料費はこの封筒の中に入っている分だけで作ること!」
暁「まて、キッチンはどうするんだ?」

 さすがに一人暮らしのウチはキッチンは一人分しかない。それよりも2人分ある家のほうが珍しいだろう。

真「ここの隣の料理クラブのキッチンを貸してくれるよう手配は済んであるのだ!」
小夜「そっか、真のお母さんあそこで料理教えてるもんね。」

 そういえば、真の母親は料理クラブの部長をやっているとかいう話を聞いた覚えがある。

真「よ~し、それじゃ現時点を持って『暁争奪、ドキドキ胸キュンケーキ対決』開始!」

 何処からかクラッカーを一個取り出して、ひもを引いて鳴らし、スタートの合図にした。

恵奈「年下だからって負けないからねっ!」
結衣「私だって、甘いもの作るのは得意だよっ。」
輝咲「ケーキ・・・頑張らなくちゃ。」

 3人は封筒を手にとって急いで外に出た。

暁「お前、もしかしてさ。」
真「ん?」
暁「昨日1万貸してくれっていったのはこのためか?」
真「もちのろぉぉぉうぐっ!!!―――。」

 その言葉を聞いて、俺は思いっきり力の限り真の顔面に鉄拳をめり込ませた。


 -PM01:53 福岡県 某スーパー-

恵奈「う~ん、どれにしようかなぁ~・・・。」

 女の子のたしなみとして普通にケーキを作るだけでは勝てない。多分勝負はトッピングの問題になる。
私はお菓子売り場を覗いて、可愛い形のお菓子を何個かカゴに入れていった。

 -同刻 同所-

結衣「う~ん、どうしよっかなぁ。」

 普通のケーキでは絶対に勝てない。多分勝負は発想が鍵になりそう。
私はフルーツコーナーを覗いて、ケーキに入れる具を考えていた。

 -同刻 福岡県 某書店-

輝咲「ケーキ・・・ケーキ・・・。」

 私は料理本のコーナーでお菓子の作り方の本を読んでいた。正直なところ、簡単な料理しか作ったことは無い。
 恵奈ちゃんも鈴山さんもすぐにスーパーに買物に行った。きっとこの時代の女の子はお菓子作りは女のたしなみの一つなのだろう。
さすがに暁君の前では恥を掻きたくなかった。それにやるからには絶対優勝したい。

輝咲「よしっ、頑張れ、私!」

 私は読んでいた本をレジに持っていった。

 -同刻 鳳覇家 台所-

真「いいなぁ~、ハズレなしのお姫様抱っこ権。」

 クリームを作っている最中に真が台所に入り込んできた。

暁「お前も岸田抱いたらどうだ?クリスマスだし。」
真「そりゃ抱きたいけどよ~・・・・・。」

 そういいながら、トッピング用の苺を食べようとしていた。

暁「食欲は女に勝るってか?」

 その手を思いっきり叩いた。

真「いってっ!!そんなんじゃねぇけどよ・・・。
  う~ん・・・・。」
暁「明日帰る時にでも途中まで送っていって、そこで告ればいいだろ。
  絶対岸田もお前の事が好きだって。」

 いい加減ここでお互いの仲介役を引退できそうな雰囲気だった。

真「分かった、俺やってみるぜ!」
暁「おう、頑張れよ!」

 意外とすんなり承諾した真に、俺はさっき食べようとしていた苺を投げて渡した。

小夜「な~に話してんの?」
真「大人の階段の一段について話していたのさ・・・。」
小夜「何よ、それ。あ、私も一個貰っていい?」
暁「おう、一個だけだぜ。」

 岸田も苺を一つ掴んで食べた。

真「大人になるってのは大変なんだ・・・、小夜だって分かるだろ?」
小夜「ぜ~んぜん分からないんですけど~!」
暁「ははっ、真が大人になる過程は普通の人とはかけ離れてそうだしな。」

 俺のフレーム内に笑顔の真と岸田が入っているのは久しぶりだった。


 -PM05:00 鳳覇家横 料理クラブ キッチン-

真「さてと、そこまで!」

 またどこから持ってきたか分からないが真がホイッスルを吹いた。それ以前にツッコミ所は満載であった。
いつ着替えたのかタキシードを着て、キラキラ光るネクタイまでつけている。
 昔のバラエティーの司会まんまの格好だ。

真「採点方法は俺と小夜は各5点、暁は特別に10点で評価する!
  最後に暁から一言感想を述べてもらうぜ!
  そして最も得点が高かった一人は暁のケーキと・・・。」
暁「までなら喜んで受けよう。が!」

 次に言う真の言葉を止めようと俺は真に掴みかかろうとした。だがその行動よりも先に動いた者がいた。

小夜「おっと、さ、続けて~。」
暁「き、岸田!?」

 俺の行動を抑えるべく岸田が俺の肩を思いっきり押さえる。

真「暁のお姫様抱っこ権を贈呈する!」
暁(組みやがったな・・・こいつら・・・・。)

 俺の心は悔しさと力の無さで埋め尽くされた。

真「さて、それではまずは恵奈のケーキから!」
恵奈「は~い!」

 恵奈が白い箱を持ってくる。

恵奈「じゃ~ん!」

 箱を開けると、中にはいかにも女の子らしい可愛いデコレーションが施されたチョコレートケーキが置いてあった。
 恵奈はそれを6等分して1人ずつに配る。メリークリスマスと書かれた板チョコの部分は俺の一切れに置かれた。

恵奈「さ、食べて食べて!」
暁「おう、いただきます。」

 フォークを手に取り、本当にケーキ屋に並んでそうなチョコケーキを一口食べた。

真「甘~い!!」
小夜「ほんと、女の子にはたまらない甘さだね!」
結衣「うん、そうだね!」
輝咲「・・・・すごいなぁ・・・。」

 全部食べ終わった後で、真がまた何処から用意したか分からない点数が表記されたプラカードを渡した。

真「さ、それでは点数・・・・ドン!」

 真は4点、岸田は3点、俺は7点の札を上げた。

真「合計14点!さ、鳳覇審査委員長、感想を!」

 真が俺に感想用のマイクを向けてきた。事前の打ち合わせで俺は全部食べるまで感想を一言も言うなとされている。
捕捉だが、もちろんこの人数なのでマイクには電源は入っていなかった。
 恵奈は天に祈るような仕草で俺の感想を待っている。

暁「チョコレートケーキという基盤にお菓子のデコレートがマッチしてる。
  生クリームのケーキだとお菓子の味とで打ち消しあってしまう、でもソレを上手く回避した作戦。
  クリームに砕いて入れたビスケットがクリーム独特の食感を飽きさせなくしてるね。」
恵奈「やったぁっ!!」

 よくこの歳で思いつく方法だと俺は素直に関心した。俺も今度作ってみたかった。

結衣「それじゃ、次は私だね。」

 鈴山も白い箱を持ってきた。空けるとフルーツが盛り付けられたケーキが置かれていた。

結衣「ど~ぞっ。」

 慣れた手つきで6等分して配る。

真「フルーティーッ!!」
小夜「うぅ~ん、大人の味って感じ!」
恵奈「中にもフルーツだ!」
輝咲「・・・・す、すごい・・・・。」

 2つ目のケーキと言うのに恵奈が作ったのと全然別の味ですんなりと口に入っていった。
それにしても、食べながら感想を言えないのがなんとも歯がゆい。

真「さ、それでは点数・・・ドン!」

 真は5点、岸田は4点、俺は8点の札を出した。

真「合計なんと17点!さ、審査委員長!感想を!」

 いい加減このノリに慣れてしまった自分が何となく嫌になった。
 結衣は少し余裕を見せた笑顔で感想を待っている。

暁「フルーツの甘酸っぱさがクリームの甘さを抑えてちょうどいいハーモニーを奏でてる。
  それを踏まえてのクリームを砂糖多めにして甘すぎにしたところが味噌かな。
  生地にはフルーツ缶詰で余った汁を吸わせて生地本体にも手を加えてるとこが評価高かったかな。」
結衣「あっ、分かっちゃったかな?」

 伊達に一人暮らしで料理をしてるわけではないので、隠し味のつけ方というのは料理をする上で一番楽しい。
だが本当に楽しいのはその隠し味を見つけることだ、と誰かが言っていたような気がする。

真「さ、次は輝咲ちゃんの番だぜっ!」
輝咲「は、はい・・・・。」

 困った表情で白い箱を持ってくる。なにやら怪しい空気が漂った。箱を空けると、ケーキとは一丸に言いにくい物が置いてあった。
まず問題なのは色だ、何を入れたのか黒く染まっている。ケーキ上の苺が今すぐここから逃げ出したいと語りかけてくる。
 6等分しようとケーキにナイフを入れると、バキバキっと怪しい音がした。

輝咲「ど、どうぞ・・・。」

 恐る恐る配る輝咲、そして同じく恐る恐る受け取る皆。

真「ぐっ・・・・。」
小夜「んっ・・・・。」
恵奈「ぶっ・・・・。」
結衣「うっ・・・・。」

 一口入れた後から皆の顔が暗くなった。真に限っては倒れている。
 輝咲自信も自分で食べてかなり暗くなった。

暁「・・・・な、なぁ輝咲・・・。」
輝咲「は、はい・・・・。」

 俺のフォークを握った手が震えた。体が拒絶反応を起こしている。

暁「最低でもさ・・・・砂糖と塩間違えるのだけはやめようぜ・・・・。」
輝咲「ご、ごめんなさい・・・。」

 その言葉を最後に、俺の意識はどんどん遠のいていった。
 そういえば、感想を言い忘れていた事を気絶した中で俺は思っていた。一つ言うならば、今までに味わったことの無い新しい味だった。


 -12/24 PM06:32 同所-

暁「うっ・・・・・。」

 ようやく頭が回りだした、まだ口の中に塩のしょっぱさが残っている。

輝咲「あ、暁君・・・大丈夫・・・?」
暁「あぁ・・・・なん・・・とか。」

 体を半分起こしてみるが、皆もばったり倒れていた。

輝咲「その・・・ほんとにごめんなさい・・・。」
暁「ま、まぁ失敗は成功のもとって言うし・・・そこまで気ぃ落すなよ。」

 必死に励ましの言葉を頭で探した。

暁「あ、そうだ。」

 俺は冷蔵庫に入れていた自分のケーキを取り出した。それだけではなく、俺は冷凍庫に入れていたケーキのパーツも取り出した。
箱を開けて、ケーキの間に冷凍庫の中に入れていた円盤状の苺アイスを挟んだ。それを6等分にして、一切れを輝咲に渡した。

暁「ほら、特製暁オリジナルだ。」
輝咲「私に・・・?」

 俺は黙って頷いた。何と言うか、優勝者だけに作るケーキなんてのは作りたくなかった。
料理は競うものじゃない。仮に競うとするならばそれは味ではない。
その料理に対してどれだけ想いを込めて作れるかを競うものだと俺は思う。
勿論それは味に現れるわけではなく、心で感じとるものだ。

輝咲「でも、私優勝してないし・・・。」
暁「そんな優勝云々は関係ねぇよ、一人だけのためっていうので料理は作りたくないし。」

 そういいながら、俺は残りのケーキを皆の皿にのせる作業をした。

暁「とにかく食ってみろって。」

 促すと、輝咲はフォークで切って、一切れを口に運んだ。

輝咲「おいしい!」
暁「人に作るときは、その言葉が聞きたいから作るんだ、勝負事は忘れてな。
  ほら、真!起きろ~!」
真「ん・・・うぉっ!暁のケーキ!」

 あまりの真の声の大きさに、他の3人も起きだした。

恵奈「うわぁっ!これ暁お兄ちゃんの!?」
結衣「すっごーい!」
暁「中は苺アイスだから早めに食えよ~。って・・・。」

 そうは言ったものの、既に皆食べ初めて絶賛の声を上げていた。


 -PM06:48 同所-

真「ふぅ~、食った食った!」
小夜「で、誰を抱っこするのかなぁ?」

 真と小夜がニヤけた顔を隠しもしないで俺を見てくる。

暁「そ~だな・・・あ。」

 適当な言い訳をして家に戻るつもりだったが、俺は窓の外を指差していた。

輝咲「雪・・・。」
小夜「綺麗だね~!」

 窓側に集まり、外を眺めた。今年初雪がクリスマスイヴに降るとは、世の中悪いことだけじゃない。

真「この量だと、明日は雪合戦だな!」
恵奈「あ、それいいね!」
暁「この量で雪合戦は厳しくないか?」

 パラパラと降る雪に、俺たちはそれを初めて見るかのようにはしゃいでいた。


 -同刻 福岡県某マンション 夜城家-

レイナ「あ、レドナ君見て見て!」
レドナ「どうした?」

 嬉しそうに呼ぶ声に答え、レイナの部屋に入った。

レイナ「ほら、雪!」

 窓から見える雪にレイナははしゃいでいた。あまり外に出れないレイナにとって雪は見るだけの存在だ。

レドナ「珍しいな、今年は初だっけ。」
レイナ「うん!ねぇ・・・外にでちゃ・・・ダメかな?」

 体の弱いレイナをさすがにこの寒さで外に出させるのは危険だろう。でもレイナの喜ぶ顔が見たいのもあった。

レドナ「ベランダに出るだけならいいよ。」
レイナ「ほんとに!?」
レドナ「あぁ、5分だけだぞ。」

 俺はベッドで横になっているレイナを負ぶってして、ベランダまで行った。窓を開けると、外からの冷たい風が肌を突き刺した。
見るとベランダの手すりにはもう若干雪が積もっていた。

レイナ「雪触るのなんて、何年ぶりだろ・・・。」

 まるで小さい子供のようにレイナは掌にのせた雪の冷たさを感じていた。

レドナ「覚えてるか?俺らが小学生の時に初めて雪合戦した時のこと。」
レイナ「もちろんだよ!2人ともびしょ濡れになって風邪引いちゃって、お母さんに怒られたよね。」
レドナ「そうそう、あれ以来雪で遊ぶのが嫌になったんだよな。」

 変な話しだが、俺は幼い頃から雪は観賞用にあるものだと思っていた。

レイナ「でも小4の頃までは雪だるま作ったりとか、家の前の坂で木の板に乗って滑って遊んでなかったっけ?」
レドナ「あれは雪を応用して遊んだだけだって、それに誘ったのはレイナじゃないか。」
レイナ「あれ?そうだっけ。」
レドナ「そうだよ。」

 急にあの頃に戻りたくなった。きっと背中に抱きついているレイナも同じ事を思っているだろう。
でも、もう少しすれば俺はレイナのための世界を作れる。
 レイナが望む世界、そのために俺は今を生きている。

レイナ「ねぇ、レドナ君は寂しくない?」
レドナ「親父と御袋の事か・・・?」
レイナ「うん。」

 過去の道は一つだ、それを捻じ曲げることはできない。

レドナ「もう慣れた・・・かな、レイナはどうなんだ?」
レイナ「私もそうかな。でもね、私はお母さん達が死んでもレドナ君は生き残ってくれてよかったって思ってるんだ。」

 俺にしがみ付く腕に力が入っていった。

レイナ「もちろん家族4人でいつまでも暮らせたらなぁって思ってたけど、そうはいかないのは分かってた。
    でももし離れ離れになるとしてもレドナ君とだけはずっと一緒に居たいって思ってた。」
レドナ「俺も、多分同じ気持ちだとおもう。レイナが居なくちゃ、今の俺は無いと思う。
    ありがとう、レイナ。」
レイナ「えへへっ、なんだか恥ずかしいよぉ。
    私こそ、ありがとっ、レドナ君。」

 過去の道は一つと言ったが、未来は見渡しても足りないほどの道がある。俺はその道のどれかを進む権利を持っている。
俺の進む道の先を、今は知りたくなかった。
 ただ、この今がずっとあってほしいと思った。


 -12/25 AM01:25 鳳覇家-

 皆が寝静まった中、俺の部屋で寝ている真のいびきに耐えかねて、俺はリビングに居た。
このままソファーの上で寝ようかと思っていたとき、女子陣が寝ている部屋のドアがゆっくり開いた。

暁「まだ起きてたのか?」
輝咲「何だか眠れなくて。
   こんなに楽しい日は久しぶりだったから、まだ興奮が冷めてないのかも。」

 机の上に無造作に置かれたボードゲームや、コントローラーが散乱したゲームを見ながら輝咲が言った。

輝咲「隣いい?」
暁「あぁ。」

 輝咲が俺の隣に座った。パジャマ姿の輝咲は普段の大人びた様相を打ち消し、子供らしさを見せていた。

輝咲「一つ訊きたい事があるんだけど・・・。」
暁「?」
輝咲「サンタって本当にプレゼントを皆に配るほどの財力はあるのかな?」

 思いがけない輝咲の発言に俺は笑いを堪えた。どうやら本気で信じているようだった。

暁「う~ん、財力があるかどうかは知らないけど・・・。輝咲の世界にも、サンタっているのか?」
輝咲「ううん、今日初めて恵奈ちゃんと結衣さんから聞かせてもらったんだ。
   クリスマスの日だけに現れる赤い服来たおじさんだって。空飛ぶトナカイも持ってるんですよね?」

 何十年も立つと、こういう伝統なんかも廃っていくのだろう。俺は時の残酷さを痛感していた。

暁「あぁ、子供に夢を与えてくれる、最も身近に居る存在さ。」

 さすがに純粋に信じようとしている輝咲に、サンタは親だとは言えなかった。それに輝咲は親が居ないと言っていたのもある。

輝咲「何だか、不思議な人だね。私も会ってみたいなぁ・・・。」
暁「きっと会えるさ、サンタは夢を壊す悪いやつじゃないからな。」

 そうとは言っても、サンタが親という真実は夢をぶち壊している矛盾があるが。

暁「もし悪いようなヤツなら、俺がアルファードでボコボコに叩きのめしてやるよ。」
輝咲「ふふっ、それじゃあ暁君が悪者みたいだよ。」

 俺と輝咲は皆を起こさぬように小声で笑った。

輝咲「暁君・・・これからも、一緒に頑張ろうね!」
暁「あぁ、もちろんさ。」

 俺の戦う理由、それは皆を守るため。輝咲も真も皆も、絶対に俺が守りぬく。そのためのドライヴァーだ。
俺は改めてドライヴァーになった自分を誇りに思った。


 -同刻 ARS特別調査基地-

 日本列島、太平洋の小島に存在する小さな調査基地があった。基地にはレーダーが何基も回っている。
基地内部は薄暗く、通信機器のランプが明滅を繰り返していた。

隊員A「隊長!こ、これを見てください!」

 軍服を着た隊員が、モニターに何かを発見し、隊長を呼んだ。50代の男性がモニターに駆け寄る。
衛星から見た北極の現在の様子が映し出されている。

隊長「どうした?」
隊員A「北極大陸の一部の氷山が異常な動きをしています。」

 隊員はその部分を指差した。その氷の塊は若干ではあるがUFOのような動きを見せていた。
明らかに自然の動きではない。

隊長「まさか、ここが・・・。
   すぐにARS本部に連絡するぞ!」
隊員A「了解!」


 -同刻 北極大陸 氷山基地内部-

エルゼ「本当にいいのか、仮にもお前の相手は以前の親友だぞ?」
???「構わないです、僕は彼を親友だとは思っていません。
    ただの最低な裏切り者です。」

 力のこもった返答をする少年の拳は、硬く握られていた。

エルゼ「それじゃあ、ここは頼んだぞ遠山 真一郎。」
真一郎「はい。」

 エルゼの言葉を聞くと、真一郎は反対側に置かれてある機人を見上げた。
暗くてよく分からないが、灰色のボディーはエインヘイトに似ていた。

真一郎「鳳覇 暁・・・。僕らを見捨てた、最低な人間・・・・。」


EP09 END


© Rakuten Group, Inc.