2011/08/18(木)21:07
宮下奈都「遠くの声に耳を澄ませて」
「アンデスの声」「転がる小石」「どこにでも猫がいる」「秋の転校生」「うなぎを追いかけた男」「部屋から始まった」「初めての雪」「足の速いおじさん」「クックブックの五日間」「ミルクティー」「白い足袋」「夕焼けの犬」の十二作品収録。
アンソロジー「コイノカオリ」に収録されていた「日をつなぐ」を読んで一目惚れならず、一読惚れしてしまったこの作者。
読むのが楽しみでしかたなかった作品です。
この作品は短編集なのですが、読み進めていくと、どうも各作品がうっすらと他の作品と繋がっていることに気付くと思います。各作品がとてもゆるい繋がりを持った連作短編のようです。
とはいえ各作品一つ一つがしっかりと描かれているので、短編として読んでもなんら支障はないのですが、どの作品の何処と繋がっているのか探しながら読み進めてゆくのも作品のおまけ的要素として楽しめるかと思います。
さて、全体的な印象としては、心と体が元気になる栄養たっぷりな作品だったと思いました。
読んでいると、まるで食材をじっくり煮込んだスープや新鮮な果物で作ったスムージーを食したかのように体の隅々にまで栄養が行き届いていくような気がしました。
それにしても、この作者の魅力は、何気ない日常を静謐な文章で丁寧に綴っているところだと思います。
この作品でもその魅力は遺憾なく発揮され、一作一作、短いながらも十分読み応えのある作品になっています。
ふとした日常をこんなに慈しんで描くことが出来る作者に脱帽です。
ただ、個人的に贅沢を言ってしまえば、作品が全体的に少々お行儀良すぎる方に偏り過ぎていたように感じました。
まあ、この作品は雑誌に連載していたらしいので、作品の内容に縛りがあったためなのかもしれませんが、各作品に登場する主人公がほとんどロハスやスローフードをリスペクトの人ばかりなのには、どうしても違和感を持ってしまいます。
せっかくの連作短編なのだから同じホーム側の人ばかりではなくアウェー側な主人公、例えば添加物でファーストフード的な人を主人公として描いた作品も読んでみたかったです。
とはいえ、まとめて読むのがもったいないくらい、上品で上質な作品です。
読むと元気が出てくる、心に美味しい作品です。