2015/11/07(土)19:27
働く人のメンタルヘルス(1) 誰にでも発症する可能性
働く人のメンタルヘルス(1) 誰にでも発症する可能性
代々木病院・精神科科長 天笠 崇
私が勤務する代々木病院では、今年の春、「労働精神科外来」をスタートさせました。
メンタル不全をもたらす要因はさまざまです。しかし、患者さんの病気を診ていると、3人のうち2人は職場に原因があるとみられます。そうした患者さんを受け入れたい―。
これが全国でも珍しい専門外来を新設した理由です。
右肩上がりに
日本では近年、メンタルヘルス(心の健康)と関連した労働災害が急増しています。
2000~14年度を比較すると、精神障害の労災申請件数で約7倍、認定件数で約14倍になり、右肩上がりです。そのうち自殺は、申請で2倍、認定で5倍程度の増加です。(グラフ)
この労災統計は氷山の一角です。統計と実態の隔たりは大きく、労災申請のハードルがまだ相当に高いのが実態把握の障害になっていると、私は思います。
いじめが1位
労働精神科外来が目指しているのは、患者さんはもちろん、勤める会社にとっても役に立つ「ウィン・ウィン」の解決の道筋を見いだしていくことです。「働くもののいのちと健康を守る東京センター」や過労死弁護団ともタッグを組んでいます。
患者さんたちを診ていると、「長時間・過重労働」「ハラスメント(嫌がらせ)」「努力の報われない仕事」が広く深くまん延していることが分かります。
これらが職場のメンタル不全の原因のほぼ9割をカバーするのではないでしょうか。
都道府県労働局などの総合労働相談コーナーに寄せられる相談では、12年度には「いじめ・嫌がらせ」が相談内容のトップになりました。新しい労働ストレスとしてはびこっていることを実感します。
職場は戦場といってもよく、対処法を身に付けてうまく立ち回らないと、誰でもがメンタルの不調に陥りかねない時代です。そうした時代を生きる上で、役立つ情報を紹介していきます。
“パワハラ”が原因
労働精神科外来に来院された50代のAさんは、大手企業のSE(システムエンジニア)。診断はうつ病でした。
会社で2回目の「業績改善プログラム(PIP)」を受ける直前に、出勤できなくなったとのこと。1回目のPIPの内容を思い出すにつけ夜眠れなくなり、うつ病を発症したようでした。
過度なノルマを課して達成度評価の面談を繰り返し、未達成を確認し指摘することがPIPの目的です。労働者自ら退職しない限り延々と続きます。実態は、上司のいじめ、嫌がらせでしょう。近年、こうした“パワハラ”がらみの患者さんが増えています。
「しんぶん赤旗」日曜版 2015年10月18日付掲載
仕事が過密になる昨今。だれでも精神障害を発生する可能性はあります。
個人のストレス発散の限界を超えた過密労働は是正すべきです。