2016/01/07(木)19:56
チンパンジーを追って50年(3) 絶滅の危機から守る
チンパンジーを追って50年(3) 絶滅の危機から守る
タンザニア・マハレの森で日本の調査隊
アフリカ・タンザニアのマパレにすむチンパンジーが見せるさまざまな行動は、半世紀にわたって研究者の目を引き付けてきました。その成果をどう活かすかが、今後の重要な課題の一つになっているといいます。
京都大学野生動物研究センターの中村美知夫准教授たちは、1972年から2012年までの41年間に16歳になる前に母親を失った雄のチンパンジー37頭のその後の記録を追いました。その結果、約7割に当たる26頭が孤児になった年齢の期待寿命(母親が生きている雄のチンパンジーも含めた年齢ごとの平均余命)まで生きられませんでした。
チンパンジーのおとなの雄
母親の役割重要
授乳期だけでなく、子ども期から青年期にかけての雄のチンパンジーに母親が重要な役割を果たしていることを示すもので、ヒトの親子関係の進化を探る上でも重要な知見だといいます。中村さんは「ほかにも、1年、2年で見ているのではわからないことがわかってくると期待している」と話します。
チンパンジーは今、アフリカ全域で急激に減少し、絶滅が心配されています。生息地の破壊や狩猟などが主な原因です。
マハレの研究者が中心になって設立した「マハレ野生動物保護協会」は、今ではチンパンジーをはじめとしたマハレの野生動物を見る機会もなくなっている地元の人々に、かつて祖先が培ってきた伝統的知識を伝える活動に取り組んでいます。
中村さんは「地元の人たちが自然に対する豊かな知識を築いてきた自分たちの文化に誇りを持つことで、多様な生き物たちが暮らしている状況を今後も守っていきたいと考えるようになることが大切だと思う」と指摘します。
マハレでは観光客との接触が原因とみられる病気で多数のチンパンジーが死ぬ例が何度か起こっています。マハレ野生動物保護協会が呼びかけて、観光客にマスクをしてもらう取り組みが定着しています。
データで示して
中村さんは「これから50年先、チンパンジーそのものがいなくなってしまう危険性がある。私たちがこうすればチンパンジーを守っていけるということをきちんとデータとして示していくことも大切だと考えている」と語っています。
【日本の“サル”学】
日本で“サル”の研究が始まったのは1948年でした。京都大学の無給講師だった今西錦司博士(後に京大名誉教授)が伊谷純一郎さん(同)たち2人の学生とともに宮崎県の幸島でニホンザルの群れの調査を始めたのです。
その後、全国各地で調査が行われ、ニホンザルの群れをつくる個体間には順位があることなど、今では広く知られるようになった事実が初めて明らかになりました。幸島のサルがイモを洗って食べることもこの研究の中で発見され、世界を驚かせました。
日本のチンパンジー研究は、その成果の上にたって始まりました。アフリカ各地で数年間調査を行い、マハレに派遣されたのが、今西さんと伊谷さんの研究室の大学院生だった西田利貞さんでした。
(間宮利夫)(写真は中村さん提供、おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年1月5日付掲載
日本のサルの研究は意外と新しいのですね。
それでも、これだけの研究と発見があるってすごい事。
これからは、研究だけでなくて、チンパンジーなどを絶滅から守る取り組みも求められます。