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テーマ:言葉の魅力(70)
カテゴリ:知って役立つシリーズ
村上信夫のことば磨き⑦ 「沈黙」が想いを引きだす
聴くためには聴かないことだ。前回、全身で聴くことを強調した舌の根も乾かぬうちに、この人は、何をわけのわからないことを言いだすのかと思わず、最後まで読んでみてほしい。 相手の話を聞き逃していることが、いかに多いことか。聴いているようで聴いていないのだ。 失敗のはずが… ボクも新人の頃、アナウンサーは質問するのが使命とばかり、事前に質問項目を必要以上に用意し、自分の質問ばかりに気をとられて、相手の答えなど耳に入っていなかった。 ところが、ある時、目からウロコが落ちるようなことがあった。ゲストは言語治療士として、長年活躍している木内哲子さん。最初に予定していた質問をしたものの、湯水の如くことばが出てくる木内さんに、15分間の番組中、ひとことも口を挟むことができなかったのだ。 アナウンサーとしては失格だと落ち込んでいたら、担当ディレクターからは「おまえが下手な質問しないのがよかった」と変な褒められ方をした。ゲストの木内さんも「きょうは思いっきり話せた」と上機嫌。 そうなのか!これまで聴こう聴こうとしていたが、聴かないことも聴くことなのだと目が覚める思いがした。コを聴いて十を知ればいい」と悟った。もちろん「一を聴いて十を知った」気になってはいけないと肝に銘じながら、その後も相手にスイッチが入ったら、邪魔をせず、ひたすら聴くことにしている。 ひたすら待って 緩和ケアというと、がん末期の、いわゆるターミナルケアを思いがちだが、医療そのものが、患者の痛みや辛さを緩和するのが目的なのだから、ある意味、医療の原点と言える。 緩和医療一筋に歩んできた素晴らしい人格の医師がいる。大津秀一さんは、日本では極めて珍しい「早期緩和ケアクリニック」を開いている。 大津さんが、緩和ケアで重視しているのが「沈黙」だ。「沈黙」が、相手の多弁を誘発することのほうが多い。ひたすら聴くことに徹する。問いかけに対して明確な答えが出てこなくても気にしない。 優しくしすぎない。同情しすぎない。気休めを言わない。相手の絶望に完全に寄り添うのは難しいという意識を持つことが、言動に表れる。「お気持ちはわかります」のような生半可なことばは出てこなくなる。中途半端な励ましは意味をなさない。自分にしか自分は救えないと、沈黙が相手に気づきを与える。 黙って相手が話したくなるのをひたすら待つ。ただし傾聴するとき、必要以上に深刻にならないことだ。かといって必要以上に明るくならないことだ。 横に並んで座り、相手に少し身体を傾けるようにする。自分の意見は差し挟まず、相手のことばを反復するようにする。「いたいですね」「つらいですね」「しんどいですね」…気持ちを支えることばが大事。 本気で聴いてくれている人には、本気で話してくれる。うわべだけのことばではなく、表情や口調も含め、まさに全身で聴くのだ。 元NHKエグゼクティプアナウンサー 「しんぶん赤旗」日曜版 2020年11月1日付掲載 こちらから話しかけて、相手の言葉を引きだすのも一つだが…。 逆に、あまり語らずに、相手に思いの丈を語らせるのも一つ。 メンタルケア、緩和ケアでも同様の心構えが必要だということ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020年11月02日 08時08分20秒
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