■レビュー内容
「…王には…天啓がなかったのです」
麒麟がどうやって王を選ぶのか、どうやって使令を下すのかなど、解説が必要なところを何も知らない麒麟に教えるという方法で違和感なく説明する。麒麟にはあるはずがない過ちをしてしまったと悩むところなんか、物語の構成力でしょうか、面白かった。
■あらすじ【ネタバレ注意】■
夏至が過ぎ、甫渡宮の周りには忽然と街が現れる。蓬蘆宮の端の門が開けられ、泰麒は甫渡宮に入り御簾が下ろされる。昇山者はかわるがわる甫渡宮に進香に入ってくるのだった。初めのうちは、様々な格好の人々に興味津々だった泰麒だったが、二日もすると飽きてしまい、街へ散策へ出る。羽根のある大きな犬を見つけた泰麒に、天犬という妖獣で名を飛燕というのだと、大柄の女性が教えてくれた。女性は、州師将軍の李斎と名乗る。飛燕を気に入った泰麒は、李斎に再訪を約す。しばらくすると、喧嘩に遭遇する。その場を収めた偉丈夫が、禁軍将軍の驍宗と名乗る。泰麒は驍宗の赤い燃えるような目に恐怖を感じるのだった。
毎日のように李斎のもとを訪れるようになった泰麒は、李斎を伴って散策を始めると、今度は大きな虎に出会う。李斎は騶虞だと言い、周りの者に主を尋ねると、先日の驍宗が現れる。やはり恐怖を覚える泰麒だったが、驍宗が柔和な表情を見せるにつれ慣れていった。その日から、泰麒は李斎と驍宗のもとへ通うようになるのだった。
驍宗に王気がないのなら今回の昇山者の中には王はいないということになり、女仙らは甫渡宮の扉を閉めるのだった。そんな折、泰麒は驍宗と李斎の騶虞狩りについて行くことに。当日早朝、二人は女仙からきつく注意を受ける。そのことを泰麒は、自分が転変もできず使令も持たない身だからだと謝罪するのだった。騶虞狩りの罠を仕掛け終わると李斎が洞窟を見つけてくる。三人は中に入るのだが、泰麒は獣の本能から危険だと悟り、二人に出るよう促すのだが、李斎が何者かに洞窟の奥に引き込まれてしまい、驍宗も後を追う。泰麒は止めようとする汕子の手を振り切り、後を追うとそこには伝説の妖魔饕餮がいた。饕餮の攻撃にさらされた二人を助けようと、泰麒は折伏の態勢に入る。饕餮が動きを止めている間に、汕子に李斎を救出させ驍宗に逃げるように言うのだが、驍宗は動けないというのだった。驍宗を助けるには饕餮を使令に下すしかないと、強い意志でにらみ合い使令に下すのだった。驍宗は泰麒を連れ蓬蘆宮へ帰還する。
李斎の傷も癒え下山の期限が迫っていた。そんな中、驍宗が泰麒のもとに下山の挨拶にやってくる。驍宗が蓬山を下ったその夜、泰麒はいてもたってもいられなくなり、汕子と傲濫の手を逃れ麒麟に転変し、驍宗のもとへ行き、誓約を誓う。この日から、泰麒は偽りの誓約をしたと思い悩むことになるのだった。
驍宗と泰麒は、蓬山の頂上で天勅を受け戴国の白圭宮へ下る。驍宗は自身の即位式と政務に忙殺されるのだが、泰麒の気鬱が気になり、景麒を招く。景麒は泰麒の身を案じると、泰麒は驍宗との誓約が偽りで王気も天啓もなかったというのだった。景麒はその言葉に驚くのだった。
二日後、景麒が延王と延麒をともない再訪する。延王を前に驍宗は泰麒に叩頭礼を促すのだが、意に反し頭が下がらない。延王の叱責もあり顔面蒼白、額に汗しても体が動かなかった。そんな泰麒に景麒と延麒が駆け寄りこれで分かったでしょうというのだった。椅子に座らされ泰麒に、景麒は王気も天啓も目に見えたり何かが起こったりするものではないと言い説明不足を謝罪するのだった。その言葉に泰麒は全てを理解し、元の笑顔が戻るのだたった。