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さて、「英国留学回想録」です。
今日は「勉強の苦悩と喜びと」第5回。 「この仕事は手放さない。」 (2001年2月上旬) 冬学期は3つの科目を受講していた。 そのうち2つのことは既に紹介した。 1つはソフィア・デラ=ロッサ博士の「統計学」。 もう1つはピート・ベンサム博士の「質的分析」。 そして今日は残り1つの科目について書きたい。 それはヘーゼル・ハリー教授の 「政治哲学」。 ハリー教授の授業は秋学期にも受講した。 そう、ハリー教授とは 秋学期に社会科学の諸理論を学ぶ授業で、 毎週毎週100ページ以上の本を学生1人1冊担当させて、 それを読んで内容を要約して、 更に自分の意見も入れてプレゼンさせるという 実に重い課題を学生に課した先生である。 その先生の授業を懲りもせず また取ってしまった。(苦笑) いや、懲りもせずってのは正しくない。 なぜなら授業の登録は、 秋学期の始めに冬学期の授業も含めて 1年分の登録全てを行うからだ。 つまり、懲りもせず取ったわけではなく、 元々取ることが決まっていたわけだから。 仕方がない。 今更逃げられんわけだから。。。(苦笑) まあ、でもね。 授業ってのはいろんな選択ができるわけだけど、 結局ね、私は自分が学びたいと思う授業を選択した。 そりゃ、N子さんとかU美子とかね、 授業選択の際にいろいろ言ってましたよ。 「あの先生は課題をたくさん出して大変らしい。」 「この先生はエッセイの評価が辛いらしい。」 要は日本的に言うと、 楽勝科目を探して外国人のコースメートも交えて 一生懸命情報交換していたわけだ。 このへんの光景は英国の大学も 基本的に日本の大学とあまり変わらないわけだが、 私は楽勝がどーのこーのとか 関係ねえよと思っていた。 いや、別にかっこつけたわけではない。 私は英語が読む書く聞く話す全部できないのだから、 楽勝科目だろうがなかろうが、 どっちにしても苦しむだろうから、 関係ねえやと思っただけであった。(苦笑) それで、コースガイドをみて、 おもしろそうだ、勉強してみたいと思った科目を 素直に選択したわけだ。 結果は悲惨だったけど。(苦笑) これまで書いてきた通り、 毎週のプレゼンは涙、涙だったし、 Meme(ミーム)のエッセイは ご存知の通り悪戦苦闘の極地であった。 それで、そのハリー教授の授業を 再び取ったわけだが、 前学期の経験をバッチリ生かした、 わけではない。。。。 前より悲惨だったのだ。(涙) 秋学期の授業は、 哲学科の学生と合同で 全員で15人くらいいたのだ。 今回は、ハリー教授の狭い研究室で、 学生わずか5人の授業だった。 不謹慎な言い方で申し訳ないが、 これでは、逃げようがない。。。(再び涙) 100-150ページくらいの本の1,2章を読んで、 紙1枚にまとめてプレゼンするのは同じでも、 人数が少ないと、そのプレゼンに対して あーでもない、こーでもないと議論する時間が 圧倒的に長くなる。。。。 途中議論がわからなくなって、 黙っていたくても、5人だと ハリー教授からすぐに 「かみぽこ。あなたはどう思う?」 と聞かれる。 またこのハリー教授という方、 前に書いたように世界的大哲学者なわけだが、 とても純粋な方であって、 私に問いかけた後、 じっと私の目を見ながらにこやかに、 私が何か答えるのを待っている。 なんかその目がキラキラしているのだ。 「ああ、発言を求められませんように」 などと考えてうつむき加減になっていることが ものすごく恥ずかしくなって その場を逃げ出したくなるような 「学問に対する純粋な愛」 を感じさせるハリー教授の目であった。 私があ~、とか、う~、とか 言いながら、なんとかかんとか発言し終わるまで、 教授は私から視線を逸らすことなく うなづきながら聞いてくれて、 その上、私の発言がどんなにくだらなくても、 必ずそこから1ついいところを拾い上げてくれて、 他の学生の発言につなげてくれた。 そんなハリー教授のすばらしさが、 ますます私を恥ずかしくさせた。 まあ、とほほな時間ではあったのだが、 この少人数の授業は 私にとって悪いことばかりではなかった。 なにより、授業で発言の機会が 確実に得られたことは大きかった。 これまではあ~、とか、う~、とか 言った瞬間に発言の機会を失った。 それ以前に、人数が多いクラスでは、 黙っていればそれで終ることがほとんどだった。 それがわずか5人のクラスでは、 黙ってるわけには行かない。 そうなると授業中は必死に 頭を働かせ続けることになる。 その時は本当に苦しい時間だったのだけれど、 後から考えるとこれは本当に有意義だった。 知的体力を付ける作業というかね。 こういう苦しい時間が 自分を少しずつ変えていったのだと思う。 まあ、これまでこの章では、 冬学期になっても相も変わらず 授業にはなかなかついていけなかったことを 書いてきた。 苦悩の日々が続いていた。 なんとかしようともがいていた。 毎日毎日、1日中政治のことを考えていた。 政治のことを、政治のことを考えていた。 政治のことを、1日中。。。。 ある日の夜、 芸術会館のカフェも閉店した後、 図書館に移動して勉強を続けていた。 その図書館も閉館した午前0時。 勉強を終えて寮に帰る前に 図書館の外で1本タバコを吸った。 吸いながら、ふと思った。 (しんどいよなあ。。。) 夜空を見上げながら、思った。 でも、同時にこう思った。 (でも、楽しいよな。。。) 毎日毎日、1日中政治のことを考えている。 確かに精神的・肉体的にキツイ。 でも、それが何ヶ月も続いているのに、 決して嫌になることがない。 やめたくなることがない。 自分は政治のことを考えるのが 本当に好きなのだと気づいた。 その頃はまだ、 PhDに進んで研究者を目指そうなんて 全く思ってなかった。 一度大失敗してるだけに、 議員になるのも不可能に近いと思っていた。 でも、何らかの形で 「政治に関わる仕事」をしたいと思った。 これこそが自分が本当に 心からやりたい仕事なのだと気づいたから。 「この仕事は手放さない。」 勉強の苦悩は確かに深かったけれど、 自分が本当にやりたい仕事を見つけた喜びが 自分を支えていた。 まあ見つけるまで32年、 人よりずいぶんと回り道しちゃったのだけれどもね。(苦笑) 「勉強の苦悩と喜びと」はこれで完結です。 「英国留学回想録」は 来週から新しい章に入ります。 それでは、また。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年10月17日 22時22分56秒
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