〈キレた電球〉
〈キレた電球〉打ち合わせで、都心へ出たとき、小さなレストランで、チキンライスを食べました。ケチャップを炒めた、香ばしさがなんともいえません。昔懐かしい、洋食屋さんの味です。そのお店は、ちょっと分かりにくい、路地裏にありました。地味な建物の二階にあり、さらに、急階段を登らなければなりません。うっかりすると、足を踏み外しそうなので、片手を壁につきながら、気をつけてあがっていきました。お店は、ほぼ満員でした。立地的には、かなり条件の悪い場所です。おまけに、夕焼けのなかに、ネオンが点きはじめた、中途半端な時間帯です。それなのに、こんなに繁盛している。値段が特別安い、というわけでもないので、ちょっと、不思議になりました。それから、数ヶ月後。打ち合わせで、都心へ出たとき、また、その洋食屋さんに、行ってみることにしました。道路に面した、急階段の入り口を登ろうとすると、階段の電球が消えています。「急階段だし、でんきついてないし、なんだかなあ。他に行って、食べよかなあ」と、思ったとき、階段の入り口に、ハリガミを見つけました。ハリガミには、〈電球が急に切れてしまいました。お足下、ご注意ください。電球はキレていますが、お客様は○○ないでくださいね〉と、マジックで書いてありました。私は、この○○を読んだ途端、「あはははは、気に入った!よし、ここで食べよう」と、うきうきして、薄暗い、危険な階段をあがっていきました。〇〇に入る言葉がわかりますか?もし、あなたが、このお店のオーナーだったら、何と書きますか?じつは、こんなふうに書いてありました。〈電球が急に切れてしまいました。お足下、ご注意ください。電球はキレていますが、お客様はキレないでくださいね〉キレるどころか、逆に、ピンチをユーモアで乗り越えた、オーナーのセンスにうれしくなってしまいました。そして、この、お店が流行っていることが、うなずけたのでした。♪チャンチャン♪