桃源郷:来訪者 16
桃源郷:来訪者 16 ~菊花~ その日の夜、夕食を食べ、風が寝てしまってからのこと、 リンと通鷹と高時の三人で、守り刀のことについて 話していました。 「之光は、ずいぶん封印にこだわっていたわね」 「解放した時、自分の想いがお前らを巻き込むのではないかと 思っていたそうだ」 良いことばかりではないからと、ずいぶん不安がっていた之光の 様子を思い浮かべて高時は笑います。 「彼らしい」 ほんのりと微笑んで、通鷹は湯飲みに口をつけました。 自分と関わらなければ、おそらく平凡に陰陽道の仕事を していただろうと思います。 それでも彼に会えたことで、救われたものがありました。 「ところで、高時」 しんみりとした雰囲気を破って、リンは守り刀を 取り出しました。 鞘から刀を抜いて、手のひらほどの大きさの刃を見せました。 柄に近い刃には、菊の花の紋が彫ってあります。 「気づいたか」 「落ちついたからね」 リンの声が変わり、落ち着いた鍛冶師のものとなっていました。 「私の子孫が創ったものだ」 刀のエネルギーを読み取れば、誰がどんな想いをこめて 創ったのかがわかります。 刀にしては、珍しく、とても優しい穏やかな雰囲気を まとっていました。 「之光が、この刀に宿ったのは偶然ではなかったんですね」 「本人にも自覚はなかったようだ」 通鷹の言葉にうなづいて、高時は守り刀を手に取りました。 姫君を守らなければという想いから、自然とこの守り刀に 引き寄せられたのでしょう。 「困った方だ」 首を振ってリンは高時から刀を受け取り、鞘におさめると、 美しい絹の布袋に入れてくるくると紐で結びました。 それから、すっくと立つと、袋ごと床の間に置いてある 通鷹の剣の隣に置きます。 そうすると、剣と小刀が、まるで夫婦のようにみえて、 リンは思わず微笑んだのでした。 おわり**************************ご愛読ありがとうございました(^^)