過去世 三兄妹:『生き残り』
『生き残り』 少女の呟きが、雨音に交じって届く。ぽつりぽつりとこぼれでた言葉が、 瀕死の烏天狗の心の奥に届く。 心臓がどくんと跳ねて、体中に妙な感覚が走った。 口から、こぼれでてはこなかったが、最後に、 “次は、きっと助けて”という言葉が頭に響く。 「うん…必ず…」 朦朧とした意識の中で、もう動かない少女に返事をした。それきり、 烏天狗は、何も覚えていない。ただ、降りしきる雨の中で、意識を失った。 気がつくと、烏天狗は、森の中にいた。自分がいた古い森。 烏天狗の根城がある場所だった。この深い深い森の中に、人が、 足を踏み入れることは滅多にない。 清浄な空気に包まれていることに安堵する。目の前では、ちらちらと 森の精霊が揺れていた。 疲れきっていたので、もう一度目を閉じて、眠ろうとして気づいた。 「俺…生きてる…?」 確か、ひどい怪我をしたはずだ。なんとか、体を動かして起き上がる。 体中が鉛のように重たかった。 「あの娘…!」 一瞬にして、少女の存在を思い出し、動かない体に鞭を打って 翼を広げようとした。 「待て!お前が助けようとした人の子は、もう死んだ。」 頭上から降ってきた野太い声に驚いて、思わず振り仰ぐ。 「お前の翼は、折れているし、体も動かんだろう。」 「あんたは…」 「わしは、烏天狗の長だ。」 「おさ…」 自分とは、くらべものにならないほどの力を持った烏天狗が、 ばさりと降りてきた。 「あの、俺…」 「お前は、運が良かった。たまたま、わしが通りかかったからの。」 ついでに、そばで死んでいた二つの魂は、上に送っておいたという 長をじっとみる。 「あの…」 「今は休め」 長は、小さな烏天狗の頭に手を置いた。何かの術をかけたのか、烏天狗は、 膝から崩れ落ち、そのまま地面に倒れこむ。 ぐっすりと眠り込んでいた。 長は、烏天狗のそばにしゃがんで、そっと頭を撫でた。 「不思議な縁ができたものよ」 それだけ、呟いて、どこぞへと姿を消した。 終わり ひとまず、終了です。 次は、番外編を書いて、ハッピーエンドかな? まだ、書けてないから、書き始めないと~!