桃源郷:龍水湖 11
桃源郷:龍水湖 11 ~はじまり~部屋に入ると、大きなガラス張りの窓の向こうに、 大きく青く輝く地球が見えました。 青く、宝石のように輝く地球を赤々と燃える 太陽が明るく照らし、たくさんの星たちが見守っています。 そして、その地球を大切に慈しむかのように たくさんの宇宙船がとりまいているのがみえました。 どの宇宙船も、星も、優しいまなざしを地球に向けていることが わかります。 暗黒の中で輝く地球は、今まさに産声をあげようと しているかのようでした。 「綺麗…」 風とロウは、手をつないで新たな地球の誕生をじっと 見守っていました。 ふと、以前にもこんなことがあったような ひどく懐かしい感情におそわれました。 風は、少し背の高い少年をみあげます。 ロウは、少し背の低い少女の瞳をのぞきこむようにして 眺めます。 二人の瞳が交差して、何かが体の中を優しい風が 駆け抜けていきました。 愛しくて、切なくて、とても大切な何かが 胸の奥に浮かんでそのままふわりと消えていきます。 「お帰り、ルナ」 その言葉にうなづいて、ロウに抱きつきました。 「約束守ってくれて、ありがとう」 ロウは、そのまま少女を大切そうに抱きしめます。 それから、そっと額に口付けました。 「言っただろう?僕は、いつも君を守る」 「ええ、ロイ」 そのまま、二人は手をつないで目の前の 青く輝く地球に視線を向けます。 青く輝いていた地球は、金色の光に包まれて、 それはそれは、美しく輝いていました。 まるで、さなぎから羽化した蝶が羽ばたこうとするかのように。 大きく膨らんだつぼみが、花開くように。 古くなった今までのヴェールを脱ぎ捨てて、 大きく脱皮するかのように。 今まさに、たくさんの優しさに包まれて、 大きく光を放とうとしていました。 「私、もっと遊びたかったわ」 「勘弁してくれ」 ぽつりと呟く風に苦笑して、ロウはもう、離さないとばかりに 風を抱きしめました。 おわりご愛読ありがとうございました(^^)これにて、桃源郷のお話はおしまいです。やっと終着地点に辿りついたという想いと、やっとスタート地点に立ったという想いがあります。今日は立春。寒いですが、春の訪れを願って…。I wish 『明日への扉』川嶋あい