祠:異世界 9
祠:異世界 9 ~釣り~今日は、航が海釣りに行くというので、健人は一緒に連れてきてもらいました。朝早く、薄暗い時間帯に眠い目をこすりながら、仕度をします。「今日は、沖にいくのはやめておこう」「なんで?」はしゃぎすぎて、熱中症おこされたら困るからなと、笑う航の横で、ぶすくれた顔をします。穏やかに打ち寄せる波間の白い光を眺めながら、ぼんやりと風に吹かれるのは心地の良いものです。ゆらゆらと揺れる船の振動に身を任せていると、ゆりかごの中にいるような気がしました。「ねえ、おじさん。秋人さんって、僕と同じ“橘”って苗字だったんだね」「驚いたか?」釣り針に餌をつけて、ひょいっと海に投げ入れました。秋人の弟である、明寛に会ってみたいと言ったら、すぐに、紹介してくれました。姓を橘といい、橘グループの大きな病院の跡継ぎだったのです。健人の祖先は、昔、この島から駆け落ちをして、本土の中心地に居を移しました。両親は、さらに、東国の地へと婚姻の際に引っ越したので、島との接点はほとんどないといってもいいぐらいでした。健人の病気を機に、交流が復活したものの、健人には、あまりぴんときませんでした。何しろ、名も知らぬ、会ったこともない人たちの話です。「橘は、もともと薬師の家柄でね」秋人や明寛の祖父の代に、急成長したのだといいます。「なんか、不思議だね」「そうか?」船の縁に両手を添えて、海の底を覗き込むようにして、見つめます。(まるで、物語の世界みたい)何匹かの魚が、健人の目の前を泳ぎ去った時、釣竿が大きく動きました。「かかった!」「おじさん、しっかり!」大きな声をあげて、健人は海の波間から、航のほうへと視線を移しました。おわり**********************ご愛読ありがとうございました(^^)次の話がでてるので、またすぐに更新できるかと思います。次の話は、『祈りの人』の大天使ラファエルのところで、働き始めた頃の話をちらりと書いていきますv