祠:泉 10
祠:泉 10 ~泉~ 結婚を目前に控えた航と渚は、のんびりと泉のそばを 散歩していました。 二人が婚約をしてから、両家へ挨拶をすませ、日取りを決めてと、 とんとん拍子に話が進んでいきます。 二人で住むマンションを決め、渚は仕事を減らして、 二人の生活を優先することにしました。 「ここの泉って、不思議ね」 「夏でも枯れないんで、神々の住む世界とつながっているんだそうですよ」 夏の日差しと、濃い緑の色彩が目の前でちらちらと踊ります。 渚はときおり吹く風に、心地よさを感じて目を細めました。 何を話すでもなく、のんびりと佇んでいると、航が口を開きました。 「俺、どっちでも良かったんです」 「え?」 何の話かと、きょとんとして航を見上げると、 いつもと同じように優しく微笑む航の瞳が渚をじっとみつめていました。 「俺のおかげで、島になじめたと言っていたでしょう?」 「ええ」 島に越してきたはいいものの、島の独特な雰囲気や文化になじめず、 元の場所に戻ってしまう人も多くいました。 健人は、子供だったためなじみやすかったかもしれませんが、 渚は、もしかしたら、なじめないのではないかと航は考えていました。 「渚さんに、この島に残ってほしいと思いました」 最初のころは、それこそ必死になって、つなぎとめようと していましたが、渚と一緒にいるうちに馬鹿らしくなってしまいました。 「一緒にいられれば、それで良かったんです」 なので、渚が島になじめないと言ったら、 自分も渚と一緒に島をでるつもりでした。 渚さんが、許してくれればですがと頭を掻いて笑う航の手を 握って微笑みます。 「私、この島が好きだわ」 「俺もです」 そのまま二人は手をとりあって、泉のそばをはなれます。 泉の近くにある神社へ参拝するために、二人は茂みをかきわけて、 山頂へとつながる石段を登っていきました。 おわり *******************************ご愛読ありがとうございました(^^)