祠:森 11
祠:森 11 ~推測~ 風もなく、あたたかい午後の昼下がりに、 蒼と玲は神社の倉にある古い資料を整理していました。 古く崩れ落ちそうな巻物を丁重に扱いながら、外へと 出していきます。 「うちじゃ、腐らせてしまうからね」 「もったいない気もするけれど…」 神社にある古くから伝わる古い書物や巻物を、 近くの博物館に寄贈することになったのです。 近く、この島に伝わる民話や伝承の展覧会を開催するという ので、その日に間に合わせるために大忙しでした。 頭領自ら書かれたこの島の記録は、どれも優しい視点で 描かれたもので、特に本島から嫁いできたという初音の 女性の記述が多くありました。 女性と出会ってからの島の記録は、さらに詳細になり、 慈しみにあふれた様子が玲にもわかります。 「玲ちゃんはさ、初音が大切にされてるって、前に言ってたよね?」 「あ、はい」 ずいぶん前に宮司さんに言った言葉を、そのまま蒼にも 話したことがあります。 頭領自ら描いた初音の姿絵も残っているくらいです。 初音という女性は、本当に素晴らしい女性だったのだろうなと、 推察したのです。 ですが、蒼は違う考えをもっていました。 「頭領が大切にされていたんだと思うよ」 「え?」 鬼ヶ島と呼ばれたこの島に、寄り付く本土の村人はいませんでした。 その中で唯一交流があったのが、初音の一家だったのです。 外部から遮断されたこの島で、初音は唯一の光にみえたのだろうと 語ります。実際、初音が嫁いでからというもの、本土の村人と 島との行き来が増えたと記録に残されていました。 「嬉しかったんだと思うな」 玲をじっとみる黒い瞳が、一瞬時を越えて、その時代の 頭領の姿と重なったように思えました。 ふわりとしたあたたかく、優しい風が玲を包んだような気がして、 それから負けじと蒼に言い返します。 「その頭領じゃなかったら、初音は嫁いだりしなかったと思うわ」 つんとすまして言った玲に、きょとんとした顔をしてから、 蒼は笑い出しました。 頬を緩めて玲も笑います。 緑の森に風が吹いて、大きな御神木の杉の木の上では、 一羽の烏が楽しそうに鳴いていました。 おわり**************************************ご愛読ありがとうございました!10月の間に、最後までアップできてよかったです(^^)11月から、また新しい物語をアップします。どうぞ、よろしくお願い致します!にほんブログ村 ↑いつも応援ありがとうございます!Happy&Love