過去世:『領主と娘 3』
『領主と娘 3』 娘一家が、町を離れてまだそう遠くへ来ていない頃、 背後から、地響きが聞こえてくるのに気がついた。 馬の手綱を取っていた父が、驚いて振り向くと、武装した兵士が立派な馬に乗ってこちらへと 向かってくる。 そのなかでも、一番身なりのいい人物を月明かりで確認して目を疑った。 「まさか…嘘だろう?」 「お父さん。」 娘も荷馬車から身を乗り出して驚いている。 領主が、娘を逃がすまいとして追ってきたのだ。荷馬車で、逃げ切れるはずもなく 観念して、荷馬車から降りた。 「覚悟しておきなさい。」 娘を哀れむようにみてから、跪いて、領主の到着を待った。 領主は、娘達の元へとくると、怒りを抑えきれぬといったように 馬上からみおろしている。 「なぜ、逃げた。」 「も、申し訳ありませ…」 「そんなに、私の妻になるのが嫌か。」 ガタガタと震えている娘を射るようにみる。 「嫌かと聞いている。」 「…は…」 「答えよ。」 「…お、お許しくださいませ。」 娘が額を地にこすりつけていると、領主が馬から降りるのがわかった。 自分の前に来て、強く腕を引っ張られる。 「こい。」 「い、嫌ですっ!」 「こいっ!!」 「やめてっ!やめて下さい!!」 娘の腕を引っ張り、岩陰へと連れて行く。腕を振り払おうとしたが、 相手の力が強くてうんともすんともいわない。 目の前の男が恐ろしい。市場で会っていた時とは全然違う。 目は血走っていて、狂っていると思った。 「領主様っ!!」 悲痛な叫び声を上げ、追いすがろうとした家族がいる方から、 鈍い音が聞こえた。 悲鳴とうめき声に、なんとか顔だけ向けると、血しぶきをあげて 倒れる家族がいた。祖母の体が痙攣している。 信じられない光景だった。 少なくとも、目の前の領主がやらせたなどとは信じられない。 民に慕われる領主だったのだ。 領主に引きずられるように岩陰に連れていかれ、突き飛ばされた。 強い力に足が踏ん張ることができずに、倒れた。 領主、いや、今となっては、ただの男が覆い被さってきた。 「いやっ!いやーっ!!」 泣き叫んで、男を押しやろうとするが、びくともしない。 男は、娘に何度も何度も耳元で囁く。 娘は、なんとか抵抗をしようと、自由になる右手を地面に伸ばした。 固い物が、手のひらに転がり込んできたので、勢いよく 男の頭に向かって振り上げた。 鈍い音と男のうめき声がして、それから男は娘の体に被さったまま動かなくなっていた。 男の頭越しに見える満月が大きく見えた。 領主は、娘の家族も弟を残して死んだ。弟は、どこかへ隠れたようだけど、 兵士も探す気にならなかったようだ。 兵士は、死んだ領主と娘を連れて町へと戻った。 娘は、領主を殺した罪により処刑された。 最後に娘は、うつろな目をして語った。 『家を失い、家族を失って、私も死にます。 こんなにヒドイ目に合わされたというのに、なぜでしょう。 あの満月の夜。何度も何度も苦しそうに辛そうに『愛している』と囁いた声が 耳から離れないのです。 まるで、“とても寂しい”と叫んでいるようでした。 あの声を思い出すたびに、私は、とても胸が苦しくなるのです。』 終わり これが、思い浮かんできた時、書けなくて書けなくて(汗) 似たような過去がいくつかあるので、どうやら繰り返してるみたいです。 (『アーサー王伝説』みたいに) 娘の情緒が育ってないだけなのか、ただ単に、全く恋愛対象として、 考えられないのかが謎ですが~。 『権力者』に『強引』にっていうのが、私の中で、ひどい嫌悪感があるので(苦笑) そこかな~っと。 課題の一つなんですよー。