如　　月

座布団をあれこれ置きて盆支度　　沙夢

コロナ禍でことしは帰省者は少なく盆の用意もさほどしなくてもよかった家庭が多かったのではないでしょうか
それでも夏座敷を開け放し座布団の置き場をあれこれ考える
お客さんの顔を浮かべながら楽しい情景が見えている句である

蜩を背に浴び学ぶ外国語　　久庵

お孫さんがおられる年でこの4月に短大に入学された
コロナの関係で授業が遅れているということで今日の句会も不在投句であった
蝉が何語かわからないけど一生懸命鳴いているそれを背にしてこちらも何語かわからない外国語を学んでいる
学生ならではの夏の句である

秘密めく砂絵連れ去る盆波よ　　寂如

盆波が兼題であった
海岸の砂場に何か書かれてあった
彼と彼女の仲良くしている絵か
盆波が浚っていったので何が書かれていたかはわからないが消されてはなお秘密めくのである
意味深な句である

咲き誇るハイビスカスや猫逝きぬ　間去留

大切に飼っていた猫が逝ってしまった
哀しい別れである
その悲しみとは反対にハイビスカスが咲き誇っている
人生あざなえる縄である
その対比が上手い句である

雷鳴に震へかすかな潦(にわたずみ) 酔桜


潦とは雨が降って地上にたまり流れる水のことをいう
その水が雷鳴にかすかに震えているというのである
細かい観察である
私の私淑する仏教詩人坂村真民は「[よく見れば薺花咲く垣根かな］という芭蕉の俳句があるが
この観察力が大切ですこれはいい俳句ですこのよさがわからない人は俳句をやめなさい」と言われた　何事も観察が大切である「万物静観すれば皆自得する」という言葉があるがこの作者は毎回細かい観察力を以て句づくりをしておられる

盆波や父の遺せし舟ひとつ　　碧雲


久庵さんの父親は半農半漁だった
そのあとを久庵さんが引き継ぐわけだが久庵さんの気持ちになって舟が一つ残ったがどうしょうというなりすまし句である
久庵さんが言うには残された舟はひとつではない数艘あるというなお大変なことだ
間去留さんの句にも「盆波や主亡くせし漁師小屋」というのが出句されていた
それぞれが思いやるというのも句会のいいところだ