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グライダーのように

 ビル・クロウの『ジャズ・アネクドーツ』(村上春樹訳、新潮社)は楽しめる。僕がジャズのことをもっと知っていたらもっと楽しめるはず。天才ジャズ・ミュージシャンの織り成す荒唐無稽のエピソードの数々をあちらこちら仕事の合間に読み散らした。

 ある夜ジーン・クイルがステージを降りようとしているといっぱしの批評家気取りの青年がいった。

「あんたのやってることって、チャーリー・パーカーそっくりに吹いているだけじゃないか」

 ジーンは手にしていたサキソフォンを差し出していった。

「ほれ、お前やってみろ。チャーリー・パーカーそっくりに吹いてみろや」♪

 独創というものはないといっていいくらいで、自分の考えと思っていてもそうでないことの方が多いくらいである。人に導いてもらっていけない理由はない。例えてみればグライダー。飛行機に引っ張られることもあれば、ジープが引っ張ることがある。自力で飛べるようになるとロープを切って後は自力で飛行する。

「でも最後は墜落するんじゃないですか?」

 飛行機だからそんなことはないともいいきれない。しかしそんなことは墜落する時に考えればいい。



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