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立ち直る神谷美恵子

 精神科医の神谷美恵子は若い日に恋人(もっとも交際したわけでもなく、恋人同志として会ったこともない)を亡くし、その死に痛手を受け、その影を何十年も引きずった。

 神谷はその経験によって生きがいを喪失した。好きな人を亡くしたらもはや生きる意味がない、と思うのはよくわかる。死別でなくても、別れには常に喪失感を伴う。

 神谷はやがてこの経験をバネにハンセン病患者のためにつくした。恋人を失って生きがいを喪失するというのはよくわかる。しかし、この経験をバネに『生きがいについて』といった著書や、ハンセン病患者のための実践を生み出した神谷のような例は少ない。

 失恋の痛みから二度と立ち直れないと思っていた神谷が愛の喜びに酔いしれる。常はあまりに理性的な神谷が…

「かつては人の世を捨て、すべての女としての希望を捨て、この同じ天と地の間に冬枯の葦の如くたたずんでいた自分が、今は初春のいぶきに総身をはずませつつここに立っている。同じ人間が十年の間にこんなに変われるものだろうか」

「男と女の愛と言うもののふしぎさ。まったく未知の世界にさまよい出てただただ驚き、恥じ入り(自分に対して)、そしてしびれるような喜悦に身をおののかせている。男の人の愛に対してもう拒まなくていい、自分に対してさからわなくてもいい、ということは何という夢のような事だろう」

 一九四六年、神谷は結婚する。三十二歳だった。



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