リッカー (第五章)第五章【作戦、裏切り、永遠の別れ、新たなる脅威】一同はカプランがテントを張っている地下通路出口へと戻った。状況を知ったカプランとバランは強い悲しみに襲われた。 結局、テントは地下通路内に設置して、万全の体制にした。そして暗いテントの中で会議が行われようとしている。 「これは非常事態だ。恐竜に未知の生物・・・ありえない。しかも犠牲者が二人も出ている・・・」 隊長がまず仕切る。 「俺が思うにとっとと撤退をする方が良いかと思う。そうすれば余計な犠牲者は出ない」 O.B.はいつもと同じ意見を言う。大抵の隊員もそれと同意見のはずだ。しかし、少なくとも隊長は違っていた。 「俺達は特殊部隊だ。そして目的は一体何か。それはこの島にいる者たちを保護する。それなんだ。だから、一通り人物を発見するまでは・・・」 隊長がそこまで言った時、突っ込みが入った。アフリカ出身のマインだ。それまで黙っていたが、我慢の限界に来たらしく、かなり怒っている。 「だったら隊長。俺達を保護してくださいよ。俺達の安全を守るのも、隊長の役割のはずだ!」 珍しく起こるマインに一同は驚いた。隊長は反論もしなかった。しかし、考えを変えなかった。理由は少し、ゆるくなっている。 「明日拠点の建物に行く。そこで人が居なかったら撤退しよう。それがいいだろ・・・」 O・B・は納得が出来なかった。早いところ帰って安全に過ごしたい・・・。 隊長が切り上げてみな、自由行動になった。 しかし、テント内なのでそんなにはしゃげない。 「ネイオ。やっぱり俺の予想は当たっていた・・・嫌な予感がしたんだよ。とっとと帰りたいぜ」 スコットが話しかけてくる。 「あぁ、俺も帰りたい。帰ってネットゲームしたい・・・」 ネイオは冗談交じりに答える。しかし帰りたい気持ちは同じだった。 皆が寝静まった深夜三時。一人うごめく人影が見えた。 それ以外はピクリとも動かない。よほど疲れたのだろう。 その人影の正体はO・Bだった。 彼は島の地図、そして自身の武器、さらには隊長の武器をバッグの中に入れる。 「ふぅ、あばよ。これで二度と会うことはないぜ」 O・Bはそういうとテントを出て、地下通路も出た。そして薄暗い森の中を、足早に駆け抜けていった。 バランはその約二時間後、いち早く目を覚ました。昨日のカプランの処置のおかげで、足の痛みは消えた。しかし、どういうことか熱っぽく、嘔吐感がある。 「くそ・・・風邪をひいたか・・・?」 バランはどうにか気を休めようともう一度横になった。しかし、一行によくならない。バランは嫌な予感を覚えた。嘔吐感がいっせいに湧き出てくる。 バランは一旦外に出ることにした。 ネイオは起きた。続いてスコットも起きた。 「おはよう、スコット。よく眠れたか?」 ネイオは頭をかきながら言う。 「馬鹿か。お前、いつ怪物がやって来るかとびくびくしてたんだぞ。眠れるかって・・・」 スコットはこう答えた。しかし、かなり深い眠りについていたようだが・・・。 その時、ネイオは気付いた。 「おい・・・二人足りないぞ・・・」 「お前・・・ゼイドとナイズは死んだ・・・思い出させるなよ」 「違う、ゼイドとナイズを抜いても二人足りない・・・何故だ」 すると次々とメンバー達は目を覚ました。その中でマニーがそのことに気付いた。 「おい、O・Bとバランが見当たらないぞ」 その言葉にメンバー達は驚いた。 「まさか、怪物がやってきて・・・」 カプランが意見を述べる。しかしネイオによって反対される。 「それはないと思いますが。もしそうなら誰かが気付くし、全員襲われると思います」 「だったら・・・」 その時、テントの入り口からバランが入ってきた。 「あ、皆おはよう」 「そんなにあっさり答えんじゃねー。心配したぞ」 スコットが土着く。 「足は大丈夫か?そういえばO・Bは?一緒じゃないのか?」 隊長が聞く。 「足はおかげさまで・・・O・Bは知りません・・・見てませんね」 バランはいたって平然を装って対応した。あの後二回戻してずっと外にいたのだ。 そして、バランは自分の変化に気付いてきた。視力が上がったことに・・・。 その時、隊長が気付いた。 「あれ?俺の銃がないぞ?」 隊長は皆と違う、連射も利き強力な愛銃がなくなっていることに気付いた。 「私のはありますが・・・何なら・・・?」 マインが隊長に言うが首を振った。いらないようだ。 すると、今度はマニーが叫んだ。 「何でだ?島の地図がなくなった・・・」 すると今度はマニーの元に全員が集まる。 「寝る前にボークと今日の行く路を確認したんだ・・・枕元においておいたんだが・・・」 「おい、O・Bのバッグやら・・・彼の荷物がすべて消えてるぞ」 カプランが叫んだ。 一同は少し考え込んだ。 「となると答えは一つ。O・Bが奪って出て行ったんだ。やけに反感してたからな・・・」 隊長が言う。さらに続けた。 「危険だということが分からないのか・・・」 一同は軽い朝食を済ませたうちに外に出て目的地に向かうことにしたのだが、あることに気付いた。 「おい、地図がないんだぞ。どうやって目的地に行くんだ?」 スコットが全員に問う。 「そうだな・・・言われればだ・・・」 隊長は少し考え込んだ。そして意を決したように言った。 「仕方ない!とりあえず記憶を頼りに歩く。昨日マニーと確認をしたからな。よし、ついて来い」 隊長を先頭に歩き出した。 「おい、どうしたんだ?」 ネイオは最後尾で苦しそうに歩くバランを発見して言う。 「あ・・あぁ大丈夫だ。それより早く行くぞ」 バランに急かされネイオは渋々先を進んだ。バランは先ほどの症状がさらに強まってきた。 ここは昨日、謎の怪物と一戦やったところ。その傍らにレインコートが何かに被せてある。そのレインコートが動いた。そしてレインコートをどかして人間が出てきた。 服はズダズダに。体のあちこちに傷がある。顔も死んでいる。人間とは思えぬ声を発する。これはリッカーに襲われて、リッカーを作り出したウイルスが体に入り込み、脳と体がある程度残されていれば起こる現象。人間を半分リッカーにする作用がある・・・。一般的に、これをゾンビという。さらにこの体の主は元特殊部隊員、ナイズ・ビギングである・・・。 部隊一同はとりあえず隊長とマニーの勘を頼りに拠点となる建物を探した。一応山道のように、道にはなっているのでこの先にあるはずなのだが・・・。 「どこなんだよ、隊長」 スコットが呆れて言う。 「この先にあるはずなんだ、少し待っていろ!」 厳しい口調で隊長は命令を下した。しかし、待つのが苦手なスコットは我慢が出来ない様子だ。持参してきた缶ジュースを口に含める。 その時だった。聞き覚えのある轟きが地面と隊員達の耳を揺さぶった。 「やばいぞ・・・恐竜だ!」 ネイオは直感した。すぐに大きな足音が聞こえてくる。 「逃げろー!」 隊長が叫んだ。すると、背後の茂みから木々をなぎ倒す音が聞こえる。すると、林道の奥から巨大なスピノサウルスが現れた。 「あいつだ、俺とバランを襲ったのは!」 マニーが解説をするがいち早く駆け出したスコットによって止められる。 「早く逃げるんだよ!」 恐竜はそれほどの速度ではないものの、巨体ゆえ隊員達より少し早いスピードで走ってくる。 最後尾はやはり負傷で早く走れない、調子が思わしくないバランである。 ネイオはそれを見つけ、バランを被いて走ることにした。 「大丈夫か?俺に捕まって、早く・・・」 ネイオがそう言って方に手をかけたとたん、バランは目が裏返したように光った。 そして突然、ネイオに向かって襲ってきた。何とか避ける。 「なんだ、バラン!何があったんだ」 しかし、バランは言うことを聞かずにネイオのほうに向かってくる。 「くそ・・・バラン!」 「ネイオ!!早く来い!」 先を行くスコットから声をかけられ現実に引き戻された。バランのことに必死で恐竜を忘れていた。見るとすぐそこまで迫っているではないか。 ネイオはその場を離れ、スコットらのところへ向かった。 怪物化、ゾンビ化したバランは走れない。それを恐竜に狙われた。 恐竜はゾンビ化したバランを頭から噛み付いた。そして丸々持ち上げて首を左右に大きく振る。こういう肉食獣に見られる光景で、肉を引きちぎるために行う行為だ。 「バラン!!」 マインがバランを助けようとするがネイオに止められた。 「待て、マイン。あいつはもう人間じゃない。化け物になっちまった」 ネイオは走りながら叫んだ。皆は安全地帯を求め走った。恐竜はバランを食いあげた。 そこで満足したのか、ゆっくりと後戻りを始めた。 部隊員達はようやく足を止めた。追ってこないのを知ったのである。 すると、すぐにマインが声をあげた。 「ネイオ・・・さっきバランは化け物になったって言ったよな?どういうことだ・・・?」 マインの質問にネイオは息を整えてから答える。 「あぁ、目を裏返したようになって、理性を失ったようになって・・・俺を襲おうとした」 「何でそんな状態に・・・」 マインがつぶやいて座り込んだ。するとスコットが口を開いた。 「俺、映画でみたんだけどよ・・・いや、ブックセンターで読んだんだけどよ・・・」 ブックセンターとは特殊部隊本部にある情報室のようなところである。 「あう言う事例は過去、数十年前にあって・・・その時は科学ウイルスを使って化け物を作っていたんだって。それを放っていたらしいんだ・・・。今回もそうかもしれない・・・」 スコットがいう事件は三十七年前、オーストラリアで起きた事件で、このときは犬に科学ウイルスを注入し暴犬化させて街を襲った。結局軍によって鎮圧されたが、そのウイルスを作った施設はまだ発見されていないという・・・。 「ウイルスなら説明はつく・・・。恐竜もあの化け物もそうかもしれない。バランが化け物化したのも恐竜から注入されたのかも知れない。でも、何故この島が感染したんだ?」 ネイオが説明をする。そしてその中の疑問を隊長が解説をする。 「感染したのをこの島に放ったのかもしれないぞ?一応実験か何かで・・・」 「そうならここは危険だ・・・俺達も感染しちまう」 マニーが怯えながら言う。 「大丈夫、空気感染はしないだろ」 隊長が元気を与えようとする。しかし、スコットにより破られた。 「どうだかな・・・」 |